那覇空港において長年にわたり「見つけたら即買い」「空弁界隈のバーキン」として旅行者の渇望の対象となってきた「大東寿司(だいとうずし)」。私は年に数十回も那覇空港を利用しているのですが、ようやく初めて購入することが叶いました。ちなみに「空弁界隈のバーキン」と呼んでいるのは私だけです大げさに言ってごめんなさい。
いつもは「完売しました」の紙が乱暴に貼り付けられているのですが、この日の掲示は「大東寿司 入荷」と、どこか誇らしげに見えます。ちなみに購入場所は保安検査場通過後の制限エリア内の「ANA FESTA」や「JAL PLAZA」「Coralway」などでも取り扱いがあるようです。製造元「喜作(きさく)」からの納品は1日複数回行われているという噂があり、搭乗タイミングを考えれば殆ど運次第と言えるでしょう。
私はラウンジに持ち込み、ビールと味噌汁をお供に楽しみます。ちなみに大東寿司のルーツは東京都の八丈島にある「島寿司」だと言われており、明治時代に八丈島からの開拓移民が大東諸島に移り住んだ際、八丈島の文化(カラシで食べる醤油漬けの寿司)が持ち込まれ、沖縄の気候や好みに合わせて独自に進化したそうです。そのため、沖縄料理でありながら「江戸前」の仕事のニュアンスを感じさせる珍しい寿司と言えるでしょう。
いよいよ開封の儀です。蓋を開けると、中には大東寿司が6貫と、スーパーのパック寿司で見かけるようなガリが添えられています。
ネタにはサワラ、またはカジキが使われていますが、実は過去にこの原材料表示をめぐって一時販売中止になったことがありました。具体的には、その日の入荷状況によってどちらか一方のみを使用しているにもかかわらず「サワラ・カジキ」と併記していた点や、「米酢」と表示しながら実際には調味酢を使用していた点が、当時のJAS法に抵触したのです。
しかし、この一件は逆説的に言えば、喜作の「大東寿司」が画一的な工業製品ではなく、その日の漁獲状況に左右される職人の手仕事による産品であることを証明しているとも言えます。現在では表示も適正化されていますが、こうした天然素材ゆえの不安定さこそが、大量生産品にはないレア度の源泉となっているのでしょう。
タネは美しい飴色をしており、口に入れるとモチモチねっとりとした舌触りが心に残ります。恐らく醤油・みりん・砂糖を煮詰めたタレに深く漬け込んでおり、この工程により魚の水分が適度に抜け、表面は飴色になり、ねっとりとした弾力のある食感に変化しているのでしょう。保存食としての側面も持つため、生魚特有のプリプリとした鮮度感よりも、タレと馴染んだねっとりとした熟成感や、凝縮された味が全体を構成しています。
シャリは一般的な江戸前寿司に比べ砂糖の含有量が極めて多い。こちらも保存性を高めるとともに、時間が経過しても米が硬くならないことを志向しているのかもしれません。
ちなみに6貫で950円と、なかなかの価格設定です。正直に言えば、飛び抜けて美味しいというわけではありません。しかしこれは単に味への代金というよりも、その希少性に加え、八丈島からの開拓者が島寿司を伝えたという歴史的経緯や、南大東島で独自に定着し変化を遂げたという物語への対価だと捉えてみるべきなのでしょう。空の玄関口でこうしたストーリーを提供し、文化的架け橋としての役割を果たしていること、そこに価値があるのかもしれません。
もっとも、本店に足を運べば確実にありつけると分かっていても、私たちはまた空港でこの幻を探してしまうのかもしれません。旅の終わりに運試しのように売店を覗き、一喜一憂する。そんな儀式も含めての「大東寿司」体験なのでしょう。
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