松玄(まつげん)/麻布十番

麻布十番の蕎麦と言えば、更科堀井永坂更科 布屋太兵衛麻布永坂の三巨頭が有名ですが、川上庵や当店など新興勢力も奮闘中。
「夜遅くに、呑める蕎麦屋」がコンセプト(写真は公式ウェブサイトより)。焼き場をぐるりとカウンターで取り囲む変わったレイアウト。客同士の動向が全て丸見えであるため、他人に説明できない関係の人とは訪れないほうが良いでしょう。
注文は活穴子天と大海老天の田舎蕎麦で。いずれも2,150円と強気の価格設定です。そばつゆは醤油の味が強く私好み。量もたっぷりであり、つけすぎて足りなくなるということは無いでしょう。
田舎蕎麦が到着。4~5口で食べ切ってしまう上品なポーションであり、単品で1,000円は高い。香りに価値があるかというとそうでもなく、歯ごたえも喉越しも特長のない蕎麦です。
活穴子天ぷら。大きさは立派ではありますが、天ぷら専門店のそれに比べるとお粗末極まりなく、家庭料理と大差ありません。
大海老天は海老そのものの品質が上々であり、全体としては悪くありません。ただし調理という観点で評価すると、ウチの実家のオカンの天ぷらと同等かそれ以下でした。
お会計は4,300円。ぐおお、高い。ちなみにランチであればセットものが1,000円程度からあるようなので、当店はランチでお邪魔するのが勝ちパターンでしょう。

接客もイマイチ。ぼうっとした店員と、それにイラついている店員の2極化が進んでおり、そのピリついた空気感が客に伝わって来て居心地が悪い。明らかなサボタージュでも無い限り個々の従業員に責任は無く、そのような人間を採用し、そのようなサービスを構築した側に問題があるのだと思うのだけれど。


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東京カレンダーの麻布十番特集に載っているお店は片っ端から行くようにしています。麻布十番ラヴァーの方は是非とも一家に一冊。Kindleだとスマホで読めるので便利です。

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湯島天神下 すし初/湯島


なんだかんだで夏ぶりです。このところすっかり人気のようで、お邪魔する際は予約してから行きましょうね。
先日の南麻布あら喜ですっかり不完全燃焼となった我々は、旨い魚を腹いっぱい食う決意のもとお邪魔しました。
まずは栗カボチャ。ホクホクとした歯ざわりに甘味の増した舌触り。シラスのソースに色気があり、前衛的なフランス料理屋で出たとしても納得できる一皿です。
店主の胸元にキラリと光るバッヂに目をやり、そうか、J.S.A.SAKE DIPLOMAに認定されたんですね、と声をかける。ちなみにJ.S.A.SAKE DIPLOMAとは日本ソムリエ協会が主催する日本酒に特化した認定制度。
レンコンの照り焼き。ムシャムシャとした食感に糸でも引かんばかりのネットリ感。ズバリと切り込む醤油味がグッドです。
「寒くなってきましたので」と、エビを軽く酒で湯がく。ほんのりと温かい口当たり。生で食べるよりも香りと甘味が強調されます。
おお、これはつい先日も京都で飲んだばかり。魚介と飲むにちょうどよく私好みの1杯です。
引き続きホタテを酒で湯がく。肉厚の貝柱に少し熱を通すことにより凝縮感が生まれます。単調になりがちなホタテの味わいに締まりが出ました。
ヒラメも実に甘く胃袋に優しい。やっぱりヒラメは妙な熟成にするよりもフレッシュに食べたほうが良いと思うのです私は。
お刺身特集。ぐわーなんだよこの幸せな光景!手前からブリ、シメサバ、マグロ。どの魚も気前良く分厚く、噛み締めるごとに幸福が滲み出ます。やはり刺身はムシャムシャ食べるのが一番。
