マノワール・ディノ(Manoir d'inno)/表参道

青山は骨董通りから一本入ると閑静な住宅街が広がります。中でもひときわ目立つのは300坪の敷地に樹齢約130年の楠を携えた「マノワール・ディノ(Manoir d'inno)」。フランス料理界の重鎮、井上旭シェフが京橋「シェ・イノ」に続いて手掛けるグランメゾン。
ブローニュの「Le Pré Catelan(ル・プレ・カトラン)」を彷彿とさせる見事な庭園。週末の日中はウェディングで予約が埋まります。

井上旭シェフは21歳でフランスへ渡り、三ツ星「トロワグロ」や「マキシム・ド・パリ」で腕を磨いた後、帰国後は31歳の若さで銀座「レカン」の料理長に就任。その後の活躍は説明するまでもないでしょう。
今夜は連れのお誕生日祝い。泥酔すると事前に覚悟を決めていたので、泡からボトルでイっちゃいます。ワインリストをお借りしたのですが、店の格に比べると控えめな価格設定であり、結果として一番飲んでしまう価格設定でもあります。

ワインの値付けは難しいですね。私はあまりに法外な価格設定に直面すると「ビールください」「水でいいです」とヘソを曲げてしまい、結果として料理の印象も悪くなってしまうので。
乾杯のお供にはシンプルなグジェール。チーズの程よい旨味と塩気が食欲を掻き立てる。
アミューズには戻りガツオ。元気いっぱいのカツオの味覚だけで頬が緩むのですが、トッピングされたマスの卵もバランスの良い味わい。イクラだけが魚卵ではないのだ。
パンはプレーンで一般的なもの。今後、ソースがハッキリした料理が続くので、これぐらいの控えめなもので丁度よいのでしょう。バターは無塩と有塩の2種でいずれも高品質。
オマール海老とカリフラワーのムース ジュレ仕立て。これまた物凄い量のオマール海老がやって来ました。分解されてはいますが、1人前で1尾近くあるのではなかろうか。迫力のある食感に豊かな甘味、質実剛健なジュレの風味。まさに絶品と形容すべき1皿です。
フォアグラはフランかソテーのいずれかからの選択であり、ふたりでソテーをチョイス(食事では同じものを食べたほうが記憶に残り易いらしい)。フォアグラ・カブ・トリュフ・ソースと遊び心の無い直球勝負な構成です。
魚はアイナメ。淡泊な魚を補うのがソースの役割。アサリを中心にとった出汁を活用しており、品の良いアイナメの味覚にキャベツの甘味、アサリの旨味が折り重なる。
メインは当然にイノの代名詞とも言える「子羊のパイ包焼きマリアカラス(Maria Callas)」を注文。ロゼ色に焼き上げた仔羊にムギュっとフォアグラを詰め込んでパイ包み焼きにするという、食い道楽を地で行く1皿です。優しくクリアな仔羊の旨味にソース・ペリグーの迫力のある風味が乗っかり、特定個人のスペシャリテとしては最強クラスに旨い料理です。

ちなみに当館での結婚式披露宴においては、コチラのメニューを指定することも可能とのこと。結婚式でこのレベルの料理が食べれるとは羨ましい。
合わせるワインは少しひねってジゴンダスを選択。パワフルで濃厚な味わいであり余韻が長く、マリアカラスにピッタリ。我ながらセンスの良いまぐれチョイスでした。ワインを真面目に勉強したのは数年前であり細かな知識はすっかり忘れてしまいましたが、壊れて動かなくなった時計でも1日に2回は正しい時間を指すものなのだ。
ワインにはまだまだ余裕あったので、チーズも頂くことにしました。クロミエは控えめな味わいでジゴンダスの重みには乾杯でしたが、テット・ド・モワンヌとエポワスのセクシーな風味がワインに妙に良くあいました。エロい。
デザートも最もヘヴィなものを選択。コッテリとしたバナナに濃厚なショコラ、キャラメル風味のアイスクリームと、恐らくは世界でもトップクラスに重いミルフィーユ。味濃いめ原理主義の私にとってピッタリの存在です。
毒を食らわば皿まで。調子に乗ってデザートワインまで注文。味の濃いミルフィーユに覆いかぶさるワインの甘味。日本人にはあまりない発想である。
お茶菓子に引き続き、お誕生日プレートが登場。何ともキュートな絵柄であり、絵と字が下手な私にとっては尊敬しかないのですが、このお皿、グレープ系のソースが満たされており、口にすることができ、実際に美味しいのが凄い。
「うーん、さすがだわ、こういうことなのね」舌を巻く、という表現がピッタリの表情で私を見つめる彼女。「ブログで自分のことをモテるとか書いててどんだけキモいオッサンだよって思ってたけど、確かにあなた凄いわ。こんなに素敵なお祝いができるだなんて。女の子が喜ぶツボを知っている。これまでの教育の賜物よね。歴代の彼女たちに感謝だわ」ちなみにこの日のデートはこのディナーだけでなく、丸1日かけて彼女のお誕生日を祝福し続けていたのです。臆病な自尊心と尊大な羞恥心。それが私をそうさせる。
随分と過去に寛容だねえ、僕のことをそんなに評価してくれるなら、独り占めしたいとかいう気持ちは芽生えないわけ?私は意地悪な観測気球を上げてみる。「そういう趣味は全く無いなあ。魅力的な才能は世に出るべきよ。天賦の才はシェアして皆で楽しむの。美術品だって、公衆の縦覧に供されてこそ価値を持つ。あなたはあたしにとって特別な人だけど、みんなにとっても特別な人。それでいいじゃない」そう、あなたはあたしにとって特別な人。彼女は確認するようにひとりごちた。

