ミシュランやゴ・エ・ミヨに常連の「シンポジウム(SYMPOSIUM)」。以前は繁華街の汎用的なビルで営業していましたが、2023年に新根塚町に移転し一軒屋レストランとして再出発。薪焼きが自慢の店なので、軒先に薪が格好よくに積み上げられています。
おー、これはカッコイイ内装ですねえ。窓は広く、上手く視線を遮るオシャレな壁も用意されており、海外のリゾート地に来たような錯覚をおぼえます。
廣野智之シェフはイタリアで長く腕を磨き、帰国後は富山の旬の食材を活かした地域密着型の料理人としてその地位を確立しています。
廣野智之シェフはイタリアで長く腕を磨き、帰国後は富山の旬の食材を活かした地域密着型の料理人としてその地位を確立しています。
ワインはお料理に合わせたフルペアリングでお願いしました。なんやかんやで10種類以上飲んだかな。イタリア産のものを中心に富山のワインも織り交ぜており、哲学を感じるセレクションでした。
お口取りに「大地の雫」。トウモロコシを富山の湧き水でのばし、冷製スープに仕立てています。コクがあり甘味も伸びやか。大ジョッキで飲みたいくらいです。
アミューズは地元の食材がフルラインナップで登場します。上質なツマミで上質なスパークリングワインを傾けながら、上質な空気に浸る上質な私。
トヤマエビ。程よく熱が通っており、とろりとした舌触りが心地よい。ソースにはヤギのヨーグルトを用いており、紫蘇の風味を聞かせた緑のオイルが実にクール。甘み、酸味、香りのバランスが絶妙です。
花ズッキーニに黒部のブランド豚のソーセージとリコッタチーズを詰めました。花ズッキーニのほのかな甘さと繊細な風味の中から、ソーセージの力強い旨みと肉汁が溢れ出します。そのジューシーな味わいを、フレッシュなリコッタチーズが優しい甘さとクリーミーなコクでふんわりと包み込む。複雑で重層的な味覚です。
パンは焼きたてのものがタイミングよく3種用意されてます。写真はカボチャのタネとゴマを活かしたパンで、シード系の香ばしいかおりが食欲を刺激します。
春キャベツと黒部の乳飲み仔山羊。このキャベツは美味しいですねえ。春キャベツの瑞々しさと甘みが、薪の直火で焼き上げられることで凝縮され、ほのかなスモーキーな香りが加わる。外葉はカリッと香ばしく、内側はジューシーで柔らかく対比が楽しい。
魚介のスープで粒々のパスタを煮込みました。魚介はイカが主体で、カラスミも散らしてある。魚介の旨みが凝縮したスープを、粒々のパスタ一粒一粒が余すことなく吸い込んでおり、芳醇な塩気と濃厚な風味が酒を呼ぶ。本日一番のお皿です。
先のトヤマエビの頭を熾火でじっくりと焼き上げました。炭火のようなバリバリ感は無く、ほどよくシットリ。ついつい日本酒が欲しくなります。
薪火で焼き上げたアマダイは、まず豊かな燻香が食欲をそそります。ウロコはパリパリと香ばしいスナックのような食感で、その下にある白身は驚くほどふっくらと柔らかく、上品な甘みを持っています。大地の香りを持つビーツのソースが、その繊細な味わいに寄り添い、奥深い風味の広がりを生み出しています。食感と香りの対比が見事なひと皿です。
池多ファームのジャージー牛のサーロイン。と言っても全く脂っぽくなく、むしろ赤身の強さを感じるほどです。白眉は丸ごと焼かれた新玉ねぎで、薪火でじっくりと熱を入れることで特有の辛みは消え、その瑞々しさが驚くほどの甘みへと昇華します。表面は薪の豊かな燻香をまとって香ばしく、ナイフを入れると中から甘い水分が溢れ出すほどです。
パスタには南海緑を起用します。南海緑とは実エンドウ(グリーンピース)の一種であり、鮮やかな緑色と、しっかりとした甘みが特長的。自然で豊かな甘みと豆の青々しい香りに上質なチーズも加わり、シンプルながらも素材の良さが際立つ逸品。ある意味では「かん袋」のくるみ餅に方向性が似ている。
デザートはベリー大特集。色鮮やかで多層的なプレゼンテーションであり、数種類のベリーが織りなす甘みと酸味の鮮やかなグラデーションがエレガント。それぞれの甘酸っぱさと独特の風味が共鳴し、口の中で弾けるような果実感をもたらします。
小菓子も用意され、右の生姜風味の生キャラメルが面白い味覚。お茶にはカフェ・シェケラートという、カクテルシェイカーで作るアイスコーヒー(?)を用意してもらいました。
以上を食べ、フルペアリングを付けてお会計はひとりあたり3万円。富山の豊かな自然環境を活かしており、富山、富んだ山という県名を体現した素晴らしいコースでした。ワインも無理に主張せず料理に上手く寄り添っている。
4年前にお邪魔した時からは大きくバージョンアップ。繁華街からは少し遠いですが、みんなでタクシーを乗り合わせて訪れましょう。オススメです。

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富山は食の宝庫。天然の生け簀である富山湾にジビエや山菜が豊富な山々、そして米と水。レストランのレベルは非常に高く、支払金額は東京の3割引~半額の印象です。だいぶ調子に乗ってきた金沢が嫌な方は是非とも富山に。
- 鮨 大門 ←銀座の半額で味と居心地の良さはそれ以上。
- 海老亭別館(えびていべっかん) ←多皿なのにモブキャラがひとつもない。
- ふじ居(ふじい) ←非の打ち所がない日本料理店。
- 美乃鮨(みのずし) ←最も幸せパワーが発揮される価格帯。
- 吟魚のはなれ 吟チロリ(ぎんちろり) ←海鮮居酒屋の最高峰。
- ピアット スズキ チンクエ(Piatto Suzuki Cinque) ←青は藍より出でて藍より青し。
- ランソレイエ(Lensoleiller) ←フランスの田舎のレストランをそのまま持ってきたような感性。
- カーヴ ユノキ(Cave Yunoki) ←料理のほとんどを富山の食材で勝負しているのが素晴らしい。
- 日本料理 山崎 ←ミシュラン3ツ星和食がこの価格で楽しめるのは富山の奇跡。
- 天ぷら小泉 たかの ←富山駅から近く昼も夜も空いているのが旅行者にとっても便利。
- KAWAZ(カワズ) ←「レヴォ(L'evo)」でスーシェフだったムッシュ川崎淳が富山市内で開業。
- レヴォ(L'evo) ←クマがぶらさがっている。
- パティスリー ジラフ(PATISSERIE LA GIRAFE) ←サロショを席巻する予感。
待機児童ゼロ、結婚した女性の離職率の低さ、貧困の少なさ、公教育の水準の高さなど、日本型の「北欧社会」が富山県にはあると分析する1冊。10年間にわたって富山県でのフィールドワークを続けてきた財政学者の視点が興味深い。