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山為食堂(やまためしょくどう)/和歌山市駅

一般的に和歌山ラーメンは、醤油ベースの透き通ったスープを特徴とする「車庫前系」と、豚骨醤油の白濁したスープを特徴とする「井出系」に大別されますが、その二項対立の図式には収まりきらない独自の進化を遂げているのが「山為食堂(やまためしょくどう)」でしょう。

昭和28年(1953年)創業の歴史あるお店で、元々はうどん屋としてスタートしましたが、現在は中華そば(和歌山ラーメン)が看板メニューであり、食べログでは百名店に選出されています。
昭和の趣を残す店内。意図的に作られたテーマパーク的なレトロさではなく、50年以上の歳月が堆積した結果としての真正な歴史性を感じさせます。店の隅にカウンター席がいくつかと、テーブルが数卓あって、トータルでは30席ほどでしょうか。平日の開店と同時に地元民で席を埋める人気っぷりには舌を巻きます。
私は単品1,300円の「チャーシューメン」を注文しましたが、他のゲストは皆「ライス」と一緒に注文していました。分厚いチャーシューを白ゴハンにバウンドさせて食べるスタイルが王道のよう。和歌山ラーメンのシンボルであるカマボコは茶色いスープの中での視覚的なアクセントになります。
チャーシューは豚バラ肉をじっくり煮込んだトロトロの柔らかさが最大の特長であり、 醤油ベースのタレが中までしっかりと染み込んで濃厚な味わい。厚切りでボリュームがあり、甘味も強い。なるほどこれはライスと一緒に楽しみたい。
スープは骨粉を感じるほどの超濃厚豚骨醤油。レンゲが沈まないほどに粘度が高く、クリーミーでドロドロとした口当たりですが、後味は意外とあっさり。醤油ダレ(カエシ)もしっかりと効いており、豚骨の野性味あふれる旨味とぶつかりますが、骨髄から抽出されたゼラチン質と脂質が高度に乳化しており、全体は丸く収まっています。
一般的な和歌山ラーメンは細めのストレート麺が主流ですが、当店はスープに負けない極太ストレート麺。うどんに近いほどの太さとコシがあり、モチモチとした弾力が魅力的。スープのとろみがよく絡み、咀嚼する喜びを提供してくれます。
美味しかった。「井出商店(いでしょうてん)」「清乃(せいの)」も美味しですが、それらとはまた違った魅力があり、うどん等メニュー構成を含め独自路線を突き進む名店と言えるでしょう。次回はおなかを空かせてライスも一緒に注文するんだ。

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「東京最高のレストラン」を毎年買い、ピーンと来たお店は片っ端から行くようにしています。このシリーズはプロの食べ手が実名で執筆しているのが良いですね。写真などチャラついたものは一切ナシ。彼らの経験を根拠として、本音で激論を交わしています。真面目にレストラン選びをしたい方にオススメ。

鮨義心(すし ぎしん)/和歌山駅

和歌山の鮨界隈の頂点として名高い「鮨義心(すし ぎしん)」。ミシュランでは2ツ星を獲得し、食べログでは百名店に選出されています。場所はJR和歌山駅から歩いて15分ほどであり、和歌山最大の歓楽街「新内」に隣接しています。話は逸れますが、「新内」って「アロチ」って読むんですよ凄くないですか?富山の「総曲輪(そうがわ)」にせよ、歓楽街の呼び名は独特の風情がある。
店舗はカウンター6席のみという狭小空間で、店主と女将さんの二人三脚によるアットホームな雰囲気が心地よい。ミシュラン2ツ星でここまで緊張させない接客は、世界中を見渡してみても稀有な存在と言えるでしょう。
飲み物メニューは無く、和歌山の地酒を中心にお食事に合うよう組み立ててもらいました。それぞれの価格設定は不明ですが、最終支払金額から逆算するに、恐らく1合千円~2千円のレンジに収まっていたような気がします。 
まずは身体を温めるために茶碗蒸し。セコガニ(雌のズワイガニ)の全ての部位が含まれており、内子の濃厚なコク、外子のプチプチとした食感、そして繊細な身の甘みが、滑らかな卵地の中に全て閉じ込められています。まさにカニのグレイテスト・ヒッツです。
加太の一本釣りのサバ。丁寧な血抜き処理が施されており、コリコリとした剛直な歯触りが印象的。臭みなど微塵もない、透明感あふれる脂の甘みが口いっぱいに広がります。合わせるタマネギ醤油の甘みとコク、そして和歌山名産である石臼挽き山椒の清涼感あふれる痺れがサバの脂を鮮やかに切っていきます。刺身でも締め鯖でもない、この地でしか楽しめない味覚です。
クエ。白身ながらトロにも匹敵する重厚な脂を持つクエですが、そこに和歌山産のフィンガーライムを合わせるのが面白い。そもそも和歌山でフィンガーライムなんて栽培できるんだ。
にぎりに入ります。まずはアカイカ。限界まで細かな包丁が入れられており、舌の上に乗せた瞬間にシャリと共に甘くとろけます。間にはムラサキウニが組み込まれており実にクリーミー。食感の消失と共に旨味の余韻だけが残る、官能的な一貫です。
ちなみにガリは、というかガリの代わりにカブの酢漬けが供されます。ガリのような強い辛味で味覚をリセットするのではなく、旬のカブのみずみずしさと優しい食感で口内を潤すアプローチです。

