レストラン ラルモワーズ (Restaurant L'armoise)/長岡市

地元新潟の食材を99%使用した「ローカル・ガストロノミー」をコンセプトとし、ミシュラン1ツ星を獲得した「レストラン ラルモワーズ (Restaurant L'armoise)」。長岡駅から歩いて10分ほどの住宅街に位置し、マンションの1階店舗という控えめな立地。看板は店舗の内側にひっそりと掲げられており、知らなければ通り過ぎてしまうかもしれません。
店内は伝統工芸の温もりが感じられる落ち着いた空間で、センスの良い友人の家に遊びに来たような雰囲気。1日2組限定の完全予約制であり、シェフが調理からサーブまで全てを担当します。

田中良太郎シェフは東京のホテルやレストランで経験を積んだのち、27歳で当店を開業。ほんわかと朗らかなお人柄なのですが、ワンオペとは思えないほどの料理・サーブのタイミングを実現する、デキる漢です。
ワインの値付けは良心的。グラスワインは千円台が中心で、しかもタップリ注いでくれます。新潟の日本酒を活用したペアリングの提案も可能とのこと。
アミューズにコンソメとエクレア。前者は和牛と豚足から時間をかけて抽出された凝縮された旨味の結晶であり、キノコの豊潤で奥深い香りも感じられます。塩味はミニマルに抑えられており、素材本来の旨味が際立つ。後者は佐渡産ゴーダチーズを用いており、竹炭を練り込んだシュー生地からはほんのりとした香ばしさ。酒の進む最高のツマミです。
クロメスキ。コロッケ状のツマミであり、カリッとした衣の中からは新潟県産和牛がたっぷり。そのジューシーな味わいを胡桃のソースがまろやかなコクで引き立て、梅の風味で後味に爽やかさを残していきます。ワンオペでこのアミューズが出て来るってすごくない?
秋サバの燻製。脂の乗ったサバが燻製によってその旨味を凝縮させ、芳しい香りをまとっています。風味豊かな舞茸を添えつつ、カリフラワーのクーリで全体を上手くまとめているのが良いですね。アクセントに長岡産の山葵を用いているのもお洒落です。
パンも自家製で、よもぎパン・アオサ海苔パン・塩バターパンの3種を楽しみました。ちなみに店名はフランス語で「よもぎ」を意味しシェフ自らの手摘み。オイルの風味付けに用いるローズマリーももちろん自家栽培です。
ベニズワイガニとズッキーニのフラン。カニの繊細な甘味とズッキーニの瑞々しさが溶け込みつつ、口当たりは実に滑らか。甲殻類の旨味が凝縮された濃厚なビスクソースが食欲を一層引き上げます。添えられたポテトチップスのクリスピーな食感や九条ネギのオイルが爽やかな香りのアクセントも見事です。
サクサクと軽やかなパイ生地の器「ヴォル・オ・ヴァン」に西バイ貝とヒラタケがたっぷり。サクサクコリコリとした食感の対比が心地よく、磯の香りとキノコの風味が調和しています。泡泡はトビウオの出汁を用いているそうで、魚介の優しい旨味がふわりと広がります。
黒アワビのリゾット。贅沢に使用された黒鮑は、その弾力ある食感と、噛むほどに増す深い旨味で圧倒的な存在感を放ちます。お米には新潟が誇るブランド米「しんのすけ」を用いており、アワビの肝から作られた濃厚なソースと複雑に絡み合って最強美味しい。何なら丼にレンゲで食べたいくらいである。
ホウボウのロースト。皮目はパリッと香ばしく、身はしっとりとジューシーに焼き上げられており、その淡白ながらも上品な旨味を上手に引き出しています。周囲を固めるのは個性豊かな長岡野菜たち。新潟の豊かな大地の恵みを存分に感じられる、生命力に満ちたひと皿です。
メインは新潟の和牛のヒレ肉。香り良く穏やかな味わいに加え、お出汁っぽいソースと相俟って、和食の肉料理を食べているかのよう。肉のメインディッシュ特有のどぎつさは無く、しみじみと身体に溶け込んでいく美味しさです。
お口直しにメロンシャーベット。長岡産の糖度の高いメロンを贅沢に使用しており、その芳醇な香りとジューシーな甘みが、そのままシャーベットに凝縮されています。
メインのデザートはアンニンゴ(ウワミズザクラの実)のアイスとイチヂクのタルト。杏仁を思わせる独特で甘い香りが印象的なアイスクリームと旬のイチヂクを合わせて楽しみます。タルトにはポン菓子が潜んでおり、そのサクサクとした食感が意外な驚きと楽しさをプラス。軽やかなメレンゲが全体を優しくまとめ上げます。
お茶菓子は「ポポー」のマカロン。マンゴーとビワのあいの子のような味覚であり、トロピカルで芳醇な甘みが特長的。長岡の紅茶と共に楽しんでフィニッシュ。ごちそうさまでした。
以上のコース料理が16,500円と信じがたい費用対効果。東京のイマドキ系フレンチでは如何に家賃と人件費を食べているかを痛感するギャップです。

お金の話はさておき、料理だけを見ても本当に素晴らしい。旬を逃さず最高の状態で地元食材を提供するというハイパーシーズナルな調達モデルを構築しており、その価値を最大限に引き出す無駄のない運営構造は、地方におけるファインダイニングの新たな可能性を示しています。

大都市でなくともその土地の環境と深く結びつくことで、世界に通用する食文化が花開くことを、田中良太郎シェフは力強く証明した。

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山もあれば海もあり、食材の豊富さでは他県の追随を許さない新潟県。おまけに日本一いや世界一の米どころでもあり、つまりは日本酒どころでもあります。冷静に考えれば日本でもトップクラスの美食県にあるはずなのに、いまいち目が向けられていないのはどうしてだろう。マーケティング下手なんかな。

雑誌『自遊人』編集長・岩佐十良による新潟の美食ガイド。本社を新潟に移しご自身も新潟で生活されており、実体験に基づく感想が豊富に記載されています。新潟のグルメを語る上での必読書と言えるでしょう。