鮨 藤虎(ふじとら)/鹿島町(富山)

2023年、富山駅から歩いて20分ほどの鹿島町にオープンした「鮨 藤虎(ふじとら)」。文化財チックな建屋をリノベしたであろう洒落た物件の2階に入居します。私の推しの日本料理店「海老亭別館(えびていべっかん)」のすぐ近くです。
店内は7-8席のカウンターに、個室が2部屋用意されています。鮨屋ながら非常に現代的で洗練された内装であり、シェフも白シャツにエプロンと、欧米系の料理人のように見えます。石黒幸太郎シェフは富山の鮨店で腕を磨いたのち渡欧。ロンドンやスペインで経験を積み、2023年に故郷の富山へ戻り当店を開業しました。気さくでひょうきんなあんちゃんです。
ビールや日本酒には富山産のものが多く、県外客にとって実にエモい。1合千円強のものが多く、このクラスの鮨屋としては良心的と言えるでしょう。器も富山の作家が手掛けたものが多く、県外客にとって実にエモい。
お口取りに焼いた枝豆。苦みのきいたビールと共にザザっと流し込み、日本の夏の美点である。
魚津で採れたモズク。沖縄の太くてしっかりしたモズクとは異なり、繊細で軽やかな食感。どこかミネラルのニュアンスが感じられるのは、富山湾に由来するものでしょうか。
お造りは白エビにミズダコ、アラ。いずれも豊かな甘味が特長的で、塩とワサビで食べることにより、その美点がさらに強化されます。白エビは醤油じゃなくて塩で食べるほうが素材の味を引き出すのかもしれません。
神通川の鮎。この時期の和食店は鮎の塩焼き一辺倒で飽きてくるのですが、当店は身をほぐし、蓼酢をソースに見立て、三つ葉や金時草を添えるなど、立派なお魚料理に昇華させています。どこかフランス料理的でもある。
サクラマスの燻製。仄かにかおる薫香が食欲を刺激します。新玉ねぎとディルが添えられており、醤油のソース(?)と共に、やはり欧米的なニュアンスを感じました。
さっそく鮨に入ります。まずはカマスの昆布締め。カマスは脂が適度に乗り、身は柔らかく甘みがあります。また、昆布締めにより旨味が引き出されており、しっとりとした食感と濃厚な風味が加わります。
ガリは新芽のみを用いておりマイルドな味わい。口直しのお漬物も添えてくれるのが嬉しいですね。酒のツマミにピッタリです。
アカイカ。透明感ある身に細かな包丁目が施され、見た目が実に華やか。口当たりも滑らかで、ネットリとした甘味が増した気がします。ちなみシャリは尖ったところはなく、優しい味わいで食べ疲れることがありません。
赤身のヅケ。酸味が強くキュっと背筋が伸びるほどです。この清涼感はマグロにしか出せないなあ。
四方(よかた)の牡蠣。青りんごを散らし、レモンの泡を載せ、ポン酢で頂きます。やはり欧米系のアプローチのツマミであり、キリっとした白ワインが欲しくなります。
茶碗蒸し。具材としてトウモロコシとイクラと毛ガニが組み込まれており何とも贅沢。毛ガニの濃厚な旨味とほぐれた身の食感がアクセントとなり、イクラのプチっとした塩気が全体を引き締めます。トウモロコシの優しい甘さとの相性も抜群だ。
バイ貝。コリッとした歯ごたえと磯の香りが強く、ほのかな甘みと塩気が心地よい。
トロ。口に含むと、とろけるような柔らかさと濃厚な甘みが広がり、「トロ」とはよく言ったものです。こちらも酸味はきちんとあって、全体をシュっとさせます。
コハダ。キリッとした酢の酸味、噛むほどに広がる豊かな風味、そしてシャリのほのかな甘みが一体となり、口の中で複雑な味わいを織りなします。王道中の王道である。
アワビはじっくりと蒸し上げることで、驚くほど柔らかく、ふっくらとした食感に。その上品な甘みと豊かな磯の香りに、濃厚な肝ソースが絶妙に絡みます。肝特有のクリーミーなコクとほのかな苦味は大人の味わいです。
アジは新型兵器のような3D感覚で登場しました。シャリにガリやネギを混ぜ込み、風味の強い海苔で周囲を囲い、アジをたっぷりと詰め込みます。脂が乗ったアジの濃厚な旨味と、爽やかな薬味のコントラストが絶妙。こうかはばつぐんだ!
ノドグロはしっかり焼いて、シャリと共に丼スタイルで頂きます。口に含むと白身のトロとも言うべき極上の脂がじゅわっと溶け出し、凝縮された甘みと旨味が口いっぱいに広がります。
甘エビ。新鮮な甘エビは、口に入れるとねっとりとした舌触りとともに、甘みとほのかな塩気が広がります。卵の部分でプチプチとした食感を楽しみつつ、凝縮された海老の風味を堪能します。
ムラサキウニ。とろりと溶ける滑らかな舌触りと共に、クセのないクリーンな旨味が見事です。パリッとした海苔の風味とシャリの酸味がウニの繊細な味わいを上手く引き立て、爽やかな余韻を残します。
ミニ鰻丼。鰻の濃厚な脂の旨味をシャリのキリッとした酸味が受け止め、絶妙なバランスを生み出します。鰻専門店とはまた違った後味の良さがある。
ハマグリのお椀。澄んだ出汁にハマグリの濃厚な旨味が溶け合う上品なひと品。ハマグリの身は柔らかく、噛むほどに甘みとコクが広がる。ハマグリのエキスがスープに溶け込み、どこか鉄っぽい風味も楽しい。
細巻きはカッパ、カンピョウ、鉄火。この夜の饗宴に相応しいラインナップであり、お腹の具合もちょうど良い。
玉子には甘エビと鯛のすり身が贅沢に練り込まれています。きめ細かくしっとりとした食感。魚介の自然な甘みが凝縮された鮨屋のカステラだ。
デザートには青梅を漬けたんとスイカのシャーベット。さっぱりくっきりした味覚で、爽やかにフィニッシュ。ごちそうさまでした。

以上のコース料理が2.2万円で、けっこう飲んでお会計はひとりあたり3万円弱。ツマミが多く遊び心があり、一方で、にぎりは硬派という興味深いスタイルの鮨屋でした。ありそうでない。ホタルイカが大量入荷した際はスペイン仕込みのパエリアも登場するそうで、次回はそのタイミングでお邪魔できたらいいなあ。

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