魚介料理の繊細さ、素材の質、食べ疲れしない優しい味わいが絶賛される新宿の「Il Lato(イル ラート)」。私の最も好きなイタリア料理店のひとつであり、食べログでは百名店に選出され、ゴエミヨにも掲載されています。
店内は厨房をぐるりと取り囲むカウンター席にテーブル席がいくつか(写真はヒトサラ公式ページより)。木材を多用したインテリアで、周囲の喧騒とは無縁のシックな空間が広がります。これまでに訪れた際は割に空いていることが多かったのですが、この日は満卓。「今夜は旨いものを食べるぞ!」といったゲストの静かな熱気が店内を満たしています。
さっそく自慢のお魚料理が始まります。炭火で香ばしく焼き上げられた「すだち鮎」。濃厚でほろ苦い肝のソースを敷き、鮎自身の持つ力強い風味を余すことなく引き立てます。スイカの冷製スープとの組み合わせも心地よく、その青っぽい風味が盛夏にピッタリです。
名物のタコパンにフォカッチャ。この日のフォカッチャは程よく油に満ちておりジュワっとジューシーで、(私の体調に因るものかもしれませんが)普段よりもとても美味しく感じます。パスタもあるというのに何度もおかわりしてしまいました。
トウモロコシと毛ガニのスフォルマート。イタリア風の茶碗蒸しであり、その生地は実に滑らか。トウモロコシの凝縮された甘みと毛ガニの旨味が香りが口いっぱいに広がります。クリーミーな食感の中に北の海の幸と夏の畑の恵みが溶け合った、まさに至福のひと皿です。
ミネストローネ。トマトの赤色や酸味に頼らないのが当店流。多くの野菜がじっくりと煮込まれ、野菜本来のピュアで優しい甘味を楽しみます。野菜の生命力が体に染み渡るような深い味わいはまさに飲むサラダ。ぴゅあいんざわーるど。
キンメダイ。お魚そのものの美味しさは当然として、鯛のアラや骨から丁寧に取られた黄金色のスープが絶品。魚介の滋味という滋味がすべて溶け込んだスープがキンメダイ自身の味わいを何倍にも増幅させます。
皮目をパリッと香ばしく焼き上げたマナガツオ。白身魚とは思えないほどの強い旨味と、しっとりふっくらとした食感が魅力的。ソースにはフォンドボーを起用しており、牛から丁寧に取られた濃厚な肉のエキスが味わいの輪郭を広げます。
荒波で知られる勝浦の海で育ったアワビ。舌に吸い付くような力強い食感があり、噛みしめるたびに凝縮された磯の香りと上品な甘みが口の中に広がります。決め手は自身の肝から作られた濃厚なソース。クリーミーでコク深い肝の旨味と、後を引くほろ苦さ。まさにアワビという素材を丸ごと味わい尽くすための、究極の組み合わせです。
パスタはリガトーニ。具材には鰻と万願寺唐辛子を用いており、その豊かな脂のコクと爽やかな風味の組み合わせが実に独創的。和の食材とイタリアンの技法が融合した、夏のエネルギーに満ちた味わいです。
続くパスタはタヤリン。卵黄をたっぷり用いるパスタであり、モッチリとしながらも歯切れの良い独特の食感が心地よい。蝦夷鹿のラグーといった力強いソースに負けない濃厚な風味が堪りません。アクセントに山椒を組み込んでおり、その鮮烈な香りとピリリとした心地よい刺激が後味に軽やかさとキレをもたらします。センスいいなあ。
但馬牛のイチボ。きめ細かな肉質と香りの良さで評価されているブランド和牛をシンプルに焼き上げました。余計なソースは全く不要。素材への絶対的な自信が伝わる潔い肉料理です。まるで京都の割烹料理店のようである。
デザートはパンナコッタ。アーモンドのまろやかなコクを上手く閉じ込めており、舌触りは絹のように滑らかで完成された味わいです。旬のメロンがもたらす瑞々しい甘みも良く合う。添えられたミントの清涼感は全体をキリッと引き締め、甘いだけではない洗練された大人のデザートに昇華させています。
ハーブティーとお茶菓子で余韻と会話を楽しみごちそうさまでした。美味しかった。相変わらず外連味のない料理で大満足。素材をいじくりまわし過ぎて何が何だかよくわからなくなっちゃってる高級店は、当店のように明確なビジョンを示すスタイルを見習うべきでしょう。これは和の料理人に対しても言えることだ。
加えて、何度訪れても毎回必ず美味しいという安定感も素晴らしい。何なら系列店「scaglia (スカーリア)」への訪問も含めてこの夜はカコイチだったかもしれません。オープンから数年経つというのに記録を更新し続ける魚のオバケ。次回は冬の魚が食べたいなあ。

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イタリア料理屋ではあっと驚く独創的な料理に出遭うことは少ないですが、安定して美味しくそんなに高くないことが多いのが嬉しい。
- ウシマル(Ushimaru)/山武市(千葉) ←ちょっとした海外旅行に来たような満足感。
- ヴィラ・アイーダ(Villa AiDA)/岩出(和歌山) ←我が心のイタリアン第1位。
- プリズマ(PRISMA)/表参道 ←高価格帯のイタリア料理という意味では東京で一番好きなお店かもしれない。
- 三和(さんわ)/白金台 ←直球勝負で分かり易く美味しい。
- merachi (メラキ)/西麻布 ←質実剛健ながら日本的な繊細な感性も感じられる。
- Il Lato(イル ラート)/新宿三丁目 ←お魚料理のひとつの究極系。
- ヴィンチェロ(Vincero)/新宿御苑 ←どのような大食漢が訪れたとしても満足すること間違いなし。
- リストランテ ラ・バリック トウキョウ(La Barrique Tokyo)/江戸川橋 ←無冠の帝王。
- アロマフレスカ(Ristorante Aroma-fresca)/銀座 ←好き嫌いを超えた魅力。普遍性。
- ザ・ひらまつ ホテルズ&リゾーツ 仙石原/箱根 ←最高の家畜体験。
- クッチーナ(CUCINA)/大垣(岐阜) ←何でもアリの旨いもの屋。
イタリア20州の地方料理を、その背景と共に解説したマニアックな本。日本におけるイタリア風料理本とは一線を画す本気度。各州の気候や風土、食文化、伝統料理、特産物にまで言及しているのが素晴らしい。イタリア料理好きであれば一家に一冊、辞書的にどうぞ。