鮨 猪股(いのまた)/川口

食べログでは4.44の埼玉県1位(2020年3月)、シルバーメダルも獲得している川口「鮨 猪股(いのまた)」。カウンター8席のみの2回転制です。
川口駅から徒歩10分強の住宅街に位置します。「え~?川口ぃ~?」という声が聞こえてきそうですが、埼京線に乗ってしまえば割とすぐに着きます(写真は食べログ公式ページより)。予約時間の5分ほど前に到着したのですが、女将さんが外に出てゲストを迎えてくれていました。寒いからそこまでせんでええのに。
大将は若く恰幅の良い求道者といった風情であり、ゆったりとした所作で丁寧かつ堂々としているのが印象的。ワークスペースや仕事道具などにも清潔が行き届いており、きれい好きなクマさんのようにも見える。
ビールは中ビンが900円、日本酒はグラス(5勺ぐらい?)で1,000円前後とこの手の鮨屋としては良心的なほうでしょう。
最初にこの日のマグロをプレゼンテーション。写真は全面的にOKであり、ゲストの全員がアイドルの撮影会よろしくパシャパシャとシャッターを押し続けます。
1番バッターはヒラメ。相当に分厚く大きいカットに驚愕。熟成が進みネトネトとした食感が印象的でした。
ガリはダイスカットで噛み応えを楽しめます。甘味は控えめであり酸味や辛味が支配的。私の好きなタイプです。
クエ。クエって高級な割に大して美味しくないじゃん、ということが多いですが、このクエについては絶品。ネチネチとした食感と凝縮された旨味が最高です。
小柱。こんなふうにして食べるのは初めて。シャキシャキとした食感が面白いのですが、貝独特の生臭い風味が残るのが残念。
青森からのウニ。女の子の舌ほどのサイズの特大ウニが2枚乗っかり物凄まじい迫力です。口溶けから甘味のオーバーシュートへのプロセスが美味そのもの。
キンメダイ。艶々と美しく厚切りスライスで食べ応え抜群。
サワラについては、これがサワラかと驚くほど主張の強い味わい。
ボタンエビ。反則級のサイズ感であり、その甘さと旨味も反則級。口に運んでから嚥下するまで1分以上を要しました。
マカジキ。たっぷりと熟成をかけており、ブラインドで食べればマカジキとは答えられない味わいです。
越前ガニ。まさに冬の味覚の王者とも言うべき味わいであり、世のカニ料理屋は全てこのにぎりを見習うべき完成度です。
サヨリ。普段は目立たないタネではありますが、当店のそれは特大サイズの特厚スライス。加えてネギのペースト(?)のようなものを忍ばせており、欧米系の料理のような味わいです。
炙ったばかりの太刀魚をその場でスライス。立ち上る香りとほんのりとした温度、大人の塩気が堪りません。
冒頭の赤身がヅケとして登場。品の良い酸味