イケアの倉庫で絶望し、アイケアの配送に発狂した

ベッドのマットレスを買おうとイケアの旗艦店「IKEA Tokyo-Bay」へと向かう。もちろん組み立ての家具など面倒臭くて真っ平御免ですが、マットレスであれば100%完成品であり私の手を煩わす余地はなく高品質のものを低価格で購入できるのではないかという目論見に基づいてのショピングです。
前回船橋を訪れたのは2015年1月。実に4年半ぶりの来船です。オープン当初はディズニーランドを凌駕するほどの混雑ぶりでしたが、今や週末の夕方であってもガラガラ。

さて、ショールームや雑貨などは全てスキップし、お目当てのマットレスゾーンへ直行。10種ほどのラインナップの中からお値段以上のものを発見。ラグジュアリーホテルのそれに比べるとあと一歩というところではありますが、我が家の10年モノのヘタれたマットレスに比べれば数段寝心地は良い。品番を写メし、即決に近い形で1階の倉庫へと向かいます。

倉庫に到着し、在庫の場所を教えてくれるパソコンを操作すると「在庫なし」との表示。在庫が無いものを堂々と展示するなよ。それでもハンドキャリーで持って帰るサイズ感の商品ではなく、どのみち配送してもらうつもりだったので、他の店舗にあるものでも問題なかろうと他店の在庫を確認すると、ありましたありました。むしろ無いのは旗艦店である当店だけでした。

すぐさまアルファベット小文字の「i」マークが掲げられたインフォメーションカウンター(?)へと向かう。手が空いている店員は歳は20代半ば。緑色に染め上げた上にどぎついカラコン。胸に輝く「研修中」のバッヂ。色んなフラグが立ちまくってはいたのですが、カウンターには彼女と接客中のもうひとりしかいないため、仕方なく緑髪に相談。

あのう、上で気に入ったマットレスの在り処をあのパソコンで検索したら「在庫なし」って表示されて、でも他店にはたくさんあるみたいで、こういう場合どうしたら良いですか?目的がプログラミングされたロボットのように彼女は言った。「在庫がないものは売れないですねぇ」そんなことはお前が生まれる前から知っている。

もちろん彼女を論破することが目的ではなく、商品を手に入れることこそがこの日のゴールであるため、辛抱強く相談を続けます。いや、あの、でも他店には在庫があるみたいなんですよ。なのでそっちの在庫を出してもらうことはできませんかね?どのみち配送が必要な商品ですし。

「オンラインで買ってもらうか、在庫がある店舗に行って買ってもらうしか方法はありません」このとき私は悟りました。こいつはバカである。しかし仕事ができない者を叱ってもどうせできないことを私はよく知っています。怒りは敵と思え。こういう時は相手の目を見てじっと黙り込むのが一番だ。

唐突に「家はドコですか?」と緑髪から質問が飛び出てきました。良い流れです。間髪入れず、東京都の港区です、と返す。「あー、港区ですかぁ。港区ならオンラインでもウチの在庫を出すんで、ウチに無いなら他の店舗に行ってもらうしかありませんねぇ」こいつはシラフでこんなことを言っているのか?マニュアル通りの説明なのか知らんが、大事なのは他人の頭で考えられた大きなことより自分の頭で考えた小さなことだぞ、とつい説教したくなりました。

え、でも、どのみち配送してもらうんだから、わざわざ人間が店舗に行かないといけない理由がよくわからないんですけど。私はなおも食い下がります。「それじゃ、ウチの在庫ができるまで、オンラインで確認し続けてもらうしかないっすねえ。あ、でもちょっと待って下さい、今、ウチに在庫、4つあるみたいです。どうします?」

在庫あるんかい!しかも、どうします?か。この文脈で「要りません」と答える人間は天丼を注文して天ぷらを全部残すような奴に違いない。それにしても4つも在庫していたか。これはもはや誤差のレベルではないぞ。あの、後学のために教えて欲しいんですが、どうしてあのパソコンで調べたら在庫ゼロで、そのパソコンで調べたら4つもあるんですか?「さあー、不具合なんじゃないですか?」

「通常配送と、引き取り配送があって、引き取り配送だと古いマットレスを無料で引き取ることができます」もちろん引き取り配送でお願いします。「じゃ、9〜18時が空いている、木金土の曜日どれかを指定して下さい」それじゃ、○月○日の午前でお願いします。「あ、そうじゃなくて、9〜18時にずっと家に居れる日です」

9〜18時にずっと家に居れる日だと?そんなものが地球上に存在するとは到底思えない。私はそれなりに時間に余裕がある生活をおくっており、スケジュール調整も上手いほうだと自負していますが、丸一日自宅でじっとしていろと言われると流石に無理。仮にそんな日があったとしても、のんびりトイレにも行けやしない。私のウンコは長いのだ

「じゃ、通常配送っすねえ。それなら4つの配送時間帯から選べます。古いマットレスの引き取りはできなくなりますが」それは困る。家にクイーンサイズのマットレスが2枚あっても超困る。古いマットレスの引き取りは必須の要件だ。予定を確認するからちょっと待って下さい、と、私は必死にスマホを操作する。スケジュール帳が11月後半に差し掛かった頃、彼女は爪先で神経質そうにコツコツと机を叩きながら言いました。「で、どうします?もう通常配送でいいっすか?」

