う晴(うはる)/大津(滋賀)

京都の飲食店で話しかけられた際に(私はよく他人に話しかけられる)、「関西一旨い鰻屋は滋賀にある。少なくとも私はあそこ以上に美味しい鰻を食べたことがない」と力説されたのでお邪魔することに。ネット上に情報は少なく、まさに口コミで仕入れたお店です。
JRの大津駅からは徒歩で20分、我々は京都の烏丸御池駅から東西線で東の果てまで向かい、びわ湖浜大津駅から徒歩7~8分。完膚なきまでに住宅街に突如現れる町家風の建物と鰻の香り。
靴を脱いでぺたぺたと上がるので素足は避けたほうが良いでしょう。店内は図書室のような雰囲気であり、壁一面の鰻に関する書物が圧巻。明らかにヲタクの香りがします。1日に4~5組しか予約を受け付けず、しかも昼のみの営業という難易度の高いお店です。
暑い日だったのでビールが身に沁みます。瓶ビールは800円、日本酒は千円かそこらであり常識的な価格設定。最初から無料のお茶も用意してくれるので、あまり酒で儲けようとしていないのかもしれません。
店主がニコニコと嬉しそうに本日の食材をプレゼンテーションしてくれます。当店は特定の産地からの仕入れというわけでなく、その時の良いものを仕入れているようです。この日は宮崎県は新富町の「味鰻(あじまん)」。丸々と太ってビッチビッチと動き回り元気いっぱい。
速い!ものの1~2分でさばいて持って来てくださいました。関西なので腹から割き、極太の鋼を突き刺し焼く準備は万端。未だにビッチビッチと動いており、あまりに仕事が早すぎて鰻は自分が割かれたことに気づいていないのかもしれません(気づいている)。池袋「かぶと」十番「うなぎ時任」のスピード感の無さは何だったのか。
鰻が焼きあがるまでは一品料理で繋ぎます。うまき。ハーフサイズでの注文ですが結構な量があり、なんとこれで千円です。上品な味付けのだし巻きと逞しい鰻の味覚がベストマッチ。
肝のタレ焼き。見て下さい、この照りの美しさを。バリっと思いきりの良い炙りですが、歯ざわりはしっとりとびょんびょんが同居し楽しい食感。レバー特有の奥行きのある風味にアタックの強いタレの味わい。名古屋「うな富士」を超える肝焼きの旨さです。ビールに良く合う。そういや「うな富士」って東京進出するらしいです。
うな重が到着しました。頭と尻尾が飛び出しており、世界一役立たずなフタといって良いでしょう。しかしこのビジュアルに期待はまさに鰻登りである。
蓋を外すとブワっと広がる香ばしい香り。山岡士郎も言っていましたが、やはり鰻の醍醐味はこの香りなのかもしれません。バリっとした香ばしい食感にムキムキマッチョな弾力、瑞々しい質感。肉厚を通り越してステーキを食べているような感覚に近く、この味覚は複雑さを通り越して奇跡である。
食べ進めていくと薬味や卵、追加のタレ、出汁などが置かれます。これらはいずれも無料であり、やはり細かいことで金をせびらない商売っ気の無いお店です。最高かよ。
卵かけごはんに鰻の濃密なタレをかけ、最高峰の蒲焼と共に食べる。ギルティ。期待をうなぎらない味わいです。
こちらはひつまぶし。さっきのうな重ば7,000円で、ひつまぶしは6,500円だったかな。
やはり圧巻のボリューム。鰻が2層にも3層にも折り重なっており物凄まじい3D感覚です。ちなみに一般的な鰻は50℃程度の熱で焼いていくらしいですが、当店は特殊な焼き方(?)を採用しているらしくその温度は80℃以上、場合によっては90℃を超えて焼く場合もあるそうな。そのあたりの温度帯が香りが引き立つ秘密なのかもしれません。
そのまま食べ、薬味で食べ、〆にお出汁で茶漬けにして〆。ごちそうさまでした。

私の鰻人生は「う晴」以前と以後に分かれるかもしれません。私は日本各地でそれなりに鰻を食べてきたほうだとは思いますが、このお店は次元が異なります。進次郎ふうに言えば「この店は鰻料理の未来であり、未来の鰻料理はこの店にある」あたりでしょうか。
こんなにも旨い鰻料理をクリエイトしているのにも関わらず店主は実に腰が低く、とにかく鰻が好きで好きで堪らなく、仕事が楽しくってしょうがないという印象。女将さんを始めとするスタッフ陣も実に感じが良く、職人としてひとつの頂点に達したモデルと言えるかもしれません。It's a Wonderful Life !!

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「東京最高のレストラン」を毎年買い、ピーンと来たお店は片っ端から行くようにしています。このシリーズはプロの食べ手が実名で執筆しているのが良いですね。写真などチャラついたものは一切ナシ。彼らの経験を根拠として、本音で激論を交わしています。真面目にレストラン選びをしたい方にオススメ。