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弥助(やすけ)/堺(大阪)

堺の地で80年以上の歴史を持つ老舗鮨店「弥助(やすけ)」。三代目である現店主は「祇園 川上」で経験を積んだ後、40歳で当店を継いだようで、店名は歌舞伎の演目「義経千本桜」に登場する鮨屋の折平が「弥助」と名乗ったことにちなんでいるそうです。ちなみに四代目はお向かいで超高級店「鮨おおが」を手掛けています。
高級旅館を思わせる威風堂々とした一軒家の門構え。暖簾をくぐると美しい白木のカウンター席がお出迎え(写真は一休公式ページより)。他にもテーブル席や掘りごたつ式の個室座敷の用意もあるようです。
飲み物のお品書きは無く、当然に値付けも不明です。ただしランチはにぎりだけパパっと食べるスタイルなので、長っ尻して酒代が嵩むこともないでしょう。最終支払金額から逆算するに、恵比寿の小瓶が千円ぐらいだった気がする。
お通しにマグロの角煮。脂ののった部位を醤油ベースのスープでじっくり煮込んでおり、繊維がほぐれて口の中でとろけていきます。脂の甘味と旨味が濃厚で、これはいきなり日本酒が欲しくなる。
コースの開幕を飾る一貫はノドグロ。いきなりコッテリするもん来るなあと思いきや、皮目を香ばしく炙っているためか脂っこさは感じさせません。身はきめ細かく柔らかで、脂のコクと旨みが絶妙なバランスを保っています。
続いて鰻。ノドグロを超えるコッテリとした味覚であり、もちろん美味しいのですが、いきなり食事が終わってしまいそうな不安を脊髄反射で感じてしまう。もちろん決まりなどは無いのでしょうが、私はどうも慣れませんでした。
ガリは小さな器に上品に盛り込まれます。隠し味に実山椒が含まれており、ピリリとした辛みと爽やかな清涼感が生姜の甘酸っぱさと組み合わさることで、より印象的な味わいに。

ちなみにシャリは伝統の白シャリで、赤酢推しの四代目とジェネギャでひと悶着あったそうです。そのストーリーは「鮨おおが」をお邪魔した後に改めて整理しましょう。
剣先イカ。細やかな飾り包丁が幾重にも施されており、ねっとりとした甘みと口内で繊維が一本ずつ解けるような舌触りを実現しています。
トロが美味しいですねえ。舌の上でとろりと溶ける脂は上品で甘く、しつこさがなく後味がきれいに消えていきます。ちなみに関西の店舗としては珍しく豊洲の「やま幸」から、「鮨おおが」と「弥助」で共同仕入れを実現しているという噂を耳にしました。
春子鯛。皮目に独特の風味と旨みが凝縮されており、口当たりは繊細で上品。脂は少ないものの、そのぶん素材そのものの澄んだ旨みが際立ちます。
車海老。身にプリプリとした弾力があり、酢飯の仄かな酸味が海老の甘みをより鮮明に引き立てています。見た目の美しさも含めて華やかな存在です。
コハダ。酸が強くバシッと思い切りの良い〆が施されており、身全体にしっかりと酢が染み渡り、輪郭のはっきりした酸味が口の中に広がります。その力強い酸の中に、コハダ特有の青魚らしい旨みと脂の風味が溶け込んでおり、味に深みがある。
赤だし。色が濃く深いコクと独特の渋みが特長的で、余韻が長く続きます。具材は海苔で汁に浸ることでとろりと溶け、磯の香りが赤だしの旨みに溶け込んでいます。
ヅケ。漬け込むことで身の色は深みのある赤褐色に変わり、表面にしっとりとした艶が出ています。生の赤身とは異なる質感や凝縮された味わいが印象的で、余韻の長さが心に残りました。
あなご。柔らかく炊き上げておりフワリとした口どけが最大の魅力。身はホロホロと崩れるほど柔らかく、噛む力を殆ど必要としない繊細な食感が印象的です。序盤の鰻にに比べて脂が少なく上品で、後味がすっきりしています。
ネギトロ。たくあんも組み込まれており、トロのトロリとした脂の旨みとネギの辛みと清涼感が絡み合い、そこにたくあんのコリコリとした歯応えと独特の甘みと塩気が加わります。
おいなりさん。関西らしい三角形スタイルであり、俵型とは異なる角のある食感が生まれ、油揚げの端部分のジュワっとした噛み応えを楽しみます。上品に炊かれた油揚げの甘味と酢飯がほどけるように混ざり合い、素朴ながら満足感の高いひと口です。
玉子。ふわりとした弾力のある食感と、口の中でじんわりと広がる濃厚な甘みが心地よい。デザート的な役割を担っており、食事の締めとして口の中を優しく整えます。

