富成(とみなり)/輪島(石川)

金沢から車で2時間超、奥能登の自然豊かなエリアに佇む日本料理店「富成(とみなり)」。ミシュランでは1ツ星を獲得し、加えて「グリーンスター」という「持続可能なガストロノミーに対し、積極的に活動しているレストランに光をあてるシンボル」を受賞しています。
昼夜2組づつの限定営業であり、我々は奥のお座敷にご案内頂けました。冨成寿明シェフは輪島市出身で、ご自身が生まれ育った川と里山を保全するプロジェクトの代表も務めています。まさに「奥能登の自然と共生する料理人」であり、このあたりの思想はフランスの地方におけるガストロノミーに通じるものがあります。
酒が安く地元の日本酒など1合600円~です。だがしかし私は運転があるためノンアルコールビールという試練。車の自動運転技術が一刻も早く実現して欲しいところです。
挨拶代わりにゴマ豆腐。ソースにはモクズガニの旨味がたっぷりと詰まっており、店主の川と里山を保全するプロジェクトの活動の成果といったところでしょう。
地元の岩牡蠣に岩もずく。厚みのある味覚でありベイマックスに抱かれたような安心感のある美味しさです。ちなみに当店の食材は能登の山海の珍味が勢ぞろいで、シェフが自分で採りに行けるものは採りに行き、野菜などの栽培にも化学的なモノは導入していないそうです。
お造りはノドグロにコチ、水ダコ。ノドグロが白身魚とは思えないほどの脂とコクを湛えており、コチも複雑ながら雑味の無い綺麗な味わい。白眉は水ダコであり、独特な食感から永遠に美味しさが滲み出てきます。土地柄か輪島塗のお椀で供出されるのも良いですね。
チンチコチンに熱された鍋で提供されるスッポンとそのスープ。素朴な調味ですがスッポンの滋味と言うべき美味しい部分がダイレクトに伝わって来、スッポンから直接DMを貰えたような嬉しさがあります。
天ぷらはサザエと野菜の天ぷら。コリコリにっちりとした食感であり、これほど酒を飲めない状況を呪ったことはありません。野菜も野菜そのものの味が濃く、どっちが主役だかわからないほどの存在感です。
八寸。ヤマメは店主自ら養殖しているものであり、なるほどミシュランのグリーンスターが萌える瞬間です。アジを用いた発酵料理も用意されており、何でも能登は発酵料理が盛んだそうです。ゴリ(カジカ)の苦みもノンアルコールビールを誘う味わいであり、鰻の凝縮感のあるコッテリとした調理および調味も見逃せない美味しさです。ああ、お酒を飲みたい。
肉料理は能登牛A5プレミアムのフィレを炭焼きで。見て下さい、この量を。ゆうに100グラムは超えるサイズ感であり、そのへんのステーキ屋であればこれだけで食事が終わりそうなほどのポーションです。味についても絶品で、牛肉であるのに流れるように胃袋に落ちていくクリアな味わい。コース終盤のこのタイミングでこの量の肉を少しの負担もなく食べ切れるという奇跡のひと皿です。
〆のお食事もお祭り騒ぎで地元の鮎を豪快に頂きます。土鍋でドーンと出てくるのですが、食べきれなかった分はもちろん持ち帰りOKです。
ほんのりと苦味がのった鮎が米の甘味に組み込まれ、不思議と爽やかにスイスイと食べ進めることができます。お椀にはたっぷりと甘海老がぶちこまれており、ここにきて和風ブイヤベースかという贅沢さです。
甘味は山椒のアイスクリームに水ようかん。厨房のほうでヴィーンと鳴っていたのでアイスクリームは恐らく自家製なのでしょう。滑らかな口当たりでスっと溶けていく。
食後はフレッシュハーティーでまったり。ごちそうさまでした。以上のコース料理が1.3万円という奇跡。能登牛のステーキなんて、もうあれだけで1.3万円請求されてもおかしくない価値を感じました。今回は運転があるので飲めませんでしたが、仮に飲んだとしても1杯500円か600円という価格設定で総額からするともはや誤差。こんなに満足度の高い日本料理は中々ありません。

何よりシェフの姿勢が素晴らしいですね、生まれ育った地を愛し生まれ育った地を守り続け、その上で地元の食材を用いて最高の美食を創出する。料理そのものの美味しさを超えた次元の価値を感じた食体験でした。

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「大人絶景旅」と銘打ってはいますが、石川の名所をテンポ良くまとめています。グルメ情報も多くモデルルートの提案もあり、広告だらけのガイドブックとは一線を画す品質の高さです。