あら木 /札幌

まさにすすきの、ピンク色の街のど真ん中にある天ぷら「あら木」。青山「えさき」で修業した荒木啓至シェフが札幌に戻り開業。今ではドーイチ(北海道で一番)の天ぷら屋と誉れ高く、食べログでは4.00(2020年8月)でミシュラン2ツ星と勢いのあるお店です。ちなみにドーイチとは私がさっき思いついた新出単語です。
お店に入った瞬間、まわれ右して帰りたくなる。店内は鬼常連とウォータービジネスの同伴客だらけであり、その隙自語トークは暗黒のファンファーレと化し賑やかを通り越して騒音と呼ぶに等しいデシベルです。一斉スタートは全員が同じ船の乗組員。誰かが好き放題すればそれがお店の評価に直結してしまう。
酒が安い。薄はりのグラスに丁寧に注がれたマスターズドリームは700円。これ多分、日本でトップクラスに安く美味しくマスターズドリームが飲めるお店ではなかろうか。日本酒も悪くない価格設定であり、ワインを除けばそれほどアルコールの価格は気にしないで大丈夫でしょう。
羅臼のブリ。客はすぐにタグ付けしてくるタイプばかりですが、食事の味は間違いがありません。ブリの旨さは当然として、キノコのヌルっとした舌ざわりもセンスを感じさせるアクセントです。
ペダントな方々の議論がうるさくて聞き取れませんでしたが、貝か何かのようです。たぶんアワビじゃないのですがその味覚はアワビに比肩するものであり美味しかった。
さっそく吸い物が出てきました。メヌケ(後述)の出汁をきかせた液体であり、ツルっともずくも潜んでいます。
ギンナンで準備運動し、天ぷらを食べる準備が整いました。基本は塩・すだち・天つゆなのですが、大将が調味をした上でお出し頂けることが多く、まるで鮨屋で食べるような感覚です。
まずは足から。何もつけずに海老の風味だけを楽しみます。大人のかっぱえびせんである。
続いて胴体を塩、さらには天つゆで頂きます。ところで天ぷら職人は「油の声を聴く」とか言って割に寡黙な方が多いと聞いていたのですが、当店の大将は常連と一緒になってゴルフの話で大盛り上がりしていたので都市伝説なのかもしれません。
アオリイカ。しっとりとした質感を残し甘味が強い。
キスはかなりの肉厚で、揚げたてをそのままザブンと天つゆに漬けてくれます。ザックザックほっくほっく咀嚼する愉しみのある天ぷらであり、これはこれでありよりのあり。
京まんじゅう茄子は20分も揚げ続けていたそうで、塩で食べればテロに近い温度帯です。やはりザブンと天つゆに浸すのですが、鰹節や木の芽で味変を試みており飽きさせません。
ムラサキウニは自家で塩漬けにし、まずはそのまま頂きます。もち米のアミロペクチンで旨味をしっかりと受け止めるのがとても良い。
そのウニを天ぷらに。私はウニを天ぷらにするのは味がぶっ壊れて勿体ないなあと思う派なのですが、当店のそれはしっかりと塩漬けされているからか最後までウニの主張が強く、説得力のある味わいでした。
先のスープの身の部分、メヌケです。厚くカットされており外皮から中心にかけて火入れのグラデーションが楽しめます。
上富良野の松茸。へー、あのへんってマツタケ獲れるんだ。ツルンとした状貌であり食感も強い。マツタケってしわくちゃのおじいちゃんみたいな存在ですが、健康的な青少年を思わせる力強い味わいです。
ホッキ貝。うわー、これはめっちゃんこ美味しいですね。ホッキ貝を天ぷらとして食べるのは初めてですが、それはさておきホッキ貝の料理として人生最高の美味しさかもしれません。肉感的な歯ざわりにジューシーなエキス。じゅるり。
フルーツトマトの酢の物で奥地を整えます。こういう配置転換も天ぷら屋としては珍しく面白い試みです。
トウモロコシは芯の部分は取り払われ、美味しいところだけをじっくりと揚げています。とても甘く、とても甘い。
アナゴ、と思いきやウナギでした。ホッキ貝もそうですが、ウナギを天ぷらにして食べるのも初めてかもなあ。しかもこれが結構、いやかなり旨く、はっきり言って池袋「かぶと」で食べたどのウナギよりも美味しかったかもしれません。
食事は天丼・天茶・天むすからの3択だったので深く考えずに天丼にしたのですが、隣の常連が食べている天むすが超旨そう。旨そうもそうですが量も天むすのほうがダブルに近いものがあり、お腹に余裕がある方は天むすをチョイスしたほうが良いかもしれません。
食後のデザートはプラムのみと潔いフィナーレでした。

お会計で驚き。それほど飲まなかったのもありますが2万円でお釣りが来ました。実に名古屋「にい留」の1/2~1/3の支払金額です。というか、費用対効果という意味では私的世界1位の天ぷら屋かもしれません。

でもなあ、客層がなあ。たまたまかもしれませんが、私がお邪魔した際の雰囲気はその辺の居酒屋よりも低俗であり、場所柄と片付けてしまえばススキノの民に申し訳なく、しかし悔しいが旨いという複雑な感情を抱えながらの集中できない食事でした。

今後行かれる方は同伴客が居なくなるであろう2回転目を狙い、できれば常連客に連れて行ってもらいましょう。お行儀よくしたもん負け主導権を握ったもん勝ちのお店です。貸し切りで行けたら最強だろうな。

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天ぷらって本当に難しい調理ですよね。液体に具材を放り込んで水分を抜いていくという矛盾。料理の中で、最も技量が要求される料理だと思います。
てんぷら近藤の主人の技術を惜しみなく大公開。天ぷらは職人芸ではなくサイエンスだと唸ってしまうほど、理論的に記述された名著です。スペシャリテのさつまいもの天ぷらの揚げ方までしっかりと記述されています。季節ごとのタネも整理されており、家庭でも役立つでしょう。