馳走 啐啄一十(ちそう そったくいと)/広島市

広島県における食べログ1位「馳走 啐啄一十(ちそう そったくいと)」。ブロンズメダルを獲得しており、ミシュランでは1ツ星を獲得。2013年の開業以来、名実ともに広島を代表する割烹料理店となりました。
店主は平野寿将シェフ。テレビ出演が多く有名人を通り越して芸能人に近いのかなと考えていたのですが、毎夜お店に立ち最前線で厨房を指揮している様に好感を持てました。というか、カッコいい。なんともセクシーなおっちゃんです。
店内はカウンター席が十数席に個室。テレビで見たことのある人がまさに目の前で躍動しているので、ここは是非ともカウンター席に着きましょう。

お酒は1杯千円前後であり、この手の和食店としては良心的。女将が日本酒に詳しいようで、お料理に合わせた地酒を提案してくれるのも楽しい。
最初に朝掘りのタケノコ。清純でクリアな味わい。白眉はスープ。料理に合わせて複数種の出汁を用意しており、それを実現するために水が良い広島で開業したとの拘りようです。
いきなり「間人(たいざ) ガニ」が登場。丹後のブランド蟹であり、丹後町の間人港で水揚げされた松葉蟹です。脚の美味しさはもちろんのこと、外子(そとこ)や内子(うちこ)の深みが大迫半端ない。
海老芋にタラの白子。白いハンバーグのようにガツンの炙りあげ、これまた刺身かよと驚くサイズの自家製カラスミでフィニッシュ。これはどう考えたって日本酒ですねえ。これだけで1合いけてしまう完成された酒の肴でした。
特大のハマグリに思わず目がいきますが、目玉はお出汁。なるほど先のタケノコとは全く異なるスープの味わいであり、フランス料理におけるソースのようにお皿ごとにハッキリと風味が変遷します。
お造りは焼津の人気鮮魚店「サスエ前田魚店」より。放血神経締めやら熟成やら何やらで手が込んでいます。ヒラメのエンガワのコクとシロアマダイの旨味の強さが心に残りました。
カツオにサワラ。熟成した魚はグデグデのジュクジュクになって全部同じ味に感じることが多く私はそれほど好まないのですが、このカツオとサワラは別格。きちんと魚の個性を残しつつ熟成によるコクを重ねていきます。
キンメダイ。やはり適度な熟成であり、しっとりとした旨味です。
先の白子を今度は生で。冷静に考えるとすげえグロい食材ですが、これが絶品とも言うべき味わいなのが罪深い。
お造りのフィニッシュは大間のマグロの赤身と背トロ。様々な産地の魚を様々な熟成で選り取り見取り。見事なお造りの構成でした。
焼き物は黒むつ。山椒で風味をつけて焼いており間違いなく美味しいのですが、やはり熟成お造りオールスターズの輝きの陰に隠れてしまった感は否めません。
大根やアワビダケを炊いていきます。またまた違ったお出汁の味わいであり、スープの1滴も残すまいとスパチュラが欲しくなりました。
メインディッシュは榊山牛をローストビーフ風に。「榊山牛(さかきやまぎゅう)」とは広島県内で特別に育てられた特別な和牛であり、生産数が少なく幻の牛とも呼ばれているそうです。という蘊蓄はさておき、和牛特有の嫌なクドさはなくサラっとした味わいであり、この局面においてもスイスイと食べることができました。実に爽やかなお肉です。
〆のお食事はイクラにトリュフに生卵という反則行為。これはどうやったって美味しいですね。ただ、せっかくお出汁が自慢なのだから、その出汁を用いた出汁茶漬けなどもあればより記憶に残ると思うのだけれど。
デザートは白ごまプリン。ゴマの風味が強く上質で甘い担々麵を食べているかのようでした。

お会計で驚き。以上を食べふたりで4合近く飲んで支払いはひとりあたり2万円を切りました。ぐわー、この費用対効果の良さは異例を通り越して異常です。東京の調子に乗った和食店であれば倍近く請求されてもおかしくな質と量。大将の客あしらいもよく、常連一見分け隔てなく気軽に言葉を交わし居心地の良さを醸成しているのも素晴らしい。

中国地方、いや日本全体を含めてもトップクラスに好きな和食店です。オススメ!

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