ア・ニュ Shohei Shimono/広尾

広尾「ア・ニュ ルトゥルヴェ・ヴー」と銀座「ロムデュタン シニエ ア・ニュ」の統廃合を進め、広尾でリニューアルオープン。新しい店名は「ア・ニュ Shohei Shimono」とシェフの名前を全面に押し出します。
テーブル中心からカウンター主体へのお店へと生まれ変わりました。採光の良かった窓は閉ざされ、ちょっと暗くて全体的にエロい雰囲気となりました。完全なるオープンキッチンであるため臨場感抜群。目の前に旨そうな食材がズラりと並ぶ様が圧巻です。
お酒はコース料理に合わせたものをお願いしました。各人の耐酒力に合わせて量はコントロールしてもらえるし、飲めない方にはお茶のペアリングなどもあったりします。乾杯の泡からミレジムでウホってなる。
下野昌平シェフは辻調理師学校フランス校で学び、六本木「ヴァンサン」で4年半、西麻布「ル・ブルギニオン」で3年修業後、ロアンヌ「トロワグロ」、パリ「タイユヴァン」で計3年働き、リヨンのワインショップ「アンティックワイン」の研修を経て帰国。07年代官山「ル・ジュー・ドゥ・ラシエット」のシェフを務めた後に独立。
右はノドグロのコンソメ。バァンと先制パンチを喰らいました。液体としては清澄なものなのですが、そのへんの魚介系ラーメン屋の自慢のスープの5倍は濃い。自家製の味噌も溶け込んでおり旨味が抜群。ブリオッシュは目の前で型から出されたばかりでホカホカと目で美味しい。
アミューズは芽蓮根。レンコンの端っこにピョイと付いている小さくて売り物にならない蓮根をキュートな一皿に仕上げます。レンコンそのものの美味しさはもちろんのこと、種々のハーブやエルダーフラワーの風味が複雑に絡み合い、興味深い1口でした。
シイタケをシンプルに焼いてからチンチンに熱したアヒージョ的ソースを流し込みます。シイタケの香りが良く、炭火で部分的に焦がされた風味も良いですね。一方で、シイタケはシイタケでありシンプルで素朴な料理なので、自宅でも耳コピで再現できるかもしれません。
合わせるワインはオレンジワイン。なるほどこれは先のシイタケと合わせて、セットで美味しい仕様です。
冷製のカッペリーニには生ハムの出汁を凍らせてカキ氷にしたものをのせ、トップには大量のキャビアをトッピング。これは美味しいですねえ。生ハムの出汁が凄く良い。全ては洋モノの食材なはずなのに、どこか素麺的な懐かしい味わいが感じられました。
お酒は新政をほんの一口。やはり先のパスタのジャパンなテイストにしっくりくる。新政はブームの後にアンチが残ってネット上のヘイトスピーチが喧しいですが、目をつぶって飲んだらやっぱり普通に美味しいと思うのだけれど。
フォアグラのタレ(?)で焼いた鰻。バリっと直火で攻撃的であるものの内部はフワっとした食感で私好みの調理です。ソースは山椒とクリームチーズをどないかしたものですが、後続のワインを考えるとディップせずに食べたほうが良かった。
合わせるワインは品良い目のトスカーナ。鰻そのものよりも味付けに寄せたペアリングで好きなタイプ。話は逸れますが、こういう体験をするとやはり十番「時任」は真似事に思えてしまうので、鰻に専念すべきだと感じました。
本土鹿。創作的な料理が続きましたが、メインはズバァンとど真ん中ストレートです。ソースも肉質に負けないクラシックな仕様です。
ワインは胡椒っ気のあるスパイシーな1杯。ちなみにメインの添え物としてピパーチ(八重山の島胡椒)があり、その風味を意識しての組み合わせでしょう。アドリブでなく事前にコレとコレを合わせましょうと議論している軌跡が伺えます。
〆の炭水化物は2種からの選択制ですが、両方を選択するのが我々である。まずはブルーオマールのトムヤム麺。そういえばカウンターに活きたオマールが展示されていて、ハテ何で使うのだろうと思いきや、麺の具材として用いるのでした。なんて贅沢な。

そしてこの1杯が度肝を抜いた美味しさ。あくまでオマールの美味しさが全面に出ており、トムヤム風味はあくまでアクセントといったフォーメーション。直接材料費のかけ方の違いは当然あるとしても、六本木「オルタナティブ(Alternative)」のトムヤンクンとの格の違いをまざまざと見せつけられました。
〆の食事にもアルコールを合わせてきます。しかもワインじゃなくてレモネード?レモンの風味がベースにあって、エルダーフラワーやパクチーのような香りが響き、複雑な酸味が溶け込んだ興味深い1杯。先の麺にピッタリ。
もう1種の炭水化物は石垣牛オムライス。そうそう、そう言えば目の前に肉の塊がプレゼンテーションされていたけど、ハテ何で使うのだろうと思いきや、オムライスの具材として用いるのでした。なんて贅沢な。
贅沢は続く。目の前の黒いダイヤを一心不乱にスライスするシェフ。十番「かどわき」もかくやと思わせるトッピングであり「トリュフは飲み物です」とでも言いたくなる。
そのままシェフが豪快にトリュフと卵、ごはんを混ぜ込んだ上で取り分けてくれます。トリュフの香り、石垣牛の脂の甘味、全てを優しく受け止めようとする母なる卵。これは神の最高傑作とでも言うべき美味しさです。島根県産コシヒカリは7分の精米であり、他の食材に負けない滋味の強さがありました。ある意味反則攻撃的な一皿であり、「結局お前ら炭水化物が一番旨いんだろ?」と心の内を見透かされたような気がしました。
この炭水化物にもワインを合わせてくれます。王道のボルドー。ボリューム感たっぷりの1杯で、10年近く熟成にかけても余裕のよっちゃんでピカピカに輝いていました。
デザートはシンプルなキャラメルアイス。濃厚なキャラメルの風味が漂いつつも、フワフワっと空気が入っており、見た目以上にパクパクと食べ進めることができます。すると「おかわりいかがですか?」と、本当にパクパクさせて下さいました。
はちきれそうなほど満腹になってごちそうさまでした。リニューアル前の保守本流的なフランス料理もかなり好きだったのですが、今回は思いきりリベラルに、旨けりゃなんでもいいじゃん的に開き直った料理が続き、そしてそれがかなり美味しく感じました。フレンチをベースとした旨いもの屋。芸風だと元麻布「エクアトゥール(l'equateur)」と被ってくると思います。
食べ切れなかったオムライスとブリオッシュは丁寧に包まれて持ち帰り。これで家族の平和ならびに翌朝の幸せは確保された。


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