東麻布天本/赤羽橋


2016年最もグルメ業界を沸かせた鮨屋と言えばココ「東麻布天本」。
若き大将は青山「海味」の二番手を務め、独立前に滋賀「しのはら」、京都「祇園さヽ木」など日本を代表する和食店で修行したのち、満を持して独立。開店前から数ヶ月先まで予約が埋まり、現在は1年先まで埋まっているという、世界で最も予約が取れない鮨屋です。
まずはビールで乾杯。8席の小さなお店、かつ、基本的に関係者ばかりなので、自然とワイワイガヤガヤと和やかな雰囲気となり、初対面でも友達です。
もずく。繊維が細く酢が強めなのが特徴的でした。
山口は萩のばい貝。コチラは海鮮居酒屋で出るような、ごく普通のお通しといったところ。
白子とアサリの茶碗蒸し。白子部分とアサリ出汁部分の2温度帯に分かれており、白子はヒンヤリと滑らかで、酸を感じるジュレが味覚に彩りを与えます。一方で、アサリ出汁部分は標準的な茶碗蒸し。

いずれにせよ、並の鮨屋であれば具材として白子を用いるところを、白子と生地を分けるあたり、これまでの経験に対する矜持を感じました。
長崎の「迷い鰹」。「迷い鰹」とは太平洋に抜けずに迷って日本海方面まで突き進んでしまった、ちょっとおバカなレアなカツオです。

しかし味は極上。客全員が即座に無条件降伏を受け入れました。こんな旨いカツオがあるか?これまでに食べたカツオの中で一番は勿論、マグロを含めてもトップクラスの味わいです。天上の美味に一同沈黙に次ぐ沈黙。食べるスティーブン・セガールである。
さてさてビールはここまで。鮨と言えば日本酒です。すっきりとした口あたりに爽やかの喉越し。バランスの良い酒です。
釧路は仙鳳趾(せんぽうし)の生牡蠣。つるんとした肌触りにミルキーで優しい海の味。渡辺美優紀を牡蠣にするとこのようになるのではあるまいか。プレゼンテーションも素敵。記念切手にしてコレクションしたいほど美しい。 
シャコ塩辛。面白い。シャコをこのように食べるのは初めてです。兎にも角にも酒が進む。 
華やかな吟醸香。品の良い日本酒でした。
噴火湾あん肝。こちらも興味深い逸品です。プリンやスフレのような滑らかさ。あん肝特有のクドさやコッテリ感は一切無く、ブラインドで食べればそれこそ特殊な味付けを施した茶碗蒸しと答えてしまうかもしれません。
豊後水道サバ。一本釣りして今朝シメたばかりのもの。これは中くらい。美味しいですが、劇的な何かがあるというわけではありません。
増毛のボタンエビ。背中に乗ったタマゴはエメラルド。再び一同絶句。スティーブン・セガールの再襲来である。官能的なエビの甘味。とろける舌触り。卵に対する罪悪感。美味しいとしか感じることができませんでした。 
パワフルなお酒。ツマミの濃さに負けない存在感。厚みがあって芯が太い。山田錦らしい1杯です。
サワラの幽庵焼きを丼で。ううむ、コチラも見事な出来栄えです。やはりきちんとしたお店で普通の料理を食べるとお店の価値が直線的に伝わってくる。
玄界灘のタイ。昨日しめたチョイ熟成モノ。ムツムツという舌に貼り付く熟成感。適度な弾力。繊細なタイミングの味わいでした。 
こちらも骨格がしっかりした1杯。若干の苦味が感じられますが、ある意味料理とあわせるにはちょうど良い特徴かもしれません。
残念ながらガリは普通のガリでした。個人的には丸々漬け込んで、その場で厚めにスライスしてもらうガリがタイプなのですが、まあ好みは人それぞれ。
神戸のポートアイランドあたりで獲れたアジ。それなりに美味しいですが、これまでのややこしいツマミやにぎりの快刀乱麻を断つというほどの存在感は見えませんでした。 
スミイカ。厚みがあってグッドです。ああ、旨いイカってこういうのなんだな、と、しみじみ感じ入らせてくれる一口。
ヒラマサも適度な熟成感が素晴らしい。昨今は肉でも魚でも熟成ブームで飽き飽きしてきましたが、その対極に流されることなく、個体にとって一番適した時機で提供しようとする店主。魚に対する愛を感じました。
適度な吟醸香に米の旨味。良い酒です。
シラカワという甘鯛の一種。甘味が強く、適度な熟成がその甘さをより一層ひきたてています。ううむ、これがタイだとは信じられぬ。脂もコクも最高。絶頂に達してしまいました。 
竜飛崎の本マグロ。一本釣りとのこと。マグロを一本釣りだなんて、漁師の筋肉痛が思いやられます。ただし味わいにこれといった鋭さはなく、お行儀の良いマグロといったところ。
フレッシュでフルーティ。後味も爽やかで食中にピッタリ。外人にウケそうですこのお酒。
中トロ。おや、コチラも先の赤身と同じく印象に乏しい。仕入れ次第なのかもしれませんが、マグロヲタには物足りなく感じるかもしれません。
船橋のこはだ。デデーンと特大ポーションで。しかし漬かり具合は実に上品であり、自信作といったところでしょう。サワラの幽庵焼きと同様に、当店のスキルの高さがビンビンに伝わる1貫。
これは魚介類にピッタリですね。キリっとした味わいなのですが、繊細な甘味も残ります。温度を上げて飲むのも良いかもしれません。酒飲みが好きそう。
銚子の金目鯛の松前漬け。一同耳を疑う。え?松前漬け?松前漬けってこういうシステムだっけ?そしてその疑問を払拭する圧倒的な旨味。とにかく甘く迫力がある。ぐわーーーーなんだよくれ超うめーじゃん。
「次は卵かけゴハンで!」と出されたのがコチラ。ああ、魚卵ね、大将洒落っ気あるねと一口含むと
本当に卵も流し込まれていました。こういう発想の豊かさと思い切りの良さはさすがです。怖いもの知らずで無鉄砲で、だからオレに可能性があるんだよ、そう語りかけてくれるTKG。
こ、これは、、、我らがおにまるのハウス日本酒。あまりに馴染みがありすぎて、公正不偏の態度をもって評価することができません。私だけが感じる謎の安心感。
大分の赤貝。迫力のあるにぎりです。一方で、見栄えほどの豪気な味わいは感じられず。ちょっとお腹が膨れてきたのも影響しているかもしれません。
千葉のエビ。これ私アガります。30センチ離れていても感じる海苔の香り。10センチまで近づくとエビ特有のセクシーな香り。シャリはほんの少しだけで。エビと海苔の歯ごたえをザクザクバリバリ楽しむ最高の手巻きでした。
甘味と旨味がたっぷり。色々と濃厚でマッチョな一杯。それにしても私、良く飲みますねえ。自分で写真を見返して、今、ひいてます。
カワハギ。こちらも程よい熟成が見事です。肝の脂の香りを鼻腔にひきつけつつ、ひとくちで含むとコクが身体中に広がります。柔らかく、優しい。
対馬のアナゴ。ホクホクとほぐれる旨さ。ツメは上品で身の透明感を邪魔することなく、これが鮨だと言わんばかりの完成された1貫です。
お椀は意外と標準的。特に印象に残っていません。
カンピョウ旨し。穏やかな甘さが海苔の香りと米の旨味をひきたてます。1日中寝てて起きた時のじんわりとした多幸感に近い。カンピョウ巻きって充分にごちそうなんだなあとシミジミします。
ギョクは完全にスイーツ。たっぷりと甘く、卵黄の風味が舌の上下にまとわりつく。私は大好きで何個でもイケますが、好みは別れるかもしれません。
モダンな日本酒もご用意。口当たりがスムーズで、甘味と酸味のバランスが素晴らしく、暴飲暴食を重ねた後においても軽快に飲み進めることができました。

