いゆじ/泊(那覇市)

沖縄近海の混獲魚(市場流通に乗りにくい未利用魚や希少魚)を積極的に取り入れる哲学で話題の「いゆじ」。徹底した食材主導の論理に基づいており、営業に耐えうる魚の入荷が無ければ休業という宝くじみたいな営業方針です。もちろん事前予約は不可であり、当日の夕方に電話して訪問可能か相談する必要があります。場所は那覇市泊(とまり)。牧志駅や美栄橋駅から歩いて10分ほどでしょう。
店内はカウンター席が10ほどにテーブル席もいくつか。店主のワンオペであるため大人数での訪問は不向きですが、そもそも予定が立てられない飲食店なので、いきおい気心の知れた仲間との訪問になります。
酒は安く、オリオンが500円に泡盛が1合600円。料理のメニューはあるにはあるのですが、カリグラフィーとも言うべき筆致であり、仮に解読できたとしてもその意味するところはよくわかりません。そのためメニューから選択して注文することは諦め店主に「今日の美味しいところを上手く盛り込んでください」と相談するのですが、「美味しい、は主観であり感じ方は人それぞれなので、そんなこと言われても困る」と見事な塩対応です。
それでも辛抱強く「初めてお邪魔するので、そこを何とか」と交渉を続けると、ようやく店主からの提案が始まります。この注文スタイルを嫌う意見がネット上には散見されますが、これはそういうプレイであって単にじゃれ合っているだけなので、そういうものだと割り切って臨みましょう。
まずはモズクがやってきました。これで1人前であり、酢の物ではなく「ざるそば」のようにつゆに漬けて楽しみます。ヌメリが少なく張りの強い食感があり、一般的なチュルチュルという喉越しでなくシャクシャクとしたクリスピーな食感が特長的。
刺身は本土の洗練された薄造りとは異なり、大きく分厚く皮付きで提供されます。いずれも初めて聞く魚であり、ムシャムシャとした歯ごたえも相まって野性的なニュアンスを感じます。
豆腐は「食べる」というより「噛み締める」スタイル。圧倒的な密度とガツンとくる大豆の凝縮感があり、後味に広がるのはきな粉やピーナッツを連想させる香ばしいコク。醤油も薬味もいらない、素材そのもので完成されたご馳走です。
焼き物も知らないお魚です。香ばしい湯気を纏ったその切り身は驚くべき厚みで鎮座しています。海藻を飽食して育った魚だそうで、深みのあるミネラルと磯の香りが印象的。一般的な白身魚の繊細さとは対極にある、生命力あふれる味わいです。
以上を食べ、軽く飲んでお会計はひとりあたり5千円ほど。独特の営業方針ではあるものの、沖縄の海の生物多様性を皿の上に再現する試みは大変興味深い。もし貴方が、親切な接客、わかりやすいメニュー、写真映えするカクテル、そして柔らかく食べやすい魚料理を求めているのならば、この店は避けるべきでしょう。しかしながら、もし貴方が、沖縄の海が育んだ生命の多様性を、その荒々しさや不可解さを含めて体験したいと願うならば、当店は日本国内でも稀有な聖域となるかもしれません。

食べログ グルメブログランキング

関連ランキング:海鮮・魚介 | 牧志駅美栄橋駅安里駅


関連記事
寒い季節は沖縄で暮らしているので、旅行やゴルフだけで沖縄に来る人よりかは一歩踏み込んでいるつもりです。沖縄の人ってネットに書き込みしないから、内地の人が知らない名店が結構多いです。
沖縄通を気取るなら必ず読んでおくべき、大迫力の一冊。米軍統治時代は決して歴史のお話ではなく、今の今まで地続きで繋がっていることが良くます。米軍の倉庫からかっぱらいを続ける悪ガキたちが警官になり、教師になり、ヤクザになり、そしてテロリストへ。沖縄戦後史の重要な事件を織り交ぜながら展開する圧巻のストーリー構成。オススメです。