「おかげさまで、来年からアカデミー・デュ・ヴァンで講座を持たせていただくこととなりまして」なんと立派な。ワインスクール最大手でSAKE DIPLOMA講座を持つだなんて日本酒業界では最先端の先端じゃないですか。
タラの身にタラの白子の親子皿。丁寧に仕込まれたスープが五臓六腑に染み渡る。味変にポン酢も取り出し1皿で2度美味しい。
やや焦げ目を入れて収縮させた白子にたっぷりとポン酢をつけ、芳醇な香りの酒と共にじっくりと味わう。その状況ならびに行為をアメリカ人はHappyと呼ぶ。
茶碗蒸しにアンキモという最強コンビ。我々のアンキモに対する執念は並々ならぬものがあり、改めて江戸のかたきを長崎で討たんとばかりに一気呵成に貪りつきます。濃厚なアンキモにさらに焼き目をつけ食欲を掻き立てるヴィジュアルに、ポン酢の酸味も程よいアクセントとなり、脇役と見た茶碗蒸しの中にも魚介がゴロゴロ。本日一番のお皿です。
フォアグラ×ソーテルヌを意識してか、アンキモには貴醸酒を。濃縮された甘味が肝に溶け込む。互いは拮抗するのではなく補完し合う。
ちなみにポン酢~茶碗蒸しラインにはコチラ。ブラインドで口にすれば而今とは絶対にわからない派手な風味。まるでグレープフルーツジュースのようにグイグイ飲めてしまいます。
焼き魚にはカツオのハラガワ。ムチムチとした肉質に肉に旨味と脂が凝縮。健康を考えれば決して褒められた料理ではないかも知れませんが、その日を摘むのも人生に対する考え方のひとつです。
ストロング系の日本酒はあまり好まないのですが、さすがに先のハラガワにはこのクラスがしっくりくる。ハラガワを何度も何度も咀嚼してから酒と共にじっくりと飲み下す。世界よ、見よ、これがマリアージュだ。
にぎりに入ります。驚くことにイカまで炙ってしまいました。もちろん軽くメラ程度の炎であり食感ならびに香りを引き立てる効用があります。
酔いも回り始め、酒を飲む速度も高まって参りました。やっぱ鮨には日本酒だよなあ。
特大のエビちゃんに黄味酢を。ある意味ではエビのオランデージソースがけであり、つまるところ美食とは世界のどこであっても結論は同じなのかもしれません。それにしてもここのところエビに恵まれている
これは初めて見るエチケット。とうかいざかり、と読むそうで千葉の酒蔵。ジューシーながら余韻はキリっとしています。
白子の軍艦。ワオ、ありそうでない。そのまま一口で放り込むとトロトロと粘度の高い液体がクリーミーに口腔内を満たします。米一粒一粒にまで味覚が行き渡り上質なリゾットを食べているかのような錯覚。またこの海苔。この海苔は抜群に旨い。こんな旨い海苔があるか?
マグロは鰻と同様に味わいに比べて割高な食材と私は捉えており、場合によっては「鮨屋でマグロは不要論」を唱えても良いのですが、ひとたび口にするとやはり悪魔的な魅力がありますね。「あたしはマグロが出ない鮨屋なんて絶対に許さないけどね」と鮨マニアの彼女。こういう女がいるから資源は枯渇し戦争も無くならない。
イクラ。ああ、トリマルキオの饗宴もかくやという今宵の幸福もお開きへと近づいてきました。この幸せを少しでも長続きさせようと一粒一粒じっくりと味わいながら酒を飲む。
アナゴでフィニッシュ。ホロリと解けるような食感にズバリと勢いのあるツメ。今夜もごちそうさまでした。冬来りなば春遠からじ。鯛が美味しくなった頃にまたお邪魔しましょう。
お会計はふたりで合計2万円台。連れに1万円頂戴致します、と伝えると「え、いいよいいよ、あたしもっと払うよ」と言うので、じゃあもう1万円頂戴致します、と伝えると「なに言ってんの?ふざけないで」と怒られました。女心は難しい。


