割烹 新多久(しんたく)/村上(新潟)

創業は1867年と、ちょっと暗算が難しくなる程の歴史を誇る「割烹 新多久(しんたく)」。ミシュラン1ツ星。「料亭 能登新(のとしん)」と双璧をなす村上きっての日本料理店です。黒壁が続く安善小路の中でも一際目立つカッチョエエ建物です。
店内はリニューアルを施しているものの歴史を感じさせる雰囲気(写真は公式ウェブサイトより)。カウンターが6席に同じ空間にテーブルがいくつか。加えて離れには個室(宴会場?)もあるようです。

当店の厨房は山貝兄弟が統べており、京都で別々に腕を磨いたのち、当店で再合流したようです。弟さんは釣りや狩猟など一次生産的活動にも関与しているそうな。
私は運転があるのでノンアルコールに留めましたが、生ビールは千円を切り、日本酒も千円かそこらなので、このクラスの日本料理店としては大変良心的と言えるでしょう。地元のお酒も多く、どうして村上に泊まる旅程としなかったんだと激しく後悔しました。
先付に枝豆のすりながし。枝豆そのものの風味が濃く、見た目以上にパワフルな味わいです。
キュウリの胡麻和えに酒びたし、ドジョウの唐揚げ。このキュウリが目を剥く美味しさで、どうしてこんなにも凝縮感があり食べ応えがあるのだろう。ちなみに当店の食材は全て村上産であり、この日唯一の例外がドジョウとのこと(それでも新発田産、新潟だ)。
続いて本日の主役のお魚を用いた煮こごり。添加物は使用せず魚のゼラチン質のみを用いて旨味を固めており、濃厚でありながらナチュラルな味わいです。
アラ。塩揉みしつつ熟成させたブツであり、これが白身魚なのかと度肝を抜かれる複雑な味わいでした。このクオリティのものが先付的なポジションだなんてレベル高すぎます。
マハタの酒蒸し。やはり魚の味が濃く肉のような食べ応えです。お出汁も輪郭のある味わいであり、魚のパンチに負けてません。
ノドグロ。少し干してから熟成(?)させているらしく、まるで牛肉のドライエイジングのようです。一般的にジューシーで派手派手な食材ですが、こちらはしっとりと奥行きのある説得力のある味わいです。
アマダイもジットリと熟成させており、鳥肌が立つ旨さです。魚は新鮮さが命と考えている方は、これを口にすれば考えが一転することでしょう。
アワビは肝のソースをモチ米(?)とじっくりからめ、おこわリゾットのような仕様です。ああ、日本酒が飲みたい。
ウミゾウメン。初めてお目にかかる食材ですが、周りにジュンサイ的ぬるぬるを纏ったモズクのような海藻です。お出汁はエン貝という、これまた初めてお目にかかる食材から取っており、ヨーロッパのムール貝的なタフな味わいです。
こちらのアマダイは松笠焼き。先のアマダイとは個体が違うそうで、ただ素人の私としては同じ魚じゃんと思いきや、なるほど同じ魚種とは思えない方向性の味覚です。もちろん調理も異なるので当たり前と言えば当たり前ですが、それにしても全く別物の素材に感じました。
唯一のお肉はイノシシ。先に述べた通り弟さんは狩猟免許を持っているそうで、害獣駆除の一環としてゲットしてきたものだそうです。イノシシさん美味しくてありがとう。そしてありがとう。
とんでもないサイズの岩ガキ。とてもじゃないけど一口では無理無理なので縦にいくつかスライスしてくれているのですが、それでも一切れごとに口腔内が満タンになる量感です。ミルキーにしてアイアンな味覚。
すぐ近所の三面川で獲られた鮎。今年はヘンなタイミングで雨が多く、鮎の仕入れに苦労しているそうですが、晴れ男の私は恵まれました。バリっと頭から貪りつき、ほろ苦い大人の味わいを愉しみます。
炊き合わせは冷製で。高野豆腐、茄子、南瓜、トマトと素朴な食材であるものの、そのひとつひとつがいちいち旨く最高レベルの気持ち良さでリフレッシュ。
〆のお食事にはすごくすごいセットがやってきました。もうこれで立派な一食ではなかろうか。
〆のお食事なのに刺身が出て来ます。スズキを軽く炙ってレア目に仕上げ、いしるを用いたソースで頂きます。白米が進むのなんのって。
村上名物の鮭も出て来ます。ほどよく塩気が抜けており、少しもしつこさは感じられない極上品の鮭でした。
何より白ごはんが美味しいですね。上質なお米を水道水ではなく湧き水で炊いており、お釜を開いた瞬間のブワーと広がるごはんの香りがたまりません。食べきれなかった分は塩むすびにして持たせてくれるのですが、翌朝ほんとうに塩だけなのに旨いのなんの。
デザートはスイカのシャーベットでしょうか。シャーベットというにはクリーミーで滑らかな口当たりでありアイスクリームのよう。いずれにせよ美味しい。

私は運転があるのでノンアルでお茶を濁しましたが、仮に飲んだとしてもひとりあたり2万円程度でしょう。銀座なら4-5万円は当たり前のクオリティ、いや、ここまでレベルの高い魚介類には東京では出会えないかもしれません。

料理人が地元の漁師や生産者と直で繋がっており、東京のように変な卸売業者が暗躍していないからこその質および価格設定。いわゆる肉料理は殆ど口にしていないのにこの食後感。魚介類のパンチ力とその存在感を思い知った一夜でした。

次回は絶対に村上に泊まってお酒と共に楽しむんだからね。

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