キッチンパンチ/中目黒

1966年創業の殿堂入り洋食店「キッチンパンチ」。食べログでは百名店に選出。中目黒駅から徒歩数分の飲食店が密集するエリアに位置し、必ず行列があるのですぐにわかるでしょう。「鮨おにかい」とか「聖林館」とかあの辺です。ショーケースに入った食品サンプルが渋い。
もともと座席は20ほどあるのですが、コロナ的に半分ぐらいしかゲストを入れていません。食事前はマスク着用、食事中は黙食と徹底しているので、いっそのこと独りで訪れたほうが良いかもしれません。回転は悪く、シェフおひとりで1オーダーづつ順番に調理しているので気長に待ちましょう。
看板メニューのエビフライ。どわー、こいつはミラクルな大きさです。ちょっとした折り畳み傘のようなサイズ感であり、北品川「Ab・de・F(エビデフ)」の4,125円のエビフライよりも大きいのではないか。しかもそれが2本。それでいて単品で1,500円。中目黒の奇跡である。
裏側のモブキャラたち。こざっぱりとしたキャベツサラダに洋食屋的(?)なパスタ。ご飯みそ汁付きの定食だと1,720円なのですが、小食の方などは単品でも充分に満足できるボリューム感です。
こちらも看板メニューのオムライスに看板メニューのハンバーグを「のっけ」。そう、当店は「トッピング」などというチャラついた言葉は用いず、そうした全ての行為を「のっけ」と表現するのです。
オムライスにつき、今ドキのゆるふわ系からは一線を画し、しっかりと火を入れた薄焼き卵で包む古典的なスタイルです。チキンライスのベーシックな味わいも含め、オカンが日曜日の昼に作るオムライスを思い出しました。
トッピング、もとい「のっけ」のハンバーグ。こちらも昨今の肉汁ドゥバー系からは距離を置き、しっかりと肉の食感と味わいを感じるオーセンティックなハンバーグです。教条的で、まん真ん中の味わいです。
いずれのメニューも千円前後。少し贅沢して大盛り&「のっけ」をしても1,500円に収まる価格設定。感じのよいマダムの接客も心地よく、出がけに遠くの厨房から「ありがとうございました!」と礼を忘れないシェフの姿勢も気持ち良い。中目黒でのソロランチは当店で決まりです。

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目黒は焼鳥やトンカツ、カレーにラーメンと生活に密着した飲食店が多く、そのいずれのレベルも高い。地味ですが豊かな食生活が約束されている街です。
市や区など狭い範囲で深い情報を紹介する街ラブ本シリーズ。2015年の『目黒本』発売から約4年の年月を経て、最新版が登場!本誌は目黒に住んでいる人や働いている人に向けて、DEEPな目線で街を紹介するガイドブックです。

ラ・クロシェット(la clochette)/羽咋(石川)

石川県は羽咋市にあるミシュラン1ツ星フレンチ「ラ・クロシェット(la clochette)」。公共交通機関でのアクセスは難しいですが、田んぼの中にポツンと佇む情景は唯一無二のものでしょう。雪が積もったりすると、よりクールかもしれません。
入り口のドアを開くとカランカランと鐘が鳴り、店名の「小さな鐘」に因んでいます。建屋は瓦屋根で独特のエクステリアなのですが、内装は窓が大きく健康的な雰囲気。