ここからはコース外、追加で注文です。もう暫く来ることができないと思うと満腹でも詰め込もうとしてしまう謎の脅迫観念。
このわた。ぬわーーっっ!!(パパス)お父さんまたお酒飲んじゃうぞ。ふりだしに戻る。文句ナシに美味しいですが、手巻きではなく前半にツマミとして出してもらうのも、酒飲みにとっては良いかもしれません。
サバ。サバを手巻きで食べるのは初めてかもしれません。そして先ほどの刺身の時よりも印象が全く異なり、サバの脂、大葉の爽やかさ、海苔の磯の香りが渾然一体となって素晴らしい手巻きでした。シャリは少なめという贅沢感もたまらない。
イクラ。間違いなく美味しいのですが、これまでの数々のスター選手と比べると後塵を拝するかもしれません。料理人って大変だなあ、良いものを出しても出してもキリがない。
〆にカラスミ。ダメ押しです。この一口で我々の機能は完全に無力化されました。見事にらぶぽよな仕込み。このカラスミをフォークとナイフで丸々1本食べることを人生の目標とすることにします。

ぐはー、良く食べ良く飲みました。特殊なルートを確保しているのか、普通の鮨屋では手に入れることができないネタをたっぷり揃えているのはマニア心をくすぐります。

食事の量はかなり多いので、小食な方は事前にお伝えしておいたほうが良いかもしれません。また、酒と合わせてこそのツマミやにぎりが大多数を占めるので、酒飲みと下戸では評価が大きく変わる可能性のあるお店です。

1年先まで予約で埋まっているだなんて一体どんな店だろうと緊張してお邪魔しましたが、思いのほかカジュアルなお店でした。その雰囲気の良さは大将を始めとしたお店の方々の朗らかな人柄によるところが大きいでしょう。気楽でワイワイ楽しめるので、鮨の世界の入門編としてすごく良いお店です。30代の男8人で泥酔ナイトを目指すとか超楽しそう。

一方で、消費者側はもう少し冷静になる必要があるとも思います。仕入れも技術もレベルが高く、価格は極めてリーズナブルという存在は驚異的ではあるのですが、神格化されて1年先まで予約が取れないのはちょっとなあ。

うっかりムキになって予約したくなりそうな狂想曲。デビュー直後にオリコン1位を取って紅白にまでスピード出場してしまう欅坂46のようなお店でした。

※この後、ミシュラン東京2017年版で、2ツ星を獲得とのニュース。オープン5ヶ月での快挙です。

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鮨は大好きなのですが、そんなに詳しくないです。居合い抜きのような真剣勝負のお店よりも、気楽でダラダラだべりながら酒を飲むようなお店を好みます。
この本は素晴らしいです。築地で働く方が著者であり、読んでるうちに寿司を食べたくなる魔力があります。鮮魚の旬や時々刻々と漁場が変わる産地についても地図入りでわかりやすい。Kindleとしてタブレットに忍ばせて鮨屋に行くのもいいですね。


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