北島亭(きたじまてい)/四ツ谷

華美な装飾を排し、力強い本質を求めるフランス料理愛好家たちの最終目的地として長年にわたりその名を轟かせている「北島亭(きたじまてい)」。創業は1990年で、食べログのブロンズメダルや百名店への継続的な選出によって、その評価は揺るぎないものとなっています。
料理と同様に華美な装飾が排除された店内。店内は3-4卓といったところであり、いずれのゲストも鉄の胃袋を持つ食いしん坊ばかり。写真ばっかり撮ってる女さんなどひとりもいません。

北島素幸シェフは20代後半で渡仏し、フランス料理を学ぶ者にとっては聖地とも言える伝説的なレストランの数々で経験を積んだ大ベテラン。日本のフランス料理界隈でも第一線で数十年活躍しており、今でも毎朝6時過ぎに店に入り、7時には市場へ向かうという日課をこなしているそうです。
以前お邪魔した際は無かったと記憶しているのですが、現在はペアリングのプランも用意されていました。われわれはシャンパーニュに始まり合計5杯のプログラムを注文。割とたっぷり注いでくれてひとりあたり1本近い酒量なのですが、それでも9千円かそこらです。
アミューズにポンデケージョ。モチモチとした食感が心地よく、チーズの風味が非常に濃厚。焼きたての熱々で提供され、いきなり量が多いのも当店流。既に泡が空いてしまいました。
続いてラタトゥイユ。定番の家庭料理を洗練させた逸品。それぞれの野菜の形や食感をあえて残しつつ、爽やかな酸味を持つフロマージュブランを添え、ハチミツの自然な甘みを加えます。こんな単純な料理がとても美味しいのが北島亭である。
オマール海老と帆立のタルタル。オマールのプリプリとした食感と濃厚な甘み、そして帆立の繊細な甘みが主役であり、どこかカレーを思わせるスパイシーなアクセントを添えています。キャロットラペも王道の味わいであり、力強い味覚です。
パンはコロンとし丸パン。素朴ながらしみじみ旨いのですが、いかんせん二郎系フレンチと名高い店なので、どうしても後半の胃袋の余白を察しながら恐る恐る口にしてしまいます。
フォアグラのポワレ、とうもろこしのクレープ添え。北島亭のスペシャリテの一つとも言える、非常にボリュームのあるひと皿。トロリととろけるように仕上げた大量かつ濃厚なフォアグラ。その脂の旨味と甘みを地味豊かなトウモロコシのクレープがドンと受け止め、重層的で忘れがたい味わい。そしてボリューム。言っておくが、まだ2品目扱いだからな。
3品目はシロアマダイのウロコ焼き。ウロコを剥がさずにそのままパリパリに焼き上げており、ウロコが香ばしく逆立ち、サクサク、パリパリとした独特の食感を生み出します。身そのものはシットリと柔らかく上品な脂の旨味が閉じ込められており、添えられたブランダードがソースのように機能し、鯛オン鯛で、人はそれをマジで草と呼ぶ。
4品目はメインディッシュとして鴨モモ肉のコンフィをチョイス。低温の脂で長時間かけてじっくりと火を通すことで、肉質は骨からほろりと崩れるほど。そこに豚足のミンチを添え、そのゼラチン質がもたらすネットリとした食感と濃厚な旨味が、鴨にさらなる深みとボリュームを与えます。可食部は300グラム以上ありそうだ。
満腹で気絶しそうな頃にライムのグラニテがやってきました。ライムの酸味がビシっと強く鮮烈で、口の中に残っていた脂の余韻をすっきりと洗い流してくれます。甘さは控えめで、まさに次の甘美なデザートを迎えるための完璧な準備を整える役割を果たします。
デザートもまたクラシックでボリューム満点。私はクレームキャラベルをチョイス。卵黄とバニラビーンズをふんだんに使った、非常に濃厚なひと品であり、スプーンを入れるとしっかりとした抵抗を感じるような昔ながらのスタイルです。添えられたバニラアイスクリームもプリンに負けず劣らず濃厚。ちなみに連れは丼でクレームブリュレを食べ進めており、半分気絶していました。
食後の小菓子も山盛りやってくるのですが、流石に全てお持ち帰りさせて頂きました。自宅に戻ると腹を空かせた家族がウマイウマイと瞬で食べ切ってくれ、何だかとても良いことをした気分に浸ることができます。
焼き栗と共にハーブティーでフィニッシュごちそうさまでした。骨太で質実剛健なフランス料理を失神するまで食べ、しっかり飲んでお会計は3万円。現代のファインダイニングの潮流とは逆行するスタイルであり、本質は装飾に勝ることを力強く証明したディナーでした。

今回は4品コースなのですが、SNSで「北島亭5品コース」というパワーワードを見かけたという都市伝説もあり、内臓が丈夫なうちにチャレンジしたいところ。「今が人生で一番若い」とはよく言われますが、当店やロブションなど破壊力抜群な店こそ若いうちに訪れておきましょう。

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