オトワ レストラン(Otowa restaurant)/宇都宮

日本を代表するフランス料理人、音羽和紀シェフ。1970年代に渡欧し、フランス料理史に名を残す伝説のシェフ、アラン・シャペルの薫陶を受け、帰国後1981年に宇都宮に「オトワ レストラン(Otowa restaurant)」を開業。ゴエミヨではトランスミッション賞を受賞し、世界的なイケてるレストラン組合「ルレ・エ・シャトー」にも加盟しています。
近代的な美術館のような内外観(画像は公式ウェブサイトより)。入店からガラス張りの厨房の脇を抜け、メインダイニングに至るアプローチはまさにグランメゾン。シェフズテーブルや個室も用意されており、むちゃんこカッコイイ誂えです。
レストランを統べるのは長男の音羽元シェフ。白金の「シエルエソル(CIEL ET SOL)」の厨房を預かりミシュラン1ツ星を獲得した次男の音羽創シェフはサービスに徹しており、大谷翔平をDHで使い続けるような贅沢さがあります。海外でホテル・レストランマネジメントを納めた長女マダム香菜もマネジメントに参画しており、この人材の厚さは何なのでしょう。「徳山鮓(とくやまずし)」もそうですが、一族の子供たちが世界に散って、また戻ってきて館を継ぐというストーリーは物語として最高。
ワインはかなりお値打ち。思わず嬉しくなってしまい、おシャンパーニュにシャサーニュ・モンラッシェ、ボルドー5級を全てボトルで注文と、エキサイティングな時間を過ごさせて頂きました。ちなみにお食事は最高値の「メニュー ルレ・エ・シャトー」で税サ込18,150円です。
アミューズからバッチリと手が込んでいます。とりわけマーブル模様の伊達鶏が絶品であり。これをそのまま大きくしてメインディッシュとして食べたいほどの美味しさがありました。
スープはトウモロコシ。トウモロコシよりもトウモロコシの味が濃く、液体というよりも個体に近い迫力があり、ドロっとした食べ応えがあります。他方、中央のトマトのソルベが爽やかさを付与しており余韻はサッパリ。
ヤマメ。この食材は日本料理店で塩焼きとして食べることが殆どであり、フランス料理店でタルタルとして食べるとは思いも寄りませんでした。独特の青臭さが食欲をそそり実に爽やか。組み込まれた野菜の食感がも楽しい。
パンも本格派。3種頂きましたが、いずれもそれ単体として見事な味わいであり、ブーランジェリーとして勝負していけるほどです。
オマール海老は程よく熱が加わっており、甘味が増して美味しい。どことなく炭っぽいニュアンスも感じられ、香ばしい味わいです。柑橘のソースの味覚も心地よく、程よい軽やかさを演出しています。
蝦夷アワビをパイで包んで焼き上げます。なんて美しい焼き色でしょう。このまま額に入れて部屋に飾りたいほどです。
さっくりとナイフを入れると立ち上る磯の香り。佐野ひなこのようにムッチムチの歯ざわりのアワビが艶っぽい美味しさ。ソースには昆布出汁や肝の旨味が溶け込んでおり、アワビを取り巻くホタテのムースにアオサ海苔を含め、レンティア国家のような豊かさのあるひと皿でした。
お魚はアマダイ。日本料理のような松笠焼きでザクザクとした歯ざわりを楽しむ逸品。キュウリを用いたソースも初夏にピッタリの味わいです。オマールからアワビ、アマダイと、海無し県でここまで高次元な魚介料理が楽しめるだなんて。
メインは地元の和牛のフィレ肉。肉そのものの美味しさや火入れの素晴らしさは当然として、ソースが実に印象的。チミチュリソースというアルゼンチン発祥の青くサッパリとした味わいであり、内蔵が再起動する爽やかさ。フルコースにおいてメインの肉はお腹いっぱいで惰性で食べることが多いですが、コチラは思いがけず軽やかで最後までスルスルっと食わせる軽やかさです。
お口直しは栃木が誇るとちおとめ。そのへんのフレンチレストランの雑なグラニテとは一線を画し、素材の良さを明確に示す手の込んだ名品です。
デザートは地元のメロンに青紫蘇のアイス。アミューズにスープ、ヤマメにアマダイ、肉と、爽やかな味覚がコース全体を貫いているのが面白い。
小菓子も手が込んでいて、このまま専門店としてショーケースに並べたいほどです。フレッシュハーブティーと共にのんびりとおしゃべり。優雅なランチタイムでした。
お会計はひとりあたり4万円弱。ただしこれは割と派手目に飲み食いした結果であって、普通に楽しんだとすれば2万円前後に落ち着くでしょう(ランチコースは7千円ぐらい~)。これは大変お値打ち。東京からの新幹線代を加味したとしても、それを上回る食後感です。

何より本気でフランス料理ひいてはフランスの料理文化に取り組んでいるのが良いですね。夫婦だけでやってるような地方のオーベルジュは最近増えてき始めましたが、50席を超える大箱で、大勢の従業員を抱えながらシステマティックに事業を継続できているのは偉業としか言いようがありません。ミシュランに栃木版があれば2~3ツ星は当選確実であり、ウーシュの「トロワグロ」イルローゼンの「オーベルジュ・ド・リル」を彷彿とさせるファミリーとしての凄味があります。
私の知る限り、日本において最もフランス料理・フランス料理文化的なレストランです。感じるもの全てがフランス基準・世界基準。港区にあるちんちくりんなおバカフレンチの予約をネットで取り合うのは情弱のすることだよん。

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「好きな料理のジャンルは?」と問われると、すぐさまフレンチと答えます。フレンチにも色々ありますが、私の好きな方向性は下記の通り。あなたがこれらの店が好きであれば、当ブログはあなたの店探しの一助となるでしょう。
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