以上のおまかせコースが16,500円で、酒をいくらか飲んでお会計は2万円弱。東京で同等の鮨を食べることを考えればお値打ちであり、ご近所の名店「鮨舟」とはまた違った方向性の楽しみ方があります。
ちなみに四代目が手掛けるお向かいの「鮨おおが」は夜は座って5万円~・一斉スタートの2部制と完全に東京スタイルで客層は全く異なるそう。堺に全国および世界から富裕層を引き寄せる高尖度のプレミアムブランドが存在することは喜ばしいことですが、「弥助(やすけ)」のようなアットホームな老舗ファミリーブランドも、いつまでも続くことを願っています。

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鮨舟(すしふね)/堺(大阪)

堺の飲み屋街にある「鮨舟(すしふね)」。地元の食通で知らない人は居ない、有名にして人気の高級鮨店です。南海本線の堺駅から歩いて10分ほど、チンチン電車であれば大小路駅の目の前です。
店内はカウンター席のほか、お座敷、掘りごたつ、個室を完備しており、カウンター席は地元の常連中心で、個室等は全て接待で埋まっているという印象。この日のゲストは全員が男であり、サンセバスチャンのチョコ(男だけの美食倶楽部)のような熱気に満ちています。店主は気さくな方で、常連も一見も分け隔てなく接してくれます。
店主の息子さんが日本酒が好きで好きで堪らないといったようで、お料理に合わせて色々と提案してくれます。ちなみに当店は料理や飲み物類に一切の値段表記がありませんが、さんざん飲み食いして2万円強だったので、妥当というか寧ろ良心的な価格設定でしょう。
お通しが凝りに凝っており、初手から誠実な仕事ぶりが伺えます。白眉はカツオのユッケ風(?)で、カツオ本来の旨みに仄かな辛味が加わり、一口目からお酒が進む仕掛けとなっています。
お造り盛り合わせ。当店は3つの市場から上手く分散して仕入れているようで、その実力がそのまま皿に載ったようなラインナップです。中でもタコは特筆もので、しっかりとした歯応えの中に甘みと旨みがじんわりと広がります。
ハモの焼霜。隣のオッチャンが自信満々に注文していたので私もそれに乗っかりました。骨切りが施されたハモの皮目をサッと炙ることで香ばしさをプラスし、熱が加わることで身がふっくらと反り返り、独自のコリコリとした食感と、上品で淡白な脂の甘みが際立ちます。これぞ関西の夏の味覚である。
「今日のトウモロコシはとても良い」と店主からの紹介があったので、カウンター客の殆どがかき揚げで注文。いいですねこのライブ感と一体感。プチプチとした瑞々しいトウモロコシの粒を薄衣でサクッと軽やかに揚げており、トウモロコシの持つ自然な甘み濃厚なコクを余すところなく堪能しました。
自家製のぬか漬け。市販品では決して出せない複雑な旨みと酸味が詰まっており、ぬか床由来の芳醇な風味と心地よい酸味がじんわりと広がります。日々の丁寧な管理が凝縮された滋味深い逸品です。日本酒のアテとしても最高だ。
グラタン。鮨屋でグラタンという意外な組み合わせが評判の、当店の名物的ひと品。具材がゴロゴロと入っており、それらの旨味がソースにしっかりと溶け込んでいます。和食の流れの中に洋のエッセンスを取り入れる柔軟な姿勢は気さくな店主らしいおもてなしです。
きずし。塩と酢で締めた魚の関西伝統料理であり、シメ鯖が有名ですが、ここ日はアジを用いていました。アジならではの軽やかな脂の旨味を活かすため、酢の締め加減は繊細で優しく仕上げられています。酢で締めることで身が程よく引き締まり、刺身とも違う独特の食感と、凝縮された旨みが楽しめます。
〆のお食事(?)ににぎり。まずは生のカツオにエビ。エビの美味しさは当然として、この日はカツオが素晴らしですね。モチッとした特有の官能的な食感と濃厚でありながら爽やかな赤身の旨味がシャリと上手く調和します。
シャコ。しっとりとした質感の身からはカニやエビとも異なるシャコ独特の濃厚な磯の風味が感じられ、滋味深い大人の味わいです。
子持ち昆布。その独特のプチプチとした食感と磯の香り、数の子特有のコリコリ感が重なり合い、シャリの甘味も相まって口の中で複雑なハーモニーが生まれます。酒の肴としても出色の存在である。
食事のハイライトを飾るにふさわしいウニの軍艦。粒がしっかりと立って美しく、口に含んだ瞬間に体温でトロンと滑らかに溶け出します。思わず目を閉じて天を仰ぐような余韻の長い満足感。
以上を飲んで食べてお会計はひとりあたり2万円強。旬の食材を自由自在に楽しんでこの支払金額はリーズナブル。何より食べたいものを食べたい順番で好き勝手に注文できる自由度の高さがいいですね。東京の一斉スタート2回転給食方式とは真逆の価値観であり、自然と会話にも華が咲く。これぞまさに大人のための極上の普段着。堺で飲む機会がある際は是非どうぞ。