橋田祐亮シェフは東京都出身。東京やフランスの名だたるレストランで腕を磨き、帰国後に奥様(彼女も料理人だ)と共に2015年に「夢喰庵」オープン。2017年に移転リニューアルの形で当店を開業しました。
私は運転があるので飲みませんでしたが、連れが注文した「ワインペアリング」が風雲急を告げる展開。「シャンパーニュです」とお出し頂いたグラスがチリ産であったり、南仏のどす黒い赤ワインがキンキンに冷えていたり、ペアリングとは思えないほど気前の良い注ぎっぷりであったりと、良くも悪くもワインについてはド素人です。きちんとしたワインと共に料理を楽しみたい方は持ち込みでどうぞ。できるかどうか知らんけど。
アミューズは能登豚のパテにローズマリー風味のポテトチップス(?)。土台のしっかりした味わいであり、泡に合いそう。
フォアグラのムース(?)に七尾産のカツオのタルタルをタコススタイルで。ひと口サイズながら凝りに凝った味わいであり、ガチプロの香りを感じます。
能登島産のウニ。凝縮感のある味わいであり、羽咋産のカリフラワーのババロアの土っぽいニュアンスに良く合います。
パンは2種であり、いずれも素朴な味わいですが、全体を通してコッテリ目なソースなので、これぐらいプレーンなものでちょうど良かったです。
宇出津産の毛ガニ。宇出津とは能登半島の北東にある小さな港。東京の人にとって石川県はあまり毛ガニのイメージがありませんが、中々どうして旨味が詰まっており、海の幸バンザイと快哉を叫びたくなる美味しさです。バターナッツかぼちゃのムースやココナッツのエスプーマなど、センスを感じる調理も魅力的。
アワビ。こちらも宇出津産。グニグニと逞しい歯ざわりが堪りません。肝のソースが濃厚で、サマートリュフの軽快な香りにも心地よい。日本料理だと蒸し一辺倒の食材なので、やっぱりフランス料理は楽しいなと思わせてくれるひと皿です。
七尾産のアマダイと石崎海老(いっさきえび)。アマダイのバリっとした食感に逞しい白身の味わい、エビの深遠な甘味、発酵トマトのソースの複雑味など、完成度の高い味わいです。でも盛り付けがちょっと惜しい。
羽咋の遅摘みメロンのグラニテでお口直し。へえ、石川県ってメロンまで作ってるんだ。
メインは能登牛のイチボ。シンプルな調理ですが素材をハッキリと感じさせる仕立てであり私好み。右上のコロッケみたいなモノの中にはベアルネーズソース(マヨネーズっぽいソース)が詰まっており、濃密な酸味が皿の上でのアクセントとなって凄く良かったです。
メニューに「自然栽培米 はくいの夢」と記されており、リゾットでも来るのかなと考えていたのですが、なるほど甘味でリオレと来ましたか。米特有のふんわりとした甘味と乳のコクが溶け合い、小粒ながら存在感のあるひと口です。
羽咋産のシャインマスカット。先のメロンもそうですが、石川県は意外にフルーツ王国キングダムなのかもしれません。
黒イチヂクのテリーヌ。甘さにも色々あって、こちらは濃密でアダルトな甘さが支配的。アイスからはスパイスのニュアンスが感じられ、躍動的な味わいです。
手の込んだ小菓子にハーブティーで〆。ごちそうさまでした。

以上、お食事のコースで1.8万円ほど。羽咋での食事としては高価格ですが、高級食材を惜しげもなく用いたレベルの高いフランス料理であり、むしろ割安に感じました。ただ、料理は文句なしに美味しいのですが、ワインのくだりも含め、サービスがそれに追いついていないのが気になるところ。6,600円や9,000円のコースもあるので、そのあたりをチョイスするとバランス良く感じるかもしれません。

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TTOAHISU (トアヒス) /大濠公園(福岡)

大濠公園駅から徒歩5分ほどの住宅街にある「TTOAHISU (トアヒス)」。土台はフランス料理なのでしょうが、和風のニュアンスをきかせたイノベーティブ系レストランとして評判を集めています。
店内は黒主体であり照明も暗め。DJブースさながらにキッチンの窓が明るく浮かび上がります。BGMがヒップホップ生まれラップ育ちなのが面白い。

