やきとり陽火(はるか)/白金高輪

焼鳥の頂点として誉れ高い目黒「鳥しき」の系列。「鳥しき」のワイン推しの店が目黒「阿部」であり、その2号店が2020年7月にオープンしたばかりの当店「やきとり陽火(はるか)」とのことですが、細かい系譜は存じ上げず間違っていたらスミマセン。白金は北里大学近くのグルメストリートに位置し、近くには「蓮香(レンシャン)」「私厨房 勇(yung)」「鮨 長島」などの名店がひしめき合います。
パっと見、鮨屋のような店内。客席は6席つめて8席といった小箱であり居心地抜群。BGMは無く、ぴんと張り詰めた空気がなおのこと鮨屋や割烹のように感じます。お料理は 「鳥しき」と同じくおまかせ一本であり、満腹になる数本前にストップをかけるという仕組みです。
酒はワインを除いていずれも800円前後と、この立地では悪くない価格設定です。ワイン推しなだけあって、値付けはさておき4千円台から幅広く取りそろえられており、かなり選択肢の多いお店だなという印象を持ちました。
お通しは新鮮なお野菜に干した(?)鶏肉。シンプルながらこの野菜が実に旨い。凝縮感のある鶏肉の味覚も相まって、アミューズとして最適な仕様です。
ささみは表面だけをササっと炙ってタタキのように頂きます。たった6人のゲストのためだけに大将がガチで向かい合ってくれるため、必然的に火入れはパーフェクトに仕上がります。普通の焼鳥屋は20人近くを相手にするからどうしても火加減にムラが生じますからね。
ふりそでのネギマ。「ふりそで」とは手羽元の根元のことであり、ネギマといえばモモ肉一辺倒な焼鳥業界に一石を投じる味覚です。
せせり。ジューシーだがマッチョという矛盾した食感。しかしセセリの闇はセセリのものなのだ、セセリの光がそうであるように。
ぼんじりはその名の通りお尻側のお肉であり脂は多いのですが、ガリっと炙っているため表面はサクサクカリカリとスナックのような歯ざわりでした。
ギンナンは出来合いのものではなく、皮をつけたまま火を入れてさらに皮を剥いでからまた炙るという大変手間のかかった逸品。
そうそう、冒頭に鮨屋っぽいと述べましたが、つけ台(?)にはガリやキュウリの浅漬けなども並べられ、いよいよ鮨屋そのものです。もちろん食べればすぐに補充してくれます。
鳥しき系列の代名詞とも言えるうずらの卵。半熟を通り越して生に近いのに、どうして串を打てるのか毎度毎度不思議に感じます。
このハツは美味しかったなあ。ハツって、まあ心臓だよねというようなカチカチの食感であることが多いですが、コチラはサクっとした歯触りに独特の弾力を兼ねそろえていました。
スナップエンドウは思いきりの良い火加減ながら、品質の高さがうかがえる緑の濃い味わいでした。
かしわ。いわゆる鳥のモモの部分であり、王道の味わいです。
やげん軟骨。コリコリとした歯触りながらしなやかな舌触りと、やはり矛盾した食感です。しかしヤゲンの闇はヤゲンのものなのだ、ヤゲンの光がそうであるように。
つくね。しっかりと食感を残したミンチ肉にコリコリとしたナンコツの食感がベストマッチ。私はどうせ巨人に喰われるならつくねにされてから食べられたいと思うほどつくねを愛しているのですが、その私をもってしても納得の味わいでした。
このシイタケも美味しいですねえ。平たく言うと焼いただけなのでしょうが、なんとも上手に旨味が閉じ込められており、歯ごたえも完璧。シイタケ嫌いに食べさせてあげたいくらいです。
レバー。鳥しき系列第2のスペシャリテともいうべき部位であり、トロんとした食感に強い鉄分とその旨味。間違いナイトプール。赤ワインが欲しくなる。
手羽元は肉そのものの美味しさと皮のジューシーさの双方を楽しめる逸品。
フィニッシュは砂肝。ざっくりとした食感に濃密な味覚。このころ我々は日本酒に突入していたのですが、その酒質にぴったりのツマミでした。
〆の炭水化物はいくつかの中から選べます。こちらは親子丼。たしか卵かけゴハンも選べるのですが、それに負けないぐらい卵がトロトロであるため、それなら親子丼のほうがええやんと思ってしまう貧乏性な我々。
こちらはにゅうめん。丼ものには鳥スープがつくのですが、そのスープに素麺(?)を入れて楽しむスタイル。美味しいのですが、どうせスープつくなら丼もののほうがええやんと思ってしまう貧乏性な我々。
そぼろ丼は先のつくねを紐解いて調味したような構成であり、一般的な煮切りきったそぼろとは一線を画すフレッシュな味わい。たっぷりのネギの香りがさわやかです。
レモンシャーベット。いわゆるシャーベットとは違った食感で、粗く削った上質な氷にレモンシロップを混ぜ込んで固めたような興味深いスタイルでした。

結構食べたし、お会計はひとりあたり1.3万円ぐらいかなあと覚悟していたのですが、なんとひとりあたり9千円をきりました。これは安い!いや焼鳥としては全然高いけど、このクオリティなら自信をもってお値段以上と言えるでしょう。

ライナーでスタンドに突き刺さるといった刺激的なスペシャリテはありませんが、しみじみとした幸せがずっと続く滞空時間の長いホームランのような食事でした。オススメです。

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イタリア料理屋ではあっと驚く独創的な料理に出遭うことは少ないですが、安定して美味しくそんなに高くないことが多いのが嬉しい。

それほど焼鳥に詳しいつもりは無いのですが、私のコメントが掲載されています。食べログ3.5以上の選び抜かれた名店を選抜し、お店の料理人の考えを含めて上手に整理された一冊。