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鮨は大好きなのですが、そんなに詳しくないです。居合い抜きのような真剣勝負のお店よりも、気楽でダラダラだべりながら酒を飲むようなお店を好みます。
この本は素晴らしいです。築地で働く方が著者であり、読んでるうちに寿司を食べたくなる魔力があります。鮮魚の旬や時々刻々と漁場が変わる産地についても地図入りでわかりやすい。Kindleとしてタブレットに忍ばせて鮨屋に行くのもいいですね。

関連ランキング:寿司 | 湯島駅上野広小路駅上野御徒町駅

トラットリア アマルフィターナ/渋谷


Trattoria Amalfitana。2016年にオープンしたばかりの新しいお店。青山学院大学の西、いわゆる「シブニ」の辺りであり、このあたりラ・ブランシュドンチッチョアバスク琉球チャイニーズ TAMAなど人気のお店が百花繚乱。この日は奥の大テーブルを予約し8人で忘年会です。
1周年記念キャンペーンでボトルワインが半額でした。例えばこのフランチャコルタは3,500円と酒屋で買うよりも安い。こんな値段で飲んでしまって良いのだろうかと心配になる。
黒ソイのカルパッチョ。筋肉質な食感に脂のノリが良く、噛めば噛むほど甘みが広がります。やはり旬のものをシンプルに頂くのが一番ですね。
アジのタルタル。気前良く太めにカットされたアジにこれまた気前良くハーブを練りこみます。愛想の良いなめろうのような味覚であり、お茶碗いっぱいのゴハンと食べても良さそうです。
野菜の名前は失念。セロリのようなシャクシャクとした食感であり、内臓が浄化されるようなポテンシャルを感じます。アンチョビ主体の強めの味付けがワインの消費を後押しする。
ワオ!これは美しい!葉物野菜の上に色とりどりの大根たち。野菜の味が濃く、シンプルな調味と相俟っていくらでも食べてしまいます。
タコのマリネ。こちらもグっと噛み締める歯ごたえであり、モグモグといつまでも美味なる時間が口の中で続きます。
ツブ貝のマリネ。こちらも歯ごたえいいですねえ。やはり食感も味覚のうちのひとつである。臭みなどは一切なく上品な個体であり、上手くするとアワビのような風味も感じました。こんなにも大量のツブ貝、殻から取り出すの大変だったろうな。。。
ブッラータと生ハム。ブッラータとはモッツァレラチーズにクリームが練りこまれたような感じのフレッシュチーズです。新鮮なチーズと濃厚なクリームが相俟って見事な調和を醸し出す。 生ハムたちもジットリと旨味の増した熟成であり、イタリア食材の真髄を見ました。
おお、リピエノ。タマネギをくり抜いて大量のスカモルツァ(恐らくアッフミカータ)を詰め込みじっくり火を入れた逸品。食欲をそそる燻製香に旨味と塩気の強いトロトロのチーズ、滋味溢れるタマネギの甘味。この料理が好きでない人間は地球上に存在しないであろう。
うふふ、コチラも半額。やはり大勢で飲み食いするのはいいですね。色々なワインを試すことができる。最近ふたりでフランス料理とかに行っちゃうと、泡1本白1本赤1本でノックアウトされることが多くなってきたもので。
うちわ海老の リングイネ。平たく、ややもするとグロテスクな外観のエビですが、たっぷりと身が詰まっており実に濃厚な味覚。溶け出した甘味がパスタ全体に周り全体として完成された味わいです。
たっぷりの貝をパッケリと共に食す。パッケリとはカンパーニャ地方(アマルフィがあるとこ)で食べられる巨大なマカロニのようなパスタ。旨味の強い貝の出汁をたっぷりと含ませてムシャムシャと頬張る。茹で加減も完璧であり、結構な大箱で好き放題バランバランに注文しているのにこのパスタの火の通りは素晴らしいです。
カラスミのスパゲッティ。とにかくカラスミを塗す、といったスタイルではなくタマネギの甘味を上手に用いてソースのように楽しむ一皿。ベクトルとしては高岳のヒヅメ。強い旨味に酒が進む。これは日本酒とあわせても良さそうな料理です。
リゾットにはチーズがこれでもかという程ぶちこまれており、味コイメ原理主義者の私としてはほとんど恋愛に近い熱狂を持ってひと口ひと口を賞味しました。
アオリイカのグリル。こちらも思い切りの良い火入れであり、表面に焦げ目の緩急があって実に香り豊か。
オマール海老のカタルーニャ。サルデーニャがスペインに支配されていたころに伝わった料理であるため、サルデーニャの名物料理ながらも「カタルーニャ」だそうな。

能書きはさておきこの料理の旨さといったらない。爪の先までミッチミチに詰まった海老肉をシンプルで勢いのある味付けで。芳醇なエビの香り、ザクザクとした歯ごたえ、濃密なエビの味覚。本日一番のお皿でした。「僕もうおなかいっぱいなので、僕のぶんも食べます?」とシイタケ嫌い。お前いい奴だな。
〆は宮崎県産牛ミスジのタリアータ。なんとも豪快で気持ちの良い料理です。いわゆる稀少部位なのに、こんなに山盛りで食べてしまって良いのでしょうか。ごくごく薄い火入れと簡素な調味が素材のポテンシャルを最大限に引き出しています。兎にも角にも柔らかく肉の味が濃い。キッチャーノヴァッカロッサなど肉自慢のイタリアンはいくつかお邪魔したことがありますが、個人的には当店のミスジのほうが心に残りました。
肉が上質なので奮発してブルネッロ・ディ・モンタルチーノ。そしてこちらも驚愕の半値プライス。トスカーナとはつまりこうである、と主張するエレガントなフルボディ。ここまでレベルの高いワインを1本5~6千円で飲める店は世界的にも珍しいであろう。
ジェラートも実に素材の味が活きています。クリのフレーバーが旬を感じる美味しさでグッド。
ドルチェの盛り合わせ。クレマカタラナが絶品。濃い卵の風味にキャラメルのビターな風味が突き刺さる。満腹なのにも関わらず、もう一口もう一口と往生際悪く食べ続けてしまいました。

ぐわー、大満足です。上質な食材をシンプルに腹いっぱい食べた。この満足感は何事にも代え難く、これこそがトラットリア(大衆向きの小さなレストラン)の本懐です。今回は派手な忘年会であったため、その注文量も豪快でしたが、普通に訪れて常識的な量に留めれば6~7千円に落ち着きそう。

ドンチッチョケ・パッキアなど、東京にはトラットリアを標榜している割に油断するとひとり1万円を余裕を超えて来るお店が多く、油断も隙もあったもんじゃないですが、当店は精神的にも費用対効果も本物のトラットリアです。気の置けない仲間たちと是非どうぞ。


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イタリア料理屋ではあっと驚く独創的な料理に出遭うことは少ないですが、安定して美味しくそんなに高くないことが多いのが嬉しい。
十年近く愛読している本です。ホームパーティがあれば常にこの本に立ち返る。前菜からドルチェまで最大公約数的な技術が網羅されており、これをなぞれば体面は保てます。

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