山下泰史シェフは恵比寿「ガストロノミー ジョエル・ロブション」「アムール(AMOUR)」を経て2016年に当店を開業。ミシュラン1ツ星で、食べログではブロンズメダルならびに百名店に選出されています。
生ビールやハイボールは千円を切り、グラスワインも千円かそこらから始まるので気軽に楽しめます。やっぱり酒はこのぐらいの価格帯で楽しむのが現実的だなあ。
チンチンに熱されたダブル・コンソメで始まり始まり。クリアなアタックながら深みのある味わい。
フラン(茶碗蒸し)に牛のお出汁のコンソメを敷き詰め、自家製のイクラを散りばめます。いずれも想像のし易いベーシックな味覚ですが、それぞれが丁寧な味わいであり、結果、ものすごく美味しかった。
ブリ。メタボリックシンドローム最高峰のワガママボディであり、トロトロとした脂が気の毒なほど美味しい。他方、敷き詰められたカブにネギ、柚子の風味が爽やかで、光の速さで食べきってしまいました。
でっぷりと太った牡蠣にゴボウ。スープにはマツタケの風味を移しており、牡蠣のメタリックな味わいと相俟って魅力的なお椀です。
白子のリゾット。岐阜のブランド米「龍の瞳」を起用しており、アルデンテに仕上げた食感が白子に突き刺さって溶けていく。トマトと大葉を用いた鮮やかな調味も洒落ており、これは一体何料理なのかは全く不明ですが、ベリーナイスなことは確かです。
このお料理は写真NGのため、このタイミングで飲んでいたワインの写真をお届けします。しかしこれは気取って写真NGとしているわけでなく、セモリナ粉をサラっと塗したアマダイを瞬発的に揚げており、皿の上でも秒単位で熱が入っていってしまうため、さっさと食べてしまうための工夫です。お魚のレアから楽しむグラデーションにマッシュルームのソースのコク、クミンのアクセント。まさに完璧という表現が相応しい魚料理でした。
続くお肉料理も同じ理由にて写真はございません。しかしながらというか、やはりというか、K点を余裕で超えてくる88888888な味覚。フィレ肉に優しく火を入れ、塩麹(?)やらブラックオリーブなどでシンプルにシャープに調味。ネギ塩リゾット的なお米も名脇役であり、焼肉屋のネギ塩系のメニューを4倍ぐらい美味しくしたような満足度がありました。
デザートひと品目はゴルゴンゾーラとロックフォールの青カビがコラボしたアイスクリーム。チーズ好きには堪らん味覚であり、何なら酒でも飲めそうです。
続いて安納芋のチーズケーキ。味は間違いなく良いのですが、プレゼンテーションがややそっけない。絵のような派手派手なデザートには取り組まない主義なのかもしれません。
最後にキャラメルチョコレートバター。濃厚なショコラの風味をザキザキした緑茶でズバっとフィニッシュ。ごちそうさまでした。
以上を食べ、そこそこ飲んでお会計は1.8万円。わほー、これは大変お値打ちですねえ。都心のOMAKASE頼みな店であれば1.5~2倍は請求されるほどのクオリティです。

費用対効果はさておき、イノベーティブ系と言われながらきっちりと美味しいのが素晴らしいですね。どれだけ創造性に溢れていたとしてもそこに美味しさが無いと料理とは言えず、こんな当たり前のことができていない料理人が多い中、当店のシェフはど真ん中に美味しい料理を繰り広げます。見てくれだけの自称イノベーティブな店とは一線を画す味わい。オススメです。