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すし初(すしはつ)/湯島

初夏のすし初。都内屈指の予約困難店ですが、無事に緩やかな紹介制へと移行したようで、一般的にイメージされる「予約困難店」とは一線を画す治安の良さがあります。
当店は日本酒と鮨を論理的かつ科学的に結びつけるペアリングの最前線。この日のラインナップはこの通り。普通の量でひとりあたり4合近くと飲みベが高い。
まずは赤エビとアボカド、デコポン。エビのとろける甘みとアボカドのクリーミーなコクが、酢味噌の穏やかな酸味と甘みの中で溶け合います。デコポンが加わることで、柑橘特有のみずみずしい甘酸っぱさが全体に明るい彩りを添え、単調になりがちな和え物に立体的な奥行きをもたらしています。
アオヤギにツブ貝。いずれも春を代表する味覚であり、噛むほどに磯の香りと凝縮した甘みが広がります。添え物として供されるワカメがいいですね。肉厚で歯を押し返すほどのしっかりとした食感を持ち、磯の風味が濃厚で、これだけでツマミひと品として成立するほどのクオリティです。
トリガイ、タイ、イサキ。中でもタイがいいですね。津本式で処理した上で1週間かけてじっくりと熟成させており、鮮度重視で食べるタイとは対極にある、旨味が豊かに育った深みのある造りです。
豪快に切り出された分厚いカツオのたたき。まるで上質なビーフステーキを思わせる存在感で皿の上に鎮座します。合わせるのは玉ねぎ醤油。シャクシャクとした歯、ならびに独特の香気がカツオの力強い風味と見事に共鳴します。ほんとお肉食べてるみたい。
看板料理の白和え。豆腐ではなくブッラータを用いており、リッチなコクがジューシーなメロンに良く合います。デザートと料理の中間に位置するような幻想的な世界です。
鮎の焼きびたし。焼きの香ばしさと出汁の旨みが重なった料理であり、お出汁には梅酢を用いているため後味が爽やかに引き締まっています。さらに山椒の風味も感じられ、初夏ならではの清涼感のある仕上がりです。
メカジキの柚庵焼き。おなかの部分で脂たっぷり。ちなみに柚庵とはスコットランドのオビワン俳優ではなく「幽庵焼き」とも表記される調理法のこと。醤油・みりん・酒を合わせた漬けダレで仕上げる焼き物で、甘辛い旨みが身の内側まで浸透し、大ライス欲しくなる勢いです。
にぎりに入ります。まずは久米島の特大クルマエビ。身は引き締まりながらも弾力があり、噛むごとに甘みが増していきます。シャリは赤酢を用いた深みのあるスタイルであり、リニューアルした「江戸東京博物館」に行ってきたばかりの私は江戸時代のサイズ感でにぎってもらいました。むしゃむしゃ。
釣りのアジ。ストレスによる身の劣化が無いからか、筋肉の張りと口当たりの透明感が段違い。こちらも江戸時代のサイズ感でにぎってもらい食べ応えは抜群でありつつ、シャリの酸味が後味をすっきりとまとめます。
赤身の漬け。適度に脱水され凝縮感が増してねっとりとした舌触り。マグロ本来の鉄分を感じつつ、甘味や旨味も感じられ、シンプルにして奥深い味わいです。
青森のマス。きめ細かな身と上品な脂が特長的で、その身を炙ることで表面の脂が溶けて甘い香りが立ち上り、皮目や縁に香ばしいニュアンスが生まれマス。火の通り具合のグラデーションがマスマス美味しく、まさにマスターピースと呼ぶに相応しい作品だと思いマス。
中トロ。やはり炙ることで表面の脂がじわりと融け出し、芳醇な甘い香りが立ち上ります。焦げ目のついた縁はほんのりと香ばしく、その直下には温められてとろける脂と、中心部の生の冷たさが共存。この温度の勾配こそが炙りの醍醐味と言えるでしょう。
〆の手巻き。パリッと焼き上げた海苔の中に鰻と奈良漬け、マスカルポーネが共に巻き込まれます。うなぎの甘辛い蒲焼きダレの濃厚な旨みと、奈良漬けの酒粕由来の芳醇な香りと塩気が互いを引き立て合う。そこにマスカルポーネのミルキーでクリーミーな甘さが加わることで、予想外なほど穏やかな一体感が生まれます。
今夜もよく飲みよく食べました。伝統的な江戸前の仕事に敬意を払いつつも、ブッラータやマスカルポーネを鮮やかに調和させてしまう柔軟なアプローチ。決して奇をてらっているわけではなく、そこにあるのは科学的なロジックに裏打ちされた圧倒的な完成度です。直線的な美味しさというよりは、まさに脳で味わう食体験。知性と五感が心地よく満たされた一夜でした。

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