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「好きな料理のジャンルは?」と問われると、すぐさまフレンチと答えます。フレンチにも色々ありますが、私の好きな方向性は下記の通り。あなたがこれらの店が好きであれば、当ブログはあなたの店探しの一助となるでしょう。
日本フレンチ界の巨匠、井上シェフの哲学書。日本でのフレンチの歴史やフランスでの修行の大変さなど興味深いエピソードがたくさん。登場する料理に係る表現も秀逸。ヨダレが出てきます。フランス料理を愛する方、必読の書。

マノワール・ディノ
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鮨富士/すすきの(札幌)

すすきのは狸小路アーケードに直結する雑居ビル3階。相当に古い建物ですが丁寧にメンテナンスされており、共用のお手洗いなどは非常にキレイ。
カウンター8席とテーブルが1卓の小さなお店。厨房とカウンターの仕切りは低くシームレスに繋がっており、大将の握る姿が良く見える。工藤真也シェフは札幌「すし善」や銀座「銀座鮨処順」などで修行し2008年に独立。
始まりの小鉢は何故かポテサラ。決して不味いわけではありませんが、意図は不明。
芽ネギを巻いているのはマツカワ。カレイの中であり、ヒラメに負けない美味しさ。クリアな味わいながら旨味も強い。奥はヤナギノマイ。ソイの仲間であり歯ごたえが良くクセがない。
ホタテも清澄な味わいであり、ややもするとコンパクトに感じるかもしれません。ちなみに添えられたワカメの緑の味が濃く、ポン酢でサッパリとたべて美味。
お酒はサッポロクラシックに始まり日本酒をいくつか。1合700円台〜と良心的な価格設定であり、ガンガンと飲める設計です。
マグロは函館の戸井産。津軽海峡の北側に面した注目の漁港で、海峡を挟んで南側が青森の大間にあたります。赤身は肉のような強い味わいがあり、トロは脂がしつこくなくサッパリと旨い。
カニのほぐし身をトッピングした冷製の茶碗蒸し。キノコの風味や海鮮の出汁が強く美味。
カニやタコ、クジラ、クラゲ、ホタテなど海の幸が一堂に会します。ミョウガのシャキっとした食感が引き立て役。
海鮮サラダ(?)でしょうか、北海道産の真っ白なトウモロコシや万願寺唐辛子。ヒラマサが旨い。 ただし肉の存在は謎。北海道の牛肉(忘れた)なのですが、ただただ固く旨味も抜けておりゴールが見えません。
にぎりに入りましょう。まずはスルメイカ。スルっと柔らかく甘みが強い。北海道産の山わさびが乙な味。
日高の定置網漁業で漁獲される天然秋鮭ブランド「銀聖」。これがシャケかと思うほど上品な味わいであり、ブラインドで食べれば鮭と答えられないかもしれません。他方、鮭特有の脂や旨味は薄く、上品すぎるきらいもあります。
ガリはショウガを丸のまま着けて、その場でスライスしてくれる私好みのタイプでした。
ワラサ。若いブリであり脂のノリは中程度。心のある身の旨味に舌鼓。
利尻のウニ。美味しいのですが、この量の少なさは何なんだ。普通のシャリのサイズに軍艦巻きで、磯の風味をきかせて食べたかった。
お椀はこれでもかというほど海藻が投入されており、ちょっとグロいです。
シンコ。仕込み具合は申し分ないのですが、身が薄く食べごたえに乏しい。もう少し枚数を増やしてくれると嬉しいな。
エビは甘エビとボタンエビを同時に。美味しいのですが、同時に提供する意図は不明。1本づつ食べ比べたほうが味わいにグラデーションがでて楽しいと思うのだけれど。
玉子は焼きたててホンワリと温かく優しい味わい。
松茸。見た目通りの味わいであり、香りは良いのですが鮨のタネとするには微妙かもしれません。