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ブルペン(BULLPEN)/武蔵小山

2021年10月、武蔵小山駅から徒歩15分ほどの中原街道沿いにオープンした「ブルペン(BULLPEN)」。「りんだ」「らんまる」の姉妹店であり、その業態は何と立ち食い。開業当初はウォークインでアラカルト注文もOKだったそうですが瞬でとんでもない待ち行列が生じてしまい、整理券方式となったり電話予約方式となったりと試行錯誤中です。
名前の通り野球がコンセプトの鮨屋なので、スタッフはTシャツにベースボールキャップと部活のような雰囲気。ちねみに経営は「株式会社ショートストップ」であり、野球好きな会社なのかもしれません。ただし当店の大将は佐々木男駆(だんく)シェフであり、このあたりはちょっとバスケっぽくもある。
お酒はやや高ですねえ。缶ビールが500円にワンカップの日本酒が700~1,000円と、そのへんのコンビニで買えるものだけに、千原ジュニア缶ビール1,200円事件に理解を示してしまいます。
4千円のコースと7千円のコースがあり、我々は後者を選択。まずはマグロ。7千円の鮨としては最高レベルのタネ質であり、立ち食いで楽しむには勿体ない美味しさです。
いくらかツマミもできる、とのことだったのでカツオを。豪快に炙られた皮目がバリっと香ばしく、玉ねぎ醤油(?)の風味も食欲をそそります。
カワハギ。肝の量に瞠目。美味しさのバックビルディング現象であり、思わず日本酒を追加しました。
サンマは身と脂のバランスが良く、ややメタリックな風味が心地よい。加えて当店はやはりシャリが美味しいですねえ。羽釜で高温短時間で一気に炊き上げ、骨格のある赤酢でガガガと仕上げています。
またガリも2タイプ用意されており、左翼でシャクシャクと歯ごたえを楽しみつつ、右翼で酢の風味を堪能しました。
のどぐろ。繰り返しになりますが、7千円の鮨としてはかなり気前の良い打線であり、ぼってりとした脂で思わず頬が緩みます。
エビにウニ。「インスタ映え意識しますね!」と盛りに盛ってくれ、至福のひととき。
ブリ。ノドグロと方向性が似た味覚であり、ぬらぬらとした脂が堪りません。
こちらはブリをなめろうで。にぎりとはまた違った調味であり、ブリのポテンシャルを感じさせてくれる逸品です。
エビは面白いプレゼンテーションで登場。エビの甘味とシャリの酸味が心地良く溶け合う。
赤貝は特に印象に残らず。隣客が食べていた別コースのホタテのほうが美味しそうでした。

ところでこれはイケメンすぎる私が悪いのですが、隣のギャルが所々わたしに絡んで来るのでワンチャンあるかもしれんという気分になり、落ち着いて食べることができませんでした。一斉スタートの一体的でフレンドリーな雰囲気も相俟って、爆美女だとナンパされかねない空間なので、隙を見せないよう気を付けましょう。
こちらは生のイクラでしょうか。くどいと感じる部分は一切なく爽やかな味覚。これならいくらでも食べることができます。
トロタク。シャリは少なく殆どマグロという嬉しい配合。磯の風味の強い海苔がスタイリッシュです。
ゴボウ。軽く繊維を残したコリコリとう食感が楽しい。ゴマの香りも良く、酒を呼ぶ箸休めです。
〆の巻物にはマグロがたっぷり。四捨五入すると実質マグロといったマグロ量であり、品の良い酸味が舌先で心地よく溶けていきます。
お椀が美味しい。麦味噌仕立てのコッテリした味わいであり、西日本の贅沢なお雑煮でも食べているかのような満足感があります。
穴子でフィニッシュ。表面が軽く炙られており、最後の最後まで食欲が煽られます。
いくらか飲んでツマミを追加してお会計はひとりあたり1万円強。当初の予定よりも高くつきましたが、当初の期待よりも全然美味しく、このクオリティであればむしろ割安と言えるでしょう。

ただ、鮨として普通に美味しすぎるので、やはり着席してゆったり食べたかったなという気持ちが強い。「鮨屋とんぼ」のような価格帯とスピード感であれば立ち食いでも全然良いのですが、やはり2時間立ちっぱなし(本当は1時間のはずですが、この日の最終回だったためゆったりとした進行でした)で旨いものを食べるというのは生理的に矛盾しているような気がしました。

沸騰した人気が落ち着いて、予約ナシのウォークインでアラカルト注文ができるようになった際に改めてお邪魔したいと思います。

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鮨は大好きなのですが、そんなに詳しくないです。居合い抜きのような真剣勝負のお店よりも、気楽でダラダラだべりながら酒を飲むようなお店を好みます。
この本は素晴らしいです。築地で働く方が著者であり、読んでるうちに寿司を食べたくなる魔力があります。鮮魚の旬や時々刻々と漁場が変わる産地についても地図入りでわかりやすい。Kindleとしてタブレットに忍ばせて鮨屋に行くのもいいですね。