クイント (quinto)/中目黒

会員制レストラン「Treis(トレイス)」の河島英明シェフが監修する姉妹店として2023年に開業した「クイント (quinto)」。いわゆるイノベーティブ系のお店であり、食べログでは百名店に選出されています。

最寄り駅は中目黒もしくは池尻大橋なのですが、いずれからもすげえ遠く坂もあるので、タクシーでの訪問を前提としたほうが良いでしょう。
店舗は築80年を超える古民家をリノベーションしたそうで、写真は綺麗に撮っていますが、実際はもっと雑然とした雰囲気です(以上、写真は公式ウェブサイトより)。壁面には安物のハンガーラックがズラズラと並び、空調の効きが悪いためか扇風機が風速5メートルぐらいの勢いで回りっぱなし。客単価3-4万円の店としては過酷な環境と言わざるをえません。
ワインリストの用意は無いとのことで、それじゃあ何があるかのかを問うと「泡と白と赤と、あとオレンジもあります(キリ」という回答で、ケーキ切れなさそう。
妙にペアリングを推してくるなと訝しみましたが、単に飲み物の係にワインの知識と経験が無いだけなのでしょう。抜栓も恐ろしくヘタクソで、かつ、ちょっとワインをナプキンに含ませた上にたっぷり捨てるという謎ムーブをかましてきます。お前いま俺のワイン千円分ぐらい捨てたからな。
気を取り直してお食事に参ります。まずは甘エビ。トマトフレーバーのマヨネーズ的なソースで頂きます。底には卵料理のミモザ的なものが潜んでおり分かり易く美味。ただし当店は仕込みを行わず、その場で素早く調理し出来立てを提供することをモットーとしているそうですが、結果として皿出しのテンポはすこぶる悪いです。下ごしらえも味のうち。
新鮮なキスをその場でミキサーにかけ、ジロール茸と共に麺料理として頂きます。なるほど淡白で優しい甘みがあり、魚のペーストとして素直に美味しい。しかしながら、せっかくのピッチピチの個体をグッチャグッチャにしてしてしまうのは何か勿体ないなという気がしないでもない。
続いてサバ。味噌を主体とした調味を行った上で、ドーナッツ生地で巻いて揚げます。濃厚な味噌の旨味とサバのコクを楽しむことができ、どこか「なめろう」を想起させる味覚です。生地は油を吸ってドッシリと重いのですが、不思議と味噌の風味と良く合う。本日のアイデア賞です。
新鮮なトビウオがプレゼンテーションされたのち、その場でぶつ切りにされた上でミキサーにかけられ、アゴ出汁として登場しました。オーマイガー。もちろん味は悪くないのですが、何でもかんでもミキサーにかけるのはロマンに欠けるし、これは結局、何を食べさせたいのかがわからない。
フォアグラ。フォアグラを玉ねぎと食べる機会は意外に少ないのですが、これはなかなかアリですね。当店の厨房を任されている方は日本料理出身だそうで、フランス料理には無い自由な発想を感じました。
焼き立てのブリオッシュ。甘く芳醇なバターの香りが鼻をくすぐり、黄金色の表面はサクッと軽やか。噛むとふわっと柔らかく、ほのかな甘みと卵のコクが口いっぱいに広がります。単体でも、先のフォアグラと合わせても素晴らしい出来栄えです。
「恵鴨(めぐみがも)」という愛知が誇るブランド品。炭で時間をかけてじっくりと熱を通しているそうで、鴨の力強い旨味が上手く凝縮されています。ソースは鰻のタレを思わせる甘く濃厚で深みのあるものであり、和を想起させる味覚です。
ゴーヤをくりぬき、骨を抜いた鮎を詰めてフタをして蒸したものでしょうか。これはビジュが気色悪いですねえ。鮎の身もグズグズとしてメリハリが無い。私はこの料理が苦手だ。塩焼きにしてゴーヤのソースを添えたほうが100倍美味しい、というのが私の意見です。
「見蘭牛(けんらんぎゅう」という山口県で生産されるブランド牛のランプ肉をその場で手切りしハンバーグとして仕上げました。粗めにカットされた赤身の粒が、しっかりとした肉感を主張します。余計なつなぎを排したことで生まれる、肉そのものを食べているという凝縮された満足感。ハンバーグというよりもステーキに近い代物です。
ハンバーグのお供として炊き立てのライスが付き、これはこれで美味しいのですが、この流れはきっと、もしかして、、、
やはりカレーがで出てきました。もちろん美味しいのですが、客単価3-4万円もするレストランのクライマックスにカレーを用意する必然性はあるのかと問いたい。どうして中目黒の和食の料理人はカレーに逃げる傾向があるのか。カレーに逃げちゃだめだ。
デザートにチーズケーキと黒豆茶。これまでの凝った風の料理から唐突に3時のオヤツ感。このあたりの価値観はハンバーグカレーを継承しているのかもしれません。

コンセプトに混乱をきたしている高級店でした。建屋はボロボロで料理はハッタリじみており、あれこれいじくり回しすぎて何が何だかわからない状態です。ワインの担当者はLUUP乗ってハンディファン使ってそう。ペアリングの内容も1.5万円も徴収する割には実にお粗末。何から何まで迷走しており、これで客単価3-4万円とは富士山も噴火する勢いです。

もちろん現場のスタッフたちに非は無く、運営元の要求定義が曖昧なままプロジェクトを進めてしまったことに原因があるのでしょう(その点、監修者の出自である「Bon.nu(ボニュ)」は賛否はあるにせよコンセプトが明確だった)。

むしろ現場の料理人にはセンスを感じており、客単価1.5万円程度のアラカルト主体の創作割烹であれば大活躍できそうで、何なら独立を支援したいくらいです。頑張って欲しい。カレーに逃げちゃだめだ。

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「東京最高のレストラン」を毎年買い、ピーンと来たお店は片っ端から行くようにしています。このシリーズはプロの食べ手が実名で執筆しているのが良いですね。写真などチャラついたものは一切ナシ。彼らの経験を根拠として、本音で激論を交わしています。真面目にレストラン選びをしたい方にオススメ。