シャリは日本酒の「雑賀」から購入した赤酢を用いているそうで、特有の香りはありつつも主張しすぎない穏やかな酸味と色合い。食材に合わせてシャリの温度も変えているそうで、タネの旨味を底上げします。
コハダ。皮目の香りとしっとりとした身の旨味が最大限に引き出されており、噛みしめると滲み出る魚の滋味とシャリの赤酢が口の中で上手く調和します。
カマス。淡白な白身のイメージがあるタネですが、こちらは程よく皮下脂肪を蓄えており、程よくパンチのある味わい。旨味もたっぷりだ。
サヨリ。オレンジ色のは半熟の黄身のおぼろ。淡白なサヨリを単調に終わらせず、ねっとりとしたおぼろの食感とのコントラストも楽しい、計算された組み合わせです。
冒頭のセコガニに対し、こちらはオスのズワイガニ。こちらも全ても部位が入っており、脚身の繊維感のある甘み、カニ味噌の濃厚なコク、ほぐし身の旨味が一体となり、口の中がカニの風味で埋め尽くされます。単一の部位では出せない複雑で重層的な味わいだ。
マグロは「やま幸」から仕入れているようで、ねっとりと舌に吸い付くようなきめ細やかな身質。噛むほどに赤身特有の爽やかな酸味と濃い旨味が溢れ出し、脂に頼らないマグロ本来の力強い味わいを楽しみます。シンプルだからこそ素材の力が試される、誤魔化しの効かない正統派の美味しさです。
中トロ。赤身の酸味と脂の甘みのグラデーションが美しく、口中の体温で脂が溶け出し、シャリと渾然一体となって喉の奥へと消えていきます。脂が上質で重たさがなく、サラリとしていながらも甘みの余韻が長く続きます。
トロの藁焼き。脂の乗った部位を藁で豪快に燻すことで、スモーキーな薫香が脂にまとわりつき、熟成肉やベーコンを食べているかのような錯覚に陥ります。野趣あふれる力強い旨味が食欲を強烈に刺激する。
クルマエビの笹鮨。笹の葉の清々しい香りが全体を包み込み、和歌山の郷土料理への畏敬を感じさせるひと品。単なる茹で海老の握りでは味わえない、歴史と風土を感じさせる奥深い味わいです。
ノドグロの押し寿司。栗のスモークチップを用いて燻製しており、栗由来のどこか甘く円みのある穏やかな薫香がノドグロの上質な脂とよく合います。スモークによって脂のくどさが消えるのも良いですね。
イクラ丼は生と半熟のハーフ&ハーフで楽しみます。プチッとした食感とトロリとした舌触りが交互に訪れ、単調になりがちなイクラ丼を飽きさせない、ある意味ではエンターテインメントに昇華させています。
お椀はその日提供された全ての魚の骨から抽出されたスープ。複雑にして玄妙で濃厚な旨味の塊です。肉厚な龍神シイタケの旨味成分がスープに溶け出し、旨味の相乗効果が頂点に達する滋味深い液体です。
アナゴ。ふんわりと柔らかく煮上げられており、口の中でほどけるような食感。ツメは濃厚でありながらもクドさがなく、アナゴの繊細な脂の甘みを引き立てます。皮目の香ばしさと身の甘み、そしてシャリの酸味が三位一体となり、コース終盤でも重さを決して感じさせません。
ネギトロ(?)はネギの代わりにベビーリーフを用いており、その青い香りとほろ苦さがマグロの強い脂をシャープに切り、ネギとは違った洋風のニュアンスを与えます。
伊達巻にはイトヨリを練り込んでおり、上品な魚の甘みと旨味がベースにあります。冷たいのにフワフワとしているという、嬉しい矛盾に満ちたひと品でした。
富有柿とラフランスで清々しいフィナーレ。ごちそうさまでした。

