かつてアラカルト方式の居酒屋として成功を収めた「酒菜工房だい」が、装いも新たに「だい」としてリブランドオープン。ANAクラウンプラザホテル富山や国際会議場近くに移転し、一軒家の日本料理専門店へと変貌を遂げました。英語圏の方をお連れする際にはドキドキする店名です。
和の装いながらモダンでスタイリッシュな印象を与える店内。シェフの妙技を間近に望むことができるカウンター席が基本ですが、個室も用意されているようです。お手洗いへ向かう通路には美術館さながらに器などが飾られており超クールです。
ドリンクは富山の地酒に強い焦点を当てており、富山の日本酒ばかりを集めた特別ページまで用意されています。写真のクラフトビールは富山産ではないものの、飲食店限定販売のため勢いで注文すると大当たり。コクがあって余韻が長く、まるでビールじゃないみたい。
さっそくこの日の食材をプレゼンテーション。目玉は神通川で獲れたばかりの鮎であり、この直後に目の前で串をぶっ刺して火あぶりに回るので、ついつい背筋が伸びます。
まずはすり流し。「深層水トマト」という海洋深層水を与えることで水の吸収を抑えて栽培し糖度を上げたフルーツトマトを用いており、凝縮された甘みと旨味、そして爽やかな酸味が見事に調和します。つるりとした喉ごしのじゅんさいも添えられており、食感に楽しいリズムと清涼感をプラスします。
お椀はスッポンのしんじょうと冬瓜。主役のしんじょうは驚くほどふわっと軽やか。口に運べば上品な出汁と共にスッポンの滋味が優しく溶け込みます。
ノドグロの飯蒸し。ノドグロの脂の乗った濃厚な旨味が、蒸されたもち米に染み込み、しっとりとした食感と深い味わいを堪能します。枝豆の食感と鼻に抜ける木の芽の鮮烈で爽やかな香りが、夏っぽい余韻を残していく。
カニのコロッケ。カニクリームコロッケでなくカニのコロッケであり、もはや中身はセメント色に近く、四捨五入するとカニです。濃厚な旨味と大人の苦みが酒を呼ぶ。
おや、ハモだ。ハモとは関西の食材だと信じ込んでいたのですが、こちらは富山の魚津港で揚がったそうです。骨切りによりふわっとした食感に梅肉とワサビが良く合う。夏の訪れを告げる、日本料理ならではの逸品です。お造りはミンククジラにノドグロの炙り、トヤマエビとキジエビを食べ比べ。ミンククジラはさっき獲れたばかりで未だ体温が残っておりぞっとするのですが、これがクジラかと唸るほど旨く、ゲンキンなものです。ノドグロの炙りやトヤマエビの味わいは想像がつきましたが、クジラの美味しさは衝撃的でした。
魚津産のアワビ。蒸したアワビは柔らかく弾力ある食感で、黒モズクと金時草と共に頂きます。お出汁(?)のジュレで全体を取りまとめ、涼やかな後味を演出。シャキシャキとした黒モズクの歯触りと、金時草特有のぬめりが加わり、口の中で食感のアンサンブルを奏でます。
冒頭の神通川の鮎。塩焼きにより皮はパリッと香ばしく、身はふっくら、香り高い。内臓のほろ苦さがアクセントとなり酒が進む。まさに日本の夏の原風景を映すひと品です。富山の珍味「ゲンゲ」を富山産の蕎麦のガレットでたっぷりの薬味と一緒に巻いて頂きます。「ゲンゲ」とは富山湾に生息する深海魚で、コラーゲン豊富なプルプルとした食感に好みが分かれるところなのですが、カラっと揚げると淡泊で潔い味わいに変身します。
お造りで用いたエビたちの頭の部分を炭でじっくりと炙りました。殻はパリッと香ばしく、まさに大人のかっぱえびせん。
肉厚な吉川ナス。揚げ焼きにしているのか、表面は香ばしく、中はとろりとジューシー。夏の旬を感じさせる素朴で奥深いひと品です。
香ばしく揚げたオコゼ、出汁を吸ってジューシーな万願寺とうがらし、そして濃厚でなめらかな自家製胡麻豆腐。それら個性豊かな食材をひとつにまとめるのが、優しい味わいのみぞれあん。熱々、ひんやり、サクサク、とろり。仄かに酸味を感じるのがお洒落です。
富山県山田村産の蕎麦を用いた蕎麦。野趣あふれる力強い蕎麦の香り。ざらりとした舌触りと、噛み締めた時の小気味よい歯切れが十割ならではの心地よさ。ただ、つゆではなく滑川の海洋深層水で食べるのですが、正直この試みは微妙だったので、蕎麦だけプレーンに頂きました。
朝どれのトウモロコシを用いたゴハン。瑞々しいフルーツのような甘味を湛えるトウモロコシ。一粒一粒がシャキッと弾ける心地よい歯ざわりが食欲を刺激する。旬の恵みをシンプルに味わう、この上ない贅沢です。
お椀は本日用いた全ての魚介類のエキスを地元の赤味噌で調えたもので、さしずめ和風のブイヤベース。自家製のお漬物も上質で、私は毎朝このような朝食を摂るような丁寧な生活をおくりたい。
甘味は丁寧に蜜煮された青梅と葛切り。きゅっと心に残る青梅の酸味と、それを支える上品な甘さのバランスが絶妙。葛切りはつるんとした滑らかな食感で、ほのかな甘みと弾力がアクセント。夏の暑さを癒す清涼感あふれるデザートです。
きちんとお抹茶を点てて頂けます。泡立ちはきめ細かく、口当たりは滑らかで、ほのかな苦みで締めくくり。ごちそうさまでした。
以上を食べ、軽く飲んでお会計はひとりあたり2万円強。上質な食材と丁寧な仕事を考えれば驚異的な費用対効果と言えるでしょう。東京の何回転も一斉スタートする給食みたいな店とは段違いの風格がある。次回は冬に訪れ、また違った魚を楽しみたいと思います。

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富山は食の宝庫。天然の生け簀である富山湾にジビエや山菜が豊富な山々、そして米と水。レストランのレベルは非常に高く、支払金額は東京の3割引~半額の印象です。だいぶ調子に乗ってきた金沢が嫌な方は是非とも富山に。
- 鮨 大門 ←銀座の半額で味と居心地の良さはそれ以上。
- 海老亭別館(えびていべっかん) ←多皿なのにモブキャラがひとつもない。
- ふじ居(ふじい) ←非の打ち所がない日本料理店。
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- 吟魚のはなれ 吟チロリ(ぎんちろり) ←海鮮居酒屋の最高峰。
- ピアット スズキ チンクエ(Piatto Suzuki Cinque) ←青は藍より出でて藍より青し。
- ランソレイエ(Lensoleiller) ←フランスの田舎のレストランをそのまま持ってきたような感性。
- カーヴ ユノキ(Cave Yunoki) ←料理のほとんどを富山の食材で勝負しているのが素晴らしい。
- 日本料理 山崎 ←ミシュラン3ツ星和食がこの価格で楽しめるのは富山の奇跡。
- 天ぷら小泉 たかの ←富山駅から近く昼も夜も空いているのが旅行者にとっても便利。
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- レヴォ(L'evo) ←クマがぶらさがっている。
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待機児童ゼロ、結婚した女性の離職率の低さ、貧困の少なさ、公教育の水準の高さなど、日本型の「北欧社会」が富山県にはあると分析する1冊。10年間にわたって富山県でのフィールドワークを続けてきた財政学者の視点が興味深い。