VIERGE(ヴィエルジュ)/五反田

『フランスの三つ星レストランで修業経験を持つシェフが営むお洒落な隠れ家的ビストロ』との触れ込みでタイムラインに躍り出た五反田「VIERGE(ヴィエルジュ)」。『フランスの三つ星レストラン』とはどこだろう?と興味を持ち、早速お邪魔してみました(画像は「旅色 2025年9月号 vol.199」より)。
店内は明るい色合いの木材が支配的で、無印良品のカフェのような雰囲気。キッチンに面したカウンター席が5-6席にテーブル席と個室があって、トータルで30席ほどでしょうか。ゲストは我々だけなのですが、何故かトイレの真横に案内され意味が不明です。BGMもまあまあダサい(画像は食べログ公式ページより)。
ビールやグラスワインは千円前後から始まり、『フランスの三つ星レストランで修業経験を持つシェフが営むお洒落な隠れ家的ビストロ』としては悪くない価格設定です。
ただ、バイトなのかタイミーなのか、ホールスタッフのレベルが価格に見合っていませんねえ。牛角のように跪いて接客するのですが、お水をお願いしてもボトルをドンとテーブルに置いていくだけで注いでくれたりはしません。ゲストは我々しかおらず手が空いているにもかかわらず、です。『フランスの三つ星レストラン』ではまず考えられない接客でしょう。

さて、料理に参りましょう。我々は税込13,200円の店名を冠した「Vierge Course」を注文。食べログ公式ページにおいては『3星シェフの料理が堪能できる アミューズからデザートまでViergeの魅力を存分にお楽しみいただけるコース』との記載があり、『3星シェフ』の料理がこの値段で楽しめるとすれば五反田の奇跡と言えるかもしれません。
アミューズ3種。手前の2つは中くらいの味わいですが、奥のコンソメは中々のクオリティであり、流石は『3星シェフの料理』です。
続いてサワラのカルパッチョ。うーん、なんだか西洋居酒屋のようなプレゼンテーションで首を傾げてしまいます。味は悪くはないのですが、ベタっとした出来合いのマヨネーズみたいなソースの味わいが支配的で、『3星シェフの料理』としては、ちょっとやっつけ仕事感がある。
パンは全然美味しくないですね。そのへんのスーパーで買って来たようなパンとバターであり実に大衆的。フランスでは雑なパン屋で買っても結構食べれることが殆どなのですが、よく『フランスの三つ星レストランで修業経験を持つシェフ』がこの品質を認めたものです。
続く料理はナントカポークのフレンチトーストだそうですが、材料が先の食パンと丸被りしておりロマンに欠けます。味わいについても不味くは無いのですが『3星シェフの料理』としては期待に遠く及ばず、どちらかというとフードフェスに出店するキッチンカーが提供するような料理に感じました。
なんと、パスタが出てきました。でも、あれ?この店ってフレンチだよね?私もフランスの3ツ星店をいくつか巡った経験があるのですが、パスタが添え物でなく一皿でドン!と出てきたのは初めてです。『フランスの三つ星レストランで修業経験を持つシェフ』と色んなメディアに勲章のように書いてあるだけあって、これが最先端の先端なのかもしれません。
お魚料理はタイ。なるほどコチラは確かにフランス料理風の調理ではありますが、先のパスタのポルチーニの香りとベーコンの塩気がたっぷりきいたソースの後に食べるにはパンチが弱く感じました。このあたりの緩急の付け方は『フランスの三つ星レストラン』仕込みなのかもしれません。
メインは牛のロースト。目の前で『3星シェフ』が直々にトリュフを削ってくれるのですが、不思議なことに何の香りも取れません。やはり『3星シェフ』は嗅覚や味覚が鋭敏で、われわれ素人には感じ取れない機微があるのでしょう。

肝腎の牛肉につき、ぬるりとした脂の塊が口中で溶け、舌全体を不快な油膜が覆い尽くします。牛肉が持つべき豊かな風味や香りは完全に消し飛び、ただただ酸化したようなニュアンスの脂の味だけが支配的。飲み込んだ後も、喉から胃にかけてギトギト感がへばりつき、強烈な胸焼けを予感しました。
『〆のご飯』としてリゾットが出てきました。『フランスの三つ星レストランで修業経験を持つシェフ』が日本の『お洒落な隠れ家的ビストロ』で『〆のご飯』にリゾットを出すとは、世界のグローバル化は留まるところを知りません。味わいについては、ABCクッキングスタジオの生徒が作ったような丁寧さが感じられ、とどまる事を知らない時間の中でいくつもの移りゆく街並みを眺めていた。
『3星シェフの料理が堪能できる アミューズからデザートまでViergeの魅力を存分にお楽しみいただけるコース』の集大成としてティラミスが出てきました。シャ〇レーゼ、つまりシャトレーゼの300円ぐらいのケーキに似たような味わいであり、乳脂肪はスカスカで人工的な風味が支配的です。連れは「これはマスカルポーネじゃないと思う」とだけ呟き、静かにカトラリーを置く。彼女の難攻不落のアヒル口が初めて真一文字になった瞬間である。
食後もホールスタッフのトンチンカンなサービスは続きます。くどいようですが、店内のゲストは我々しか居ないのですが、ウォークインで訪れたグループ客をわざわざ我々の隣の卓に案内し、トナラーもここまでくると、もはや芸術の領域です。

以上のコース料理が13,200円で、酒やらなんやらでお会計はひとりあたり2万円弱。代々木「Le Studio(ル ストゥディオ)」と丙丁付けがたい食後感であり、『フランスの三つ星レストラン』に在籍確認する勢いです。食べログやグーグルマップの口コミには肯定的で画一的なコメントがズラリと並び違和感を覚えるのですが、きっと私とアヒル口の感性がズレているのでしょう。
なお、当店のインスタのプロフィールには「ワインや料理の説明は投稿からも拝見できます♪」との記載があり、なるほどフランスでの生活が長かったためか日本語の読み書きは不自由なようです。であれば次回はフランス人をお連れして、カウンター席から厨房のシェフとのフランス語での会話に耳を傾けたいと思います。配信しようかな。

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