6 (six、シス) /古宇利島(沖縄)

沖縄本島北部、美ら海水族館の東に浮かぶ「古宇利島(こうりじま)」。その島の山の斜面にひっそりと佇むフレンチレストラン「6 (six、シス) 」。ナビはおろかグーグルマップですら迷子になる秘境にあります。
絶景かな絶景かな。これぞエメラルドグリーンという海の色。世界でもトップクラスに眺望が素晴らしいフランス料理店でしょう。

小杉浩之シェフは名古屋の「シェ小杉」「イレテテュヌフワ (Il etait une fois)」などで好評を博した後、奥様のご実家である沖縄へと拠点を移し、2018年に当店をオープンしました。マダムの接客が全盛期の篠原ともえのようで超かわいい。世界平和に通ずるホスピタリティです。
お料理はおまかせのみ。イワシのタルトではじまりはじまり。私は運転があるのでアルコールは抜き、連れも未成年だから飲めない。20皿以上出るフランス料理を水だけで通したのは生まれて初めてかもしれません。
続いてカレーパン。ネタバレになるので記しませんが、想像を絶する物体に突き刺さって登場するのでお楽しみに。
怒涛のように押し寄せるアミューズの波。いや、津波と呼ぶべきか、狂気すら感じる手づかみ料理の数々。それぞれのプレゼンテーションの楽しさはさることながら、その一品一品がしっかりと美味しいのが素晴らしい。予約時間から最初の料理が出るまでに30分を要して若干の手持ち無沙汰感はありましたが、この数ならびに質であれば仕方ないかもしれません。
どこまでがアミューズでどこからが前菜なのか幸せな悩みがあります。こちらはハマグリ。見た目は派手ですが、そのエキスと共に手堅い味わい。
ホタテはミキュイ(半生)で。卵黄を用いたソースが良く合い、また、用法用量を守って正しくトリュフを使用しており、ああ、コッテリとしたシャルドネと合わせて楽しみたかった。
パンはお料理に合わせて3種。粉は全国津々浦々から取り寄せており、サイドメニューに至るまで神経が配られています。
ポップなダイコンに隠れていますが、中には生のイカが詰まっています。ケッパーやオリーブ、ミョウガなども組み込まれており、酸味のきいた大人の味わい。
ロワイヤル(茶碗蒸し)にはたっぷりのキャベツにセイコガニ。百合根のホクホクした食感にハマグリの出汁が響きます。
サザエはフキノトウ味噌で。サザエのビターな磯の風味に旨味の強い味噌の味。これは日本酒が欲しくなる。
ホックリ焼いた空豆に苦みのあるキャベツ系の葉物野菜。スープはハマグリ再登板。ちょっと麺被りが続いて若干飽きが来ました。
何故か日本蕎麦が出てきました。行者ニンニクで風味をつけたうずらの卵黄やキャビア・トリュフなどが並ぶのですが、これは味が多すぎてイマイチ。企画倒れな一品です。
カリフラワーが絶品。数分おきにバターをかけながらじっくり長時間かけて焼き上げるそうです。カリフラワーとバターだけでこんなに美味しくなるんだ。たかがカリフラワー、されどカリフラワーと熟考するに値する一皿でした。
苦み強めな葉物野菜の中には郷土料理のじゅーしーが。ざっくりと混ぜ合わせながらお米のサラダのようにして頂きます。
メインはキントア豚。シンプルに焼き上げ山椒のソースで頂きます。肉そのものの味が強く美味しいのですが、これまでの手の込んだ料理に比べると素朴に感じ、相対的に記憶に残りませんでした。また、近所に今帰仁アグーや本部牛などイケてる肉はあるのに、わざわざヨーロッパから取り寄せる必要があったのかという疑問も残る。
デザートは少量多皿芸人の面目躍如、ラブリーの鈍器とも言えるプレゼンテーションです。ひとつひとつの小菓子がいちいち旨い。お気に入りはハーブティを炭酸水で割ったお茶(?)。今度おうちで真似してみよう。右の石にのった焼き菓子には来店ゲストのナンバリングが記されています。キリ番ゲット世代には堪らない演出です。
金魚鉢のようなグラスで頂く紅茶でごちそうさまでした。

お料理代金は1.8万円。それに酒代と税サが乗る形であり、ふたりで1本を分けて飲んでも3万円でお釣りが来る仕組み。東京であれば考えられないほどの費用対効果の良さです。また、イノベーティブ系のレストランは妙ちくりんな料理が続く割に全然美味しくないことが多いですが、当店は一皿一皿がしっかりと旨い。そのままビッグライトで大きくすればアラカルトの1皿としても成立し得るクオリティの高さです。
加えてこの眺望の良さは何物にも代えがたい。美しい海と緑を眺めながら夕日が刻々と落ちていく様は何よりのごちそうです。車でしか来ることができず酒が飲めないのが最大の弱点なので、酒を受け付けない美食家をどうにか探し出し、ハンドルキーパーの役割を押し付けて訪れると良いでしょう。那覇から車で2時間はかかるから、運転手の分は皆で出してあげようね。

食べログ グルメブログランキング

6

関連ランキング:イノベーティブ・フュージョン | 今帰仁村


関連記事
1年で10回沖縄を訪れることもあります。1泊15万円の宿から民宿まで幅広く手がけています。
TACが世に出した一風変わった沖縄本。もはやガイドブックではなく参考書の域です。非常に情報量が多く、かつ、うまく整理されており読みやすい。大判ではないので持ち歩きやすいのも素晴らしいです。オールカラーの割に高くない。数多ある沖縄ガイドブックの中では突出した存在です。