ザ・ひらまつ ホテルズ&リゾーツ 宜野座(THE HIRAMATSU HOTELS & RESORTS、夕食)/沖縄

2018年夏に開業した美食リゾート「ザ・ひらまつ ホテルズ&リゾーツ 宜野座」。客室数に比して敷地が広く、建物それぞれがゆったりとした設計。前回は1年前に女医4人と共に訪れましたが、今回は王道中の王道の家内と共にお邪魔します。
宿泊棟とレセプション棟、レストラン棟がそれぞれ独立しており、レストラン棟だけで3フロアとゆとり世代です。この余裕のある造りは僻地ならではですね。都心のギチギチにテーブルを詰めた非ロマンティックな設計に比べると、これだけで沖縄に来た価値があると言えます。
ロビーでの振る舞い酒で泡盛はたっぷり飲んできたので、夕食はワインで通します。ペアリングは全てソムリエにお任せで、おなじみのドゥラモットでセットスライドバー。そこから先も愚直なまでにオーソドックスなマリアージュに好感が持てました。
見て下さい、アミューズからしてこの凝り方です。沖縄で養殖している鰻のフリットに島豚のソーキを組み込んだグジェール、海ぶどうとマクブー(沖縄の高級魚)と何かのジュレを多用した1口と、これぞオキナワン・フレンチと選手宣誓するような三種の神器。
冷前菜はタコと香味野菜のセビチェ。コロナ直前にラテンアメリカから帰国した身としてはフランス料理でセビチェかい響きに引っ掛かりましたが、それでも島ダコの歯ごたえの躍動感にグリーンガスパチョのソルベの圧倒的爽快感には舌を巻く。
温前菜は伊勢海老と根菜のフランに伊勢海老のリゾット、ホタテとギンナンの串。これらは、もう、ほっぺたがもげるほど旨いですねえ。フランの美味しさは何となく予想がつきましたが、リゾットの茹で加減と伊勢海老の食感、トリュフの風味のバランス感覚といったらない。
パンも地味にとてもとても美味しいです。前回お邪魔した際にも同じことを思いましたが、当店のパンはメディアには決して出ることはありませんが、実は沖縄でパンが最も美味しいではあるまいか。
お魚料理は赤仁ミーバイ。アミューズのマクブーに続いて沖縄の高級魚です。ヴァプール(蒸し)でしっとりと仕上げており、総じて品の良い味覚。キノコ類の風味のソースもしっかりと活きています。
グラニテは地元の赤紫蘇などを用いたもの。こういった脇役まで手を抜かず沖縄に徹する神経症的な面、すごく好き。
メインは美崎牛。石垣牛のジェネリック的な位置づけですが味は一級。均質で切れ目のない食感であり、肉の旨味が噛みしめるほどに滲み出てきます。伝統的なソース・ペリグーも含め、真っ当なフランス料理の肉料理を食べたという食後感です。
〆はソバ。かつおだし文化圏の沖縄に敬意を表したもずく麺。ツルっとした素麺のような食感が心地よく、スープの美味しさはもちろんのこと柚子の香りも爽やか。賢島の鯛茶漬けに比肩するズルすぎるフィニッシュです。
デザートは沖縄の黄金芋を用いたモンブラン。いわゆるモンブランよりも甘さが控えめであり、イモそのものの風味を楽しんだという印象です。
お茶菓子にも手抜きは無く、生チョコなんぞ、そのへんのショコラティエが尻尾を巻いて逃げ出すほどのクオリティでした。

美味しかった。全体に物語的な構成があり、ひとつひとつが実に記憶に残る。個性豊かで独創的。沖縄の食材にひらまつの技術力が加わり、ちょっと他では真似できないフランス料理です。
当館の木下喜信シェフと私は何の面識もなく完全に他人であり好き勝手言って恐縮ですが、昨年訪れた際に比べても格段に沖縄色が強まり、より磨きがかかった印象です。

病的に沖縄の食材にこだわるところがすごくいいですね。料理の鉄人のように最初から食材が用意されていて一発芸的に料理を作るのとはわけが違い、一年を通じて沖縄での食材の仕入れルートを構築し続ける姿勢には頭が下がります。沖縄とかオーベルジュとかを抜きにして、ひとつのフランス料理として心から満足したディナーでした。

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「東京最高のレストラン」を毎年買い、ピーンと来たお店は片っ端から行くようにしています。このシリーズはプロの食べ手が実名で執筆しているのが良いですね。写真などチャラついたものは一切ナシ。彼らの経験を根拠として、本音で激論を交わしています。真面目にレストラン選びをしたい方にオススメ。