2011年に「B.B.S. DINING.」として開業したのちリブランドした「Couche(クーシュ)」。AV女優タワマン強盗事件で話題となった「アトラスタワー中目黒」の1階商業区域に位置します。
店内はカウンター席にテーブル席・ソファ席に加え半個室も用意されています(以上、写真は公式ウェブサイトより)。温かみのある木目調のデザインを基調としており、フルオープンキッチンからは活気と臨場感がもたらされます。
ところで当店はシェフは凄腕なのですがサービス陣がポンポコポンですね。どいつもこいつも実にアレであり、キッチンで料理があがってもデシャップに放置されがちで大渋滞。アツアツの料理が見事な速度で冷えていき、見かねたシェフが自らサーブする勢いです。
ワインについても「ペアリング」といいながら写真の量でチョロチョロと4杯しか提供されず、皿数とワインの数が合っておらず、抜栓やサーブの手順にも違和感がある。これで「デギュスタシオン」「ペアリング」などと言われては、流石にシェフが気の毒だ。
アミューズについても、店じゅうから「すみませーん」「おねがいしまーす」と居酒屋のような呼び声が鳴り響いているというのに、台本を読むかのように一品一品、実に丁寧に説明してくれます。話が長く、全体が見えていない。しかもこのタイミングでフラっと訪れた予約ナシの客を気前よく入店させており、思考の歯車が外れています。
野菜のテリーヌ。朝採れ野菜(本当か?)をキレイに成型したもので、4種のソースで楽しみます。この皿についての説明も居眠りしそうなほどに長く、そのうえ4種のソースが何でできているのかを力説する割に肝腎の野菜について言及は無いという独特の解説スタイルです。
パンは中々に美味しく、とりわけブリオッシュと燻製ホイップバターが心に残りました。料理が出て来ず(完成はしているがデシャップに放置されたまま配膳されない)、ヒマなのでパンで時間をつぶすのですが、早々に食べ切っているというのにお代わりはありませんでした。
追加料金でお願いした岩牡蠣。「夏輝」というブランドものを用いており、優しく火を通しプリっとした食感と濃厚な海の旨味を閉じ込めています。添えられたムースにも牡蠣のエッセンスが凝縮されており絶品。ところでワインにつき、ちょうど牡蠣を食べ終わった頃に「ペアリング」の白ワインがサーブされ、この間の悪さは流石としか言いようがありません。
極薄のパートフィロで鮎を丸ごと包み、香ばしく揚げています。パリパリと砕ける軽やかな生地の中から、しっとりと火が通った鮎の身が現れ、鮎特有の瑞々しい香りと上品な甘み、そしてワタのほろ苦さが一体となり、味わいに奥行きを与えます。食感の鮮やかな対比と、初夏の風味が楽しめる独創的な一皿です。鮎料理において今年いちばんの傑作かもしれません。
続く真鯛は全然おいしくありません。なぜならデシャップの上で随分と長く放置されていたから。加えてカトラリーも用意されなかったので、アホを装って手で食べてみました。嘘ですちゃんとカトラリーを催促しました。
さて、真鯛に合わせる「ペアリング」ですが、「規程の杯数を飲み切ったのでここからは追加料金」というお洒落な説明があったので、もうこれ以上このお店にお金を落とすのは悔しいので、水道水を合わせて食べました。ペアリングにも色々あるのだ。
メインは鹿のロースとフォアグラのパイ包み焼き。焦げ茶色に焼かれた香ばしいパイ生地の中から、しっとりとした鹿のロースと豊潤なフォアグラが現れます。鹿肉の上品で力強い旨味と、フォアグラの濃厚でとろけるようなコクが溶け合う。赤ワイン主体の深い味わいのソースも実にリッチであり、これぞフランス料理と思わず唸る逸品です。
クラシックなフランス料理の余韻に浸っていると、謎にカレーが登場し、ずっこけました。「食材の端材を用いてSDGsに貢献している」とご高説を垂れるのですが、君のサービスが遅いせいで料理が冷え切り、皿が厨房へ突き返されている状況のほうが余程食材を無駄にしているのじゃないのかね、君?一体。
デザートはヴァシュランをアレンジしたものですが、これはちょっとイマイチですね。アクセントに赤紫蘇を用いているのですが、フランボワーズの酸味や白桃の繊細な甘みと合わせた際に、その個性が際立ちすぎるきらいがある。ソルベやメレンゲそのものは美味しいので、全体の調和を乱した赤紫蘇抜きでお願いしたいところです。
随分と待たされた紅茶を10秒で飲み切り退店。おつかれさまでした。
料理についてはクラシックな軸をしっかりと保ちつつ、華やかで色気もあり、何よりきちんと美味しい。食材の質も良く、ケチのつけようがありません。他方、サービス陣はまるで不協和音の楽団であり、笑顔は人工的で心からのもてなしを感じられず、足取りは重くゲストの視線から逃げており、ようやく捕まえてもワインの取り扱いは未熟で説明からは知識の浅さが露呈しており、我々の期待を見事に裏切ってくれました。
この店の魂ともいえる料理の輝きを、接客という名の薄暗い霧で覆いつくし、我々の心に残ったのは美味の記憶に寄り添う不満の余韻のみ。シェフは調理に配膳に皿洗いに水の補充にと八面六臂の大活躍のシゴデキマンであり、こんな所で足を引っ張られているのは社会的損失に思えます。さっさと見切りをつけて独立したほうが世の中のためになるでしょう。私はシェフを心から応援したい。実力があれば消えることはない。

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「好きな料理のジャンルは?」と問われると、すぐさまフレンチと答えます。フレンチにも色々ありますが、私の好きな方向性は下記の通り。あなたがこれらの店が好きであれば、当ブログはあなたの店探しの一助となるでしょう。
- オトワ レストラン(Otowa restaurant) ←本気でフランスの料理文化に取り組んでいる。
- ガストロノミー ジョエル・ロブション (Joel Robuchon) ←やはり完璧。
- La couleur d'ete(ラ クルール デテ) ←選んだ孤独は良い孤独。
- アピシウス ←東京最高峰のレストラン。
- ナリサワ ←何度訪れても完璧。
- elan(エラン) ←表参道のナポレオン。
- 銀座 大石 ←自分が働くならこういう職場。
- ナベノイズム ←世界観がきちんとある。
- ル・マンジュ・トゥー ←接客は完璧。料理は美味そのもの。皿出しのテンポも良く、とにかく居心地の良いお店。客層も好き。
- エルヴェ(eleve) ←アラカルトでもコースでも自由自在。
- TAIAN TOKYO(タイアン トウキョウ) ←流行り廃りに捉われないマッチョな料理。
- アサヒナガストロノーム ←そこらのフランス料理店とは格が違う。
- エステール(ESTERRE) ←料理もサービスもパーフェクト。外せない食事ならココ。