ここで大将の手が止まったので、あ?え?これで終わり?というヘンテコなフィナーレでした。穴子や巻物など終わりを予感させるものが無かったため、心の準備ができておらず不完全燃焼です。

お会計はひとりあたり1.5万円と、カウンターに座って食べる鮨にしては安いほうでしょう。しかしながら記憶に残る逸品というものは無く、少量他皿の料理が淡々と終わった感覚です。もうちょっと値段が高くても良いから、迫力のあるストーリ仕立てが良かったなあ。酒は安いので、飲み中心のつもりで訪れると良いでしょう。


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鮨は大好きなのですが、そんなに詳しくないです。居合い抜きのような真剣勝負のお店よりも、気楽でダラダラだべりながら酒を飲むようなお店を好みます。
この本は素晴らしいです。築地で働く方が著者であり、読んでるうちに寿司を食べたくなる魔力があります。鮮魚の旬や時々刻々と漁場が変わる産地についても地図入りでわかりやすい。Kindleとしてタブレットに忍ばせて鮨屋に行くのもいいですね。

スヰートポーヅ/神保町

B級グルメ激戦区の神保町。飲食店が密集するすずらん通りにある1936年創業の餃子専門店「スヰートポーヅ」。初代は中国に餃子の修業に出た後に満洲国大連で餃子店を開業。日本への帰国と共に移転(?)したのが当店です。現在は3代目。印象深い店名は「おいしい包子(パオズ)」という意味であり、イギリス人っぽい表現です。
レトロというか何というか、使い込まれた椅子からはスポンジがはみ出しており、平たく言うとボロい店内です。一応4人掛けではありますが、男子4人だと厳しいかも。相席が前提のお店であり、見知らぬ人と向かい合って餃子を貪り喰う様は酷くシュールです。
メニュー構成は至ってシンプル。オカズは焼餃子・水餃子・天津包子の3種であり、それにライスや味噌汁をつけるかどうかといった選択肢です。ボリュームディスカウントも無いため、ある意味フェアに料理を選択できるのが良いですね。焼餃子は持ち帰りもできます。
餃子を全種類単品で注文すると、まずは水餃子が登場。これは、旨い。アルデンテに茹で上がった生地がモチモチと美味しく、まるで上質なイタリア料理を食べているかのような美味しさです。
続いて焼き餃子。粗めに挽かれた豚肉の食感が良く、生姜の香りが鳴り響く。ただしニンニクが入っていないためパンチはやや弱い。下味がしっかりとついているので、タレなどつけなくても充分に楽しめるでしょう。
そうそう、当店の焼餃子の形状は少し変わっていて、具の全てを包まず真ん中で留めただけの棒状になっています。サイドから肉汁が漏れてしまい、小籠包的なジューシーさが感じられないのが少しもったいない。
天津包子。生地の薄い肉まんといった仕様であり、やはり生地が美味しいです。
餡は焼餃子とは異なりシイタケやタケノコなどがたっぷりと加わり、ザクザクと食べ応えのある食感です。やはりタレなどは不要であり、具材の旨味を楽しむ逸品。

昼夜共にピークタイムは行列する人気店だけあって美味しかった。ひとり客が多くパっと来てササっと食べて帰るというハードボイルドな雰囲気であり、のんびりおしゃべりという感じではありません。中華風ファストフードのつもりで訪れましょう。


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それほど中華料理に詳しくありません。ある一定レベルを超えると味のレベルが頭打ちになって、差別化要因が高級食材ぐらいしか残らないような気がしているんです。そんな私が「おっ」と思った印象深いお店が下記の通り。
1,300円としてはものすごい情報量のムック。中国料理を系統ごとに分類し、たっぷりの写真をベースに詳しく解説。家庭向けのレシピも豊富で、理論と実戦がリーズナブルに得られる良本です。