さすがにこの人を威圧する態度には頭にきて、もう結構です、と伝えてその場を立ち去ることに。彼女は聞えよがしに舌打ちし、力を込めてキーボードを叩く。彼女の腕は細く白い。恐らくスマホよりも重いものを持ったことがないであろう。

すぐに地元に帰り、町内会のみんなたちに慰めてもらおうと、上記の一部始終をグチります。しかしながら、その場にいた出席者全員が私に向けた言葉は「お前が悪い」でした。

「イケアはただの倉庫なんだよ。店員はいることはいるけど、お前の相手なんかしてらんねーほど作業を抱えてるんだよ。仕事の邪魔してやんなよ」いや、だって、インフォメーションカウンターがあるから、そこにいる人に相談するのは普通のことだと思うのだけれど。「だからさ、いい加減そういうロジハラやめろよ。人は誰だって、自分の頭が悪いとか、自分は仕事ができないとか思いたくないんだよ。店員に話しかけた時点でお前はクレーマーなんだよ」

「あなたの周りでは、たえず何かが起こっているのね」彼女は出来の悪い生徒に語りかけるように言う。「普通さ、あのあたりでバイト探すときさ、少しでも意識高いならディズニーを選ぶでしょ?インテリアが好きなら無印とかフランフランとかいくらでもあるじゃない?なのにあえてイケアを選ぶ人を相手にするんだから、それ相応の覚悟はしなくっちゃ」

「イケアは完全に支店ごとの縦割りなんだと思います」有能な後輩は視点を変えて言う。「転職するときにイケアも候補のうちのひとつだったんですが、完全に店舗別の採用なんですよね。だから他店の在庫とか知ったこっちゃないし、そこからの配送なんて万里の長城を越えるよりも難しいことなんじゃないですか?」

「ランチはドコで何を食べた?」と、突拍子もない質問。銀座の「FARO(ファロ)」だけど。資生堂の。「出たよ。だからさ、イケアはそういうところでメシ食ってから行くような店じゃねーんだよ。ソムリエにワインを相談するノリで配送の相談してんじゃねーよ。ファーストクラスに乗るような奴はイケアで買い物しちゃいけないんだって。メジャーリーガーが少年野球チームに酔狂で参加して『お前らまだまだだな』って見下してるのと同じくらいカンジ悪いぞ」

「アメリカの小売では、接客、そんなもんだけどね」出羽守の帰国子女は達観したような口調で語る。「アメリカのアイケアでアメリカ人に接客されたと思いなよ。いつまでもイジイジしないで。あなたがそうしてる間に、むこうは人生を楽しんでるわ」ちなみに英語圏の方はIKEAのことをイケアではなくアイケアと発音します。

「緑髪でカラコンでしょ?たぶんコスプレが趣味でバイト代稼げれば何でも良くって、職業意識とかは無いんだって」「サキュバスとかやってんじゃないっすかねえ」「何それめっちゃエロいじゃん。そいつ、かわいい?」結構かわいかった気がする「よし、今からイケア謝りに行こうぜ」「やだよ船橋って何県だよ。今日中に帰って来れんのかよ」「船橋は埼玉の東でしょ?」「あ、『翔んで埼玉』は相当面白いから観たほうがいい」
「まあ、イケアはセルフサービスがルールで、欲しくも無いぬいぐるみとかを唯々諾々と買っていく阿呆が一番のお客なんですよ」「唯々諾々とか言ってんじゃねーよ。イケアのバイトで唯々諾々の意味がわかる奴10人もいねーから」「e-ダクダク?何それ吉野家のネット注文?アイケアで取り扱ってるの?」

私としてはイケアに百貨店のような対応を求めているわけでは決してありません。セルフサービス大いに結構。低価格高品質の理由がそれなら甘んじて受け入れましょう。しかしながら、例えどのようなルールがあるとしても、客、いや、初対面の人間に対して威圧的な態度を取る必要はどこにもないでしょう。研修中からあの振る舞いだと先が思いやられるし、彼女の素行を同僚たちが注意しない職場環境、ひいてはそのような姿勢を黙認し許容する企業風土に大きな疑問を覚えました。ビジネスモデルや企業文化といった高尚な次元の議論ではありません。人間としてベーシックに大切なものが欠落しているように思います。

会社を大きくするって大変だな。創業者はこんなつもりで起業したわけじゃないだろうにな。しかしそのつもりは無かったとしても、結果的にそうなってしまった罪は重い。どこからボタンがかけちがってくるんだろう。まさに良い時に悪い芽が育っているんだろうな。


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「東京最高のレストラン」を毎年買い、ピーンと来たお店は片っ端から行くようにしています。このシリーズはプロの食べ手が実名で執筆しているのが良いですね。写真などチャラついたものは一切ナシ。彼らの経験を根拠として、本音で激論を交わしています。真面目にレストラン選びをしたい方にオススメ。