オトワ レストラン(Otowa restaurant)/宇都宮

食べログとは情報に偏りがあるメディアであり、世界レベルの名店に対して全くノータッチだったりすることがあります。例えば今回お邪魔した宇都宮の「オトワ レストラン(Otowa restaurant)」はフランスにポンと放り込んでも3ツ星レストランと互角に渡り合えるお店だと確信しているのですが、2022年現在、食べログからは何の表彰も受けていません。業界的にも超有名なお店なのに何ででしょ。
閑話休題。現代的な美術館風の建屋に静かに入り、ウェイティングルームで居住まいを正したのち、ガラス張りの厨房の脇を抜けメインダイニングへ(写真は公式ウェブサイトより)。このアプローチはいつ訪れてもクールですねえ。銀座の雑居ビルでは到底表現できない世界観です。なお、日本フランス料理界のレジェンド、音羽和紀シェフを中心とした当店の成り立ちについては前回の記事に詳しく記しました。
バリバリのグランメゾンらしく、アミューズからバリバリに手が込んでいます。こちらはブロッコリーを組み込んだお口取りであり、青く健康的な風味が口腔内に満ち始めます。
金華サバ。このアミューズはめちゃんこ旨いですねえ。世界最強のシーチキンといった味わいであり、このままサイズアップしてそのまま魚料理として楽しみたいくらいです。
こちらは地元のピーナッツを用いたタルト。旨味の強いチーズをたっぷりすって、シャンパーニュが進む味覚です。
ゴボウの風味を活かしたフラン。大地のパワーが直に伝わる料理であり、白子やトリュフとのコンビネーションも見事です。何よりコンソメが絶品。
ニシンと和梨のコンビネーション。ニシンのコッテリとした脂に梨の奥ゆかしい甘味が見事に調和します。水キムチ風にアレンジしたソース(?)の複雑味も見逃せない美味しさです。
パンは3種頂きました。いずれもそれ単体として見事な味わいであり、パン屋として都心にスピンオフ出店しても行列間違いなしのクオリティです。やっぱフランス料理をガチでやっているお店はパンが美味しいなあ。
地元の旬の野菜をたっぷり用いたサラダ。見た目の美しさはもちろんのこと、野菜そのものの味が濃く滋味に溢れています。ホエー(ヨーグルトの上部に溜まってるアレ)を用いたソースのコクと酸味も活きており、サラダと呼ぶには形容が足りない完成したひと皿です。
フォアグラを黒キャベツで包みます。雑味の無い滑らかなフォアグラと黒キャベツのパンチのある味覚が良く合います。白眉はソースたちで、とりわけキノコの香りが豊かな泡泡に伝染性のある美味しさを感じました。
マスを用いた料理なのですが、覆いかぶさるジャガイモのパンケーキ(?)が尋常でない美味しさを放っています。なぜポテトがこんなに美味しくなるのだろう。汎用人型決戦ケーキとも言える破壊力を秘めたひと皿です。
ラム。写真ではひとつの塊肉に見えますが、いくつかの部位が組み合わさり、周りにバラ肉を巻き付けています。中央部の清澄な味覚に舌鼓を打ち、バラ肉部分のジューシーな脂の甘味を堪能する。付け合わせの安納芋もネットリと官能的な味わいであり、あとひと口もうひと口と手が止まらないメインディッシュでした。
お誕生日が近かったので、デザートで工夫して頂きました。デザートそのものはシンプルな誂えですが、何とも濃密なイチヂクの風味を奏でており、イチヂクよりもイチヂクの味が濃いかもしれません。
お茶菓子についても全く手抜きがありません。アミューズ・パン・小菓子のレベルが高いお店は全てにおいてレベルが高いという持論が補強された瞬間です。18時に入店して退店は22時。長いが充実した道のりでした。

以上のコースが税サ込で2万円弱で、1-2万円のワインをひとり1本ペースで飲んでお会計はひとりあたり4万円弱。フランスの料理文化を遵守した本気のグランメゾンでこれだけ飲み食いしてこの支払金額は実にリーズナブル。加えてこのクオリティの料理とサービスを昼も夜もフルファイトで提供できる組織力にも脱帽です。

もちろん瞬間最大風速的に当店よりも美味しい料理を出すお店はいくらでもありますが、ハードもソフトも高いレベルを安定的に維持し、組織的にフランス料理ひいてはフランス料理文化の体現に取り組み、地元から愛されているレストランは日本では当店ぐらいでしょう。港区の予約困難店は5年もすれば消えてなくなるのが常ですが、オトワは100年先も変わらず存在し続ける。これが本当のサスティナビリティだ。

東京から日光旅行で栃木を訪れた際、帰りのディナーは必ず当店に立ち寄りましょう。人生が豊かになります。私が保証します。

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