ヴィラ・アイーダ(Villa AiDA)/岩出(和歌山)

和歌山は岩出にある一軒家イタリアン。何と1日1組のみの営業です。大阪からは車で1.5時間はかかるであろう僻地であり、公共交通機関からも遠いので難易度が高い。
玄関を開けると感じの良いウェイティングスペースが広がっています。予約時間よりも30分も早く着いてしまったのですが(車なので時間が読みづらい)、置かれた本のセンスが良く、心地よく時間を潰すことができました。
予約時間となり、更なるウェイティングスペースへと通され、食前酒とアミューズを楽しみます。このあたりヨーロッパの本格的なレストランの進め方であり、期待がどんどんと高まっていきます。
食前酒が1杯自動的に付帯します。私は運転があるので自家製のレモン・スカッシュ。連れはブラン・ド・ブランでシュワっと乾杯。
アミューズも死ぬほど手が込んでいます。ここまで凝ることができるのは1日1組という営業スタイルのおかげでしょう。アミューズと呼ぶには勿体無いほどのクオリティであり、この時点で本日の勝利を確信しました。
こちらもアミューズのうちのひとつ。自家菜園で採れた野菜のピクルス。野菜の滋味が強く、漬ける酸の程度も程よい。「お客様の来店から逆算して収穫する」というスタイルは最強である。
アミューズの後はダイニングエリアへと移動。これだけの空間を2人で貸し切るという贅沢。皿出しのテンポは全て我々にチューニングされ、他の下品な客に雰囲気が左右されることもないので、100%食事と会話に集中することができます。
1皿目はトウモロコシのスープ。焼いてジュースを絞っただけのものなのですが、信じがたいほど旨い。この糖度の高さは何だ?まるでお汁粉じゃないか。個人的には初っ端に甘ったるいものを食べるのは苦手なのですが、そういった感情を超越するほどの味覚がありました。
紫色のジャガイモであるシャドークイーンと真鯛。魚の味覚の凝縮感が程よく、ジャガイモの力強さも感じられる程よい調味。それを人はセンスと呼ぶ。
タタキのように炙ったカツオの塊にリコッタチーズのソースとプチポンカナリア(黄色いトマト)を添える。ぷんと漂うカツオの香りにトマトの酸味が清々しい。量もたっぷり。
パンも当然に自家製。派手さはありませんが素材を感じさせるしみじみとした味わいであり、料理を邪魔せずバクバクと食べてしまいました。お土産にもいくつか持たせてくれ、自家製の魅力はこういった部分にあるのでしょう。
鰆は衣をまとって揚げて登場。これぞ完璧という火加減であり、カラッとした外皮からジュワっと広がる鰆のエキスまで余すところなく楽しめる1皿です。
イカと玉ネギ。和のテイストを含んだ前衛的な美術品のようであり、このままリビングルームに飾りたいほどです。イカのポーションは小さめで、どちらかというとタマネギを楽しむ1皿でした。
鮑にタイ茄子。それにイモの食感が堪らない。それぞれの食材のキャラがきちんと立っており、それでいてまとまりがある。調味は必要最小限に留められ、とにかく素材が美味しい1皿。
今が旬のヤングコーンに根セロリ、赤海老。並のレストランであればどう考えたって赤海老が主役足り得るのに、当店は野菜に目が向いている。ヒゲを纏ったジューシーなヤングコーンをザクザクと頬張る幸せ。
自家菜園の野菜とハーブ。見るからに旨そうであり、そして実際に旨いのである。ブラスのガルグイユも似たようなコンセプトかもしれませんが、野菜ひとつひとつのサイズが大きく、ムシャムシャと食べごたえがあります。
地元のホロホロ鳥。1分1秒も逃すまいと見極められた頂点の火入れです。ホロホロ鳥はそれほど好きな食材ではないのですが、当店のそれは別格。ジューシーで瑞々しく、しっとりとした噛みごたえ。真っ白な肉なのにグイグイとした味の濃さがあり、人生で一番美味しいホロホロ鳥でした。
お口直しの造形も実にクール。一般的なレストランのお口直しは偽カキ氷のような雑な物ですが、当店のそれはシェフの美意識が感じられる1口でした。那覇の嘘つき中華にこれが口直しだと教えてやりたい。
牛乳を煮詰めた(?)液体にカモミールと青梅のジュレ。見た目はただの白い液体なのに、想像を絶する味覚です。冒頭のトウモロコシと同様まさに素材といった味わいなのですが、ここまで濃厚で濃密なものになるのかと唸ってしまう。カンテサンスのアレはどうしてあんなに賞賛されているのかよくわからないのですが、当店のコレは誰でも直感的に旨い!と叫んでしまう魅力があります。
メインのデザートはココナッツのアイスにメレンゲに地元の桃。この皿についても何を食べているのかハッキリと解りやすい一方で、全体として統率の取れた味わい。最後の最後までパーフェクトでした。
小菓子も凄い。シンプルながらも当店のコンセプトを体現したかのような魅力があります。木苺かわゆす。
焼き菓子もアツアツで中身がトロっとした食感であり、最後の最後まで手抜きは一切なし。ごちそうさまでした。
完璧でした。今まで食べたイタリア料理(そもそもこれはイタリア料理か?)の中でダントツの満足度かもしれません。しかもお会計はひとりあたり2万円弱という信じがたい費用対効果です。これだけの料理をこの雰囲気の中この価格帯で提供できるのは世界広しと言えどもここぐらいしかないのではなかろうか。
レストランの未来は当店にあるのかもしれません。良質な食材を取り寄せて調理するのではなく、客が自ら食べに行く。最終型の料理を意識して栽培からデザインしていく。その日訪れるお客様のタイミングに合わせて収穫し、ベストな状態で望む。営業時間中はそのゲストのみに向き合う。

代々木公園の「été(エテ)」にも近い価値観を感じますが、当店は食材の生産から手がけているという意味でより高次元に感じます。また、ニューヨーク州の「Blue Hill At Stone Barns」もコンセプトとしては近いかもしれまでんが、あそこは値段が高すぎてちょっともう無理。つまり当店は素晴らしい。感動した。また絶対来る。今度はタクシーで来て絶対飲む。
ちなみに当店を知ったのはブルータスのイタリアン特集でした。この本は日本のイタリア料理の歴史から現代イタリアンの魅力まで余すこと無く紹介されており、情報量が異常なほど多く、馬鹿ではちょっと読み切れないほどの魅力に溢れた1冊です。外食好きの方は絶対買っておきましょう。


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日本のイタリア料理の歴史から現代イタリアンの魅力まで余すこと無く紹介されており、情報量が異常なほど多く、馬鹿ではちょっと読み切れないほどの魅力に溢れた1冊です。外食好きの方は絶対買っておきましょう。

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