一本杉 川嶋(いっぽんすぎ かわしま)/七尾(石川)

七尾は一本杉通りの有形文化財に暖簾を掲げる「一本杉 川嶋(いっぽんすぎ かわしま)」。2020年夏に開業したばかりの新店ですが、あっという間にミシュラン1ツ星を獲得。カウンター6~7席のみの小さなお店(テーブル席もあるけど使われてないっぽい)、かつ、1日1回転のみなので、既に予約困難なりつつあります。
川嶋亨シェフは七尾市出身。お父様も料理人というサラブレッドであり、京都や大阪の名店で腕を磨いた後、和倉温泉「割烹 宵待」の料理長を経て独立。若手料理人コンテスト「RED U-35」でファイナリストにも選ばれました。
アルコールの値付けは控えめ。私は運転があるためノンアルコールビールで通しましたが、グラスの日本酒は800円~で、このクラスの日本料理店としては良心的と言えるでしょう。
準備が整うまでトマトのシロップ漬け(?)で繋ぎます。ブラインドで食べればフルーツに感じるほど甘味の強い仕立てです。
お料理スタート。まずはナスに金時草、モクズガニ。滋味あふれる野菜の味わいにカニの旨味が良く合う。スダチのジュレも爽やかで、軽快な出だしです。
イチヂクをゴマだれで。ついさっき採ってきたばかりのイチヂクであり、ごくごくシンプルな料理ですが目を瞠る美味しさです。イチヂクの酸味と甘みに擦ったばかりのゴマの香ばしいかおりが堪りません。
お椀は玉子豆腐にアマダイ。出汁で有名な京都「桜田」でしごかれただけあって気品あふれる美味しさです。カラっと揚げたアマダイからも徐々に旨味が零れ落ち、葛を導入した滑らかな玉子豆腐でフィニッシュ。ベリーナイスなスープデスネ。
お造りはアカイカにシラサエビ、アラ。イカには細かく細かく包丁が入っており、ネトネトと舌先に美味しさがまとわりつきます。エビとアラには仄かに熱を入れており、芳醇な旨味をクリエイトしていました。
こちらが心配になるほどの火勢で藁焼きしたカツオ。魚が上質なのは当然として、藁焼きの藁まで無農薬栽培という力の入れようです。たっぷりの薬味に自家製のポン酢をぶっかけて豪快にデリシャス。
お凌ぎは最上のもち米に銀杏。素朴なひと品ですが実に説得力のある味わいです。フグの子のへしこ(?)が程よいアクセントになっており、心に残った炭水化物でした。
八寸のプレゼンテーションがイカしてますねえ。もちろん八寸だけでなく、内装の装飾品や器に至るまで季節を感じさせる演出に満ちた店であり、なるほど日本料理とは総合芸術であり、日本人に生まれて本当に良かったとご先祖様に感謝しました。
八寸につき、レンコンを生で食べるという初の体験。市場に出回ることの無い、レンコン農家に特別に分けてもらう逸品であり、レンコン特有のエグ味は欠片も感じさせません。またスルメイカの塩辛が絶品で、遠慮という言葉を知らない連れは追加で日本酒を発注していました。
メタボ体質のノドグロをふっくらと。脂はたっぷりなのですが品のある太り方であり、またフレッシュな三つ葉の爽やかな味わいと良く合います。何も炙るだけがノドグロではないのだ。
揚げ物はサトイモとレンコン。サトイモは一旦お出汁で炊いており、シンプルな料理ながら奥行きを感じる味わい。また今回のレンコンが凄くって、ガブっとかぶりつくと蜘蛛の糸のような糸がみょーんと伸びるのが面白い。またこの糸が細いのに驚きの強度を誇り、ユニクロあたりが新素材として目を付けても面白いかもしれません。
お造りのシラサエビのお頭。殻の香ばしい香りに濃密な味噌の味。ああ、日本酒が飲みたい。
特大のアワビにレンコン餅。アワビの美味しさは言わずもがな、白眉はレンコン餅。擦った滑らかさに加え、所々ざく切りにしたレンコンの食感がランダムウォークし、シャク・トロ・つるりと楽しい食体験。レンコンの魅力を詰め込んだひと品でした。
お食事につき、まずは白ゴハンで参ります。味噌汁・漬物と脇役の質も最上であり、とりわけ烏骨鶏の半熟卵に心躍りました。
「お腹に余裕があれば」ということで、先のカツオを漬けにしたものを丼にしてくれます。他のゲストはもう食えねえゾーンに突入していましたが、我々だけ涼しい顔でどんどんおかわり。得する胃袋である。
能登うなぎをバリバリに炙って出汁茶漬けに。鰻の焦げた香りほど食欲をそそるものはなく、「もう食えねえゾーン」でまったりしていた皆がコチラの世界に戻ってまいりました。皮目が自らの脂でジュっと揚がり、カリカリもっちりと愛くるしい食感です。
烏骨鶏の卵かけごはんでフィニッシュ。白米に卵黄に鰹節、出汁醤油と、言葉にすれば素朴な組み合わせではありますが、本日の集大成とも言うべき純粋な締めくくりでした。
デザートは加賀しずく(梨)にルビーロマン(ブドウ)に烏骨鶏(うこっけい)のクレームブリュレ。クレームブリュレからは濃密な卵の風味が感じられ、今夜ひと晩ですっかり烏骨鶏のファンになりました。小室圭も烏骨圭とかに改名すれば、もう少しみんな優しく接してくれると思うのだけれど。
最後にお抹茶をたててくれ、作り立てのお団子と共にフィニッシュ。ごちそうさまでした。以上を食べ、お食事だけであれば1.8万円であり、酒も高くないのでかなり飲んでもひとり2.5万円には収まるでしょう。都心のちょづいた日本料理店であれば倍請求されるレベルです。
加えて、飲食だけでなく建屋から内装、器に至るまで、微に入り細を穿つ演出には脱帽。また、その世界観を完成させるためにトコトンまで拘っているはずなのに決して押しつけがましくなく、実に謙虚に低姿勢。それでいて煩い客のあしらい方も堂に入ったものがあり、PTAの委員とかすごく上手くやれそうな気がします。

能登半島にゴールデンルーキー現る。北陸旅行の際には是非とも半日あけて訪れましょう。

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