港区ながら飲食不毛の地と評される高輪台エリアに開業した「高輪 しん山(たかなわ しんざん)」。都営浅草線の高輪台駅から歩いてすぐであり、国道1号線に面しながら不思議と落ち着いた場所に位置します。
古木を使用した柱や左官仕上げの壁など、落ち着いた和の空間(写真は食べログ公式ページより)。7-8席のカウンター席が主力であり、奥に半個室のテーブル席の用意もあります。
平山晋シェフは若手料理人の登竜門として知られる「RED U-35」においてブロンズエッグを受賞した実力者です。
シェフは佐賀県出身であり、日本酒のラインナップには「鍋島」や「七田」といった佐賀の銘酒が揃います。こちらは佐賀アームストロング醸造所の「アームストロングIPA」。アルコール度数は7%と高めで、ホップの鮮烈な苦味と、自社製麦芽ならではの深いコクが絶妙に調和しています。
まずは卵と出汁の優しい滋味が広がる玉地蒸し。具材はタケノコとセリであり、タケノコのサクッとした歯ごたえと瑞々しい甘みが、滑らかな卵の質感の中で際立ちます。木の芽の香りと梅肉のシャープな酸味もアクセントにちょうど良い。
お造りはメジマグロ、シマアジ、ヒラメ、そして赤ナマコ。単に切り分けるだけでなく、昆布締めにして旨味を凝縮させたり、赤カブをあしらって彩りと食感に変化をつけたりと、細やかな趣向が凝らされています。特に赤ナマコは、芳醇な磯の香りと心地よいコリコリとしたリズムが楽しく、後を引く美味しさです。
お椀には桑名産のハマグリを起用。潮仕立ての汁は、濃厚なエキスによる深いコクとミネラル感が凝縮されています。旨味をたっぷり吸い込んだ淀大根の、とろけるような柔らかさと甘みはまさに至福。柚子の清々しい香りが、心地よい余韻を残します。
「鰻のかば揚げ」と「鯛のクリスピー揚げ」。前者は蒲焼の甘辛いタレの風味を纏わせつつ、衣をつけて揚げることで、外はカリッと香ばしく、中は鰻の脂が蒸されてふっくらと仕上げられています。後者は軽快な食感と共に白身の繊細な甘みが弾けます。
レンコンの心地よいシャキシャキ感と、カブの緻密で滑らかな舌触りを合わせた饅頭は噛み締めるたびに大地の素朴な甘みが広がります。そこにかけられた銀餡は出汁の旨味を閉じ込めた透明感のある仕上がり。この餡に溶け込んだ新海苔が、鮮烈な香りと深い緑の彩りを添え、淡白な根菜に海の奥行きを与えています。
焼き物はキンメダイの塩焼き。皮のパリッとした食感と、身のふんわりとした柔らかさ。そして口いっぱいに広がる芳醇な脂の甘味。まさに白身のトロと呼ぶにふさわしい満足感があるひと品。
〆のお食事はスッポンとベーコンの炊き込みご飯。スッポンから出るコラーゲンたっぷりの濃厚な出汁が独特の力強いコクと深い旨味を形成しています。そこにベーコンを加えるのが興味深く、その塩気とスモーキーな香りがスッポンの野生味溢れる旨味と意外なほど相性が良い。
炊き込みご飯のお供として出汁巻き玉子とお漬物、お味噌汁も付きます。味噌には佐賀の銘酒「東一(あずまいち)」を醸す五町田酒造が仕込んだ味噌を用いており、なるほど吟醸酒のようなフルーティーな余韻が感じられました。
食後の甘味にイチゴ大福。イチゴの弾けるような果汁と甘酸っぱい香りが実に華やか。餡はイチゴのレベルを際立たせる上品な仕上がり。フレッシュなフルーツの生命力をダイレクトに感じられる爽快なフィナーレです。
以上のコース料理が11,800円。港区で同等のクオリティの食事を楽しもうと思えば2-3倍は当たり前に請求されるレベルであり、と、そういえば当店も港区に位置していました。それぐらい近隣の日本料理店よりもギャップのある価格設定であり、もちろん嬉しいギャップです。良いお店を見つけました。今度はテーブル席を会食で使ってみようっと。

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