以上を食べ、結構飲んでお会計はひとりあたり3.5万円。暴騰に暴騰を重ねる鮨界隈の中ではお値打ちにすら感じる値付けでしょう。とは言え3.5万円は3.5万円なので、地方都市におけるディナーとしては勝負の価格設定とも言えます。

私の個人的な価値観としては「やま幸」のような世界中で取り合ってるマグロなんて要らんくて、その分の予算を地元の食材に回して欲しいところ。「ラルモワーズ (L'armoise)」のように全て地元の使用するローカルガストロノミーに突き進んでくれると嬉しいんだけどなあ。

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鮨は大好きなのですが、そんなに詳しくないです。居合い抜きのような真剣勝負のお店よりも、気楽でダラダラだべりながら酒を飲むようなお店を好みます。
すしのにぎりについての技術を網羅した決定版的な書籍。恐らくはプロ向けの参考本であり資料性の高い便覧でしょうが、素人が読んでこそ面白い傑作。写真がとても美しく、眺めているだけでお腹が空いてきます。

炭割烹 新谷(しんたに)/和歌山駅

JR和歌山駅東口から徒歩3分の「炭割烹 新谷(しんたに)」。焼鳥をメインとした割烹スタイルの鶏料理専門店であり、ソムリエ呼称資格を有する店主によるアルコールペアリングが評判を集めています。食べログでは百名店に選出。
店内はカウンターに10席ほどに個室がひとつ。18・19・20時の予約枠があり、それぞれ一斉スタートで進捗します(写真は一休公式ページより)。新谷洋平シェフは様々な飲食業態での経験があるようで、当店の前身である「炭火やきとり新太郎」を経たのち、「炭割烹 新谷(しんたに)」へとリブランディングしたようです。
アルコールのペアリングが自慢ですが、料理それぞれにガチガチに定めているというよりは、好みや飲むペースを勘案して柔軟に対応してくださいます。ワイン多めな方や日本酒多めな方など楽しみ方は実に様々でした。
コースの幕開けを告げるのは熊野地鶏のガラから丁寧に引かれたエキスを土台としたポタージュ。ホワイトマッシュルームやホウレンソウも組み込まれており、下支えする地鶏の重厚なコクとのバランスが心地よい。
さっそく串焼き。当店では熊野地鶏を毎日捌いて串打ちし、和歌山県が世界に誇る最高級木炭「紀州備長炭」を用いて焼き上げます。コチラはモモの塩焼きで、歯を入れた瞬間にパリっとした音と共に皮が弾け、その奥から圧倒的な肉汁が押し寄せます。地鶏特有の赤身を帯びた肉質は、ブロイラーにはない心地よい弾力と噛みごたえ。噛めば噛むほどに濃い旨味が舌の上に蓄積されていきます。
続いてネギマ風の一本。モモ肉の脂が炭火で熱され、その滴り落ちる脂が炭に触れて立ち上る燻煙を纏い、隣り合うネギへとその旨味を移しています。加熱されたネギは芯までトロトロに甘く、王道にして至高の組み合わせです。
続いて胸肉。パサつきは一切なくシットリ感と滑らかさが心地よい一串。きめ細やかな繊維の間に上品な甘みを蓄えており、そこにホワイトマッシュルームが挟まれることで特有のアーシーなコクが加わりエレガントなハーモニーが広がります。
春巻きには鶏そぼろにゴボウ、旬のキノコが潜んでいます。挽肉になってもその力強い味わいを失わず、そこにゴボウの大地を感じる土の香りとキノコ由来の風味が重なり合います。中華の春巻きとはまた違った魅力のあるひと品です。
脂の乗った地鶏料理が続く中での、一服の清涼剤、鬼おろし。水分が出すぎておらず、ザクザクとした野菜本来の食感を残しています。出汁醤油やポン酢の角のないまろやかな酸味も心地よく、口の中に残る鶏の脂をさっぱりと洗い流してくれました。
ブラウンマッシュルームの炭火塩焼き。炭火でじっくりと水分を内側に閉じ込めながら焼かれたキノコから、噛んだ瞬間に熱々のジュースが溢れ出します。肉厚な食感はアワビすら想起させ、植物性とは思えないほどの満足感を与えてくれるひと品です。
ソリ。モモ肉の付け根にある希少部位であり、筋肉質な繊維質ととろけるような脂身の両方を兼ね備えています。皮で包み込むように整形して焼かれているため、外側のカリッとした食感と、内側のプリプリと弾けるような弾力の対比が鮮烈です。
あか。コチラは脂肪分が控えめで、その名の通り肉色は濃く、味わいは繊細でミルキー。きめ細やかな繊維が舌の上でほどけていくような上品さがあり、口の中で肉汁が優しく広がります。
つくし。肩甲骨あたりのお肉であり、骨に近い部分特有の濃厚な旨味を蓄えています。肉質は柔らかくシットリとした質感で、ほのかな鉄分のニュアンスが感じられます。淡白に見えて実は奥深い味わいがある。
とろなす。その名の通り口に入れた瞬間にトロリと溶けてなくなるような食感。皮目は炭火で焦がされることで香ばしい風味を纏い、身の部分は熱せられることで水分が活性化しクリームのような滑らかさに変化しています。
お口直しにミニラーメン。透明度の高い清湯系のスープで、野菜のエキスもたっぷりと含まれており、特有の優しい甘みが追いかけてきます。麺はスープをよく持ち上げる細麺で、つるりとした喉越し。シンプルを極めた構成だからこそ、熊野地鶏という素材の良さが際立つ完成された一杯です。
松葉。鎖骨にあたるV字型の骨についたお肉であり、骨周りの肉こそが一番美味しいことを証明する逸品。骨から肉を剥がす時の野性的な楽しさと、骨のエキスが染み出した濃厚な味わいが格別。筋肉質でシコシコとした食感があり、噛めば噛むほどに味が湧き出てきます。
レンコン。焼き芋のようにホクホク、そしてお餅のようにもっちりとした粘り気が生まれており、糸を引くような濃厚さと土の香りを纏った強い甘みが口いっぱいに広がります。日本酒と共に力強い食体験。
つくね。様々な部位をミンチにしているのか、噛む場所によって肉の旨味や脂の甘みが複雑に変化します。濃厚なタレが絡み合い重量級の味わい。そういえばタレを用いた串焼きはコレ一本だけだったなあ。その限定性を忘れさせるほど熊野地鶏はパワフルな食材なのでしょう。
パレルモ。イタリアンタイプのパプリカの一種だそうで、加熱することで糖度が高まり、野菜というよりフルーツに近い甘味が感じられます。厚みのある果肉からは甘いジュースが溢れ出し、口の中をリフレッシュさせてくれます。
茶碗蒸し。お出汁がたっぷりで、食事の締めくくりに向けて胃腸を整えてくれます。ベースとなる地鶏出汁の深いコクに対し、トッピングされた梅の酸味が絶妙なアクセント。熱々の温度感が心地よく、身体の芯から温まります。
〆のお食事にしらすごはん。地元のしらすのふっくらとした食感と程よい塩気に濃厚な卵黄が絡み合い、米の甘み、しらすの海の香り、卵黄のコクが三位一体に。満腹であることを忘れさせてくれるほど箸が進む最高の締めくくりです。

以上のコースが1万円で、お酒もバンバンしっかり飲んでお会計は2万円ほど。料理と酒の質を考えれば見事な費用対効果です。地元の食材が盛りだくさんなのが旅行者にとって嬉しい。焼鳥好きが和歌山市を訪れるのであれば是非とも訪れたいお店です。

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素人にとっては単に串が刺さった鶏肉程度にしか思えない料理「焼鳥」につき、その専門的技術を体系的に記しています。各名店のノウハウについても記されており、なるほどお店側はこんなことを考えているのかという気づきにもなります。