学芸大学駅から歩いて10分ほどの割烹料理店「トクスエ」。目黒郵便局まん前の不思議な形状をしたビルに入居しており、実に気になる存在です。目黒通り沿いなので、目黒駅からタクシーで向かうのも便利です。
店内はカウンターのみで8席ほど。最初にこの日の食材を提示し、何をどのような調理で食べるかをシェフと相談しながら決めていくスタイル。もちろんコースやメニューから料理名をしての注文もOKです。古賀孝之シェフは辻調理師専門学校出身で、「なだ万」などで経験を積んだそう。「香水NG」と明確に打ち出している姿勢がクールです。
飲み物はエビスの小瓶が850円と周辺相場に比べて高め。また、日本酒やワインの値付けが一切不明であり、なんなら料理の価格も説明が無いため、心配な方はコース料理でお願いするのが良いでしょう。
八寸が美しい。なのですが、刺青丸出しのスタッフの手際が悪く素人同然で、見ているこっちがヒヤヒヤし、料理を味わうどころではありません。役立たずを通り越して足手まといであり、シェフがワンオペでやったほうが全員幸せになれるような気がしました。
シマアジ。皮目を炭で香ばしく炙った焼き霜造りであり、上質な脂の甘みと旨味が凝縮されています。炙った皮目の香ばしさと、中心部の刺身ならではのとろけるような食感の対比が見事です。粒マスタードを起用するのも面白く、爽やかな酸味とピリッとした辛味が、シマアジの豊かな脂をキリッと引き締め、味わいに奥行きとモダンな印象を与えます。
夏の味覚の王様、岩ガキ。大ぶりで肉厚な身は実にクリーミーで濃厚。その力強い味わいを爽やかなポン酢がきゅっと引き締めます。素材の味を最大限に活かす、王道の組み合わせです。
賀茂茄子のゴマ味噌田楽。油でじっくり火を通した賀茂茄子は、緻密な果肉がとろりとろけるような食感に。そこにたっぷりとかかるのが香ばしい胡麻味噌。味噌の豊かなコクと優しい甘味、胡麻の香ばしい風味が一体となり、淡白ながらもジューシーな賀茂茄子の味わいを力強く引き立てます。
肉料理として鴨を焼いてもらいました。皮目はパリッと香ばしく、身はしっとりとジューシー。噛むほどに野趣あふれる濃厚な旨味と脂の甘みが口の中に広がります。和風のバルサミコソースは程よく甘酸っぱく、鴨の脂を爽やかに引き締めます。
〆の土鍋ゴハンの具材はキンキと実山椒でお願いしました。調理そのものはシェフが仕切るため当然に順調なのですが、スタッフのお椀に盛り付ける様が全くダメですね。パン生地でも練っているかのようにしゃもじでコネコネし始め、米のデンプンが壊れて粘り気が出て、まるでお粥みたいな食感になってしまいました。これは素人どころか家で自炊すらしてないに違いない。しゃもじでご飯を「切る」ように動かすのがコツって家庭科の授業で習わなかった?
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絶望的な気分でお会計。明細は不明ですがひとりあたり1.5万円の支払金額で、東京で楽しむ割烹としては悪くない価格設定です。味も良いだけに、どういう事情で雇わなければいけないのかは存じ上げませんが、スタッフの存在が実に口惜しい。自宅に戻ってスタッフが作成した領収書を確認すると、日付が順調に間違っていました。

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目黒は焼鳥やトンカツ、カレーにラーメンと生活に密着した飲食店が多く、そのいずれのレベルも高い。地味ですが豊かな食生活が約束されている街です。
- レストランユニック(restaurant unique) ←ジビエが自慢。
- クロデグルメ(Clos Des Gourmets) ←1万円でお釣りが来るミラクルなフランス料理店
- 立飲ビストロシン サンテ(SHIN Sante) ←普段使いの最高峰。
- 手づかみDining 東京ハンズ(Tokyo Hands) ←大好きだ愛してる。
- リナシメント(RINASCIMENTO) ←前菜の盛合せ。ぐわー!なんだこりゃ!
- 和創作 太(わそうさく た) ←これをお買い得と言わずして何と呼べば良いのでしょうか。
- 鳥しき ←焼鳥界のレジェンド。
- LAND(ランド) ←目黒のカレーはコチラでキマリ。
- 薬膳スープカレーシャナイア(Shania) ←でもスープカレーならこっち。
- 支那ソバ かづ屋 ←下手な中華料理屋に行くよりも余程上質。ワンタンメンはマスト。
- 鶏そば きび ←まるで上質な水炊き屋のような味わい。
- とんき ←80年の歴史は伊達じゃない。
- タイ料理 みもっと ←ここはガチでやばたにえん。
市や区など狭い範囲で深い情報を紹介する街ラブ本シリーズ。2015年の『目黒本』発売から約4年の年月を経て、最新版が登場!本誌は目黒に住んでいる人や働いている人に向けて、DEEPな目線で街を紹介するガイドブックです。