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シノリ(Shinori )/武蔵小山

武蔵小山駅を出てすぐにある焼鳥屋。焼鳥と言ってもフランス料理に寄せており、「当店はビールとワインしかございません。ワインが飲めない方の入店はお断り」と矜持のあるソムリエール。ミシュランガイドのビブグルマンにも選出されています。
まずは前菜。1時から時計回りにホオズキ、ポワロネギ、パテドカンパーニュ、万願寺唐辛子、ラタトゥイユ、お魚ののマリネ。いずれも気の利いたビストロで出てくる料理と同格であり、万願寺唐辛子は焼きたてで供するなど食べる魅力に溢れます。

山中良則シェフは元々フランス料理出身であり、ジャンルにこだわらず修業されたそうなのですが、火入れの奥深さに魅了され焼鳥店へと照準をあわせたそうです。
ササミにはタプナードを添えて。タプナードとはプロヴァンス地方の名物であり、オリーブをミンチにしてアンチョビやオリーブオイル、ニンニクなどで風味を整えたペースト。肉には少し酢をかけているのかなあ、焼鳥としては強めの酸が印象的。
ワインリストが無い店はビミョーなことが多いですが、当店のソムリエールはヲタク気質すら感じるワインマニアと見て取れたので、相談しながら決めると良いでしょう。産地はアルザスとロワールが多め。値付けは料理の価格設定に比べると少し高めです。
ネギマ。これはすべての秩序が崩壊するほど美味しい1本です。バリっとした食感の外皮に弾力のあるモモ肉。噛みしめる程に溢れ出る肉汁と旨味。ネギのひょっこりとしたアクセントもベストマッチ。本日一番の、というか人生で食べた中で最も旨いネギマでした。
温前菜を挟んできます。やんわりと火の通ったイノシシ肉にカツオと梅でとった出汁をたっぷりと注ぐ。レッドホットチリペッパーズもかくやと思わせるミクスチャークロスオーバーな逸品であり、焼鳥屋でこのような料理が出るというコンセプトが面白い。
つくねは塩です。個人的にはつくねは濃厚なタレと卵黄で食べるのが好きなのですが、この1本に限っては塩が良い。ジューシーで肉そのものの味覚が素晴らしく、細かく刻まれたナンコツが生み出す食感のリズムもグッドです。
赤ワインに参りましょう。最近の焼鳥屋はなぜかワインを出したがる傾向にあり、そのくせワインに係る知識が無茶苦茶であったり、ソーヴィニョン・ブランを用いたピノノワールの赤という珍しいワインを用意している店があったりとちゃらんぽらんなことが多いですが、当店のワイン選びは本物です。
ひざ。コリコリとした食感を楽しむ1本であり、箸休め的な印象を受けました。
レバーには臭味が一切なく、これは液体なんじゃと思えるほどトロトロとした食感。少しふられた山椒の香りもすごくいい。レバーだけに度肝を抜かれる美味しさでした。先のスパイシーなグルナッシュがとても良く合う。
野菜焼き。先のヒザと同じく緩急織り交ぜてくるのが良いですねえ。トマトをしっかりと肉で巻いたり、ズッキーニにラルド(豚の脂の生ハム)をのせたりと小技が光ります。
メインはフランス産の鴨。ぐわー、こんなん完全にフランス料理のメインディッシュやんか。ムキムキと筋肉質でマッチョな味わいを赤ワインで流し込む。レンコンのシャクっとした食感も添えられ至福のひととき。
〆の鶏がらスープもきちんと美味しい。同じ武蔵小山の「まさ吉」の名物ラーメンも悪くないですが、純粋にスープとしての味わいであれば当店に軍配があがる。

しっかり飲み食いして1万円。素晴らしい費用対効果ですねえ。あれだけワインを飲んでこの価格に落ち着くとはフランス料理店としても優秀。焼鳥屋としても創作的で、感覚が研ぎ澄まされた味覚が続きます。焼鳥屋としてはトップクラスに好きなお店。オススメです。


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イタリア料理屋ではあっと驚く独創的な料理に出遭うことは少ないですが、安定して美味しくそんなに高くないことが多いのが嬉しい。

それほど焼鳥に詳しいつもりは無いのですが、私のコメントが掲載されています。食べログ3.5以上の選び抜かれた名店を選抜し、お店の料理人の考えを含めて上手に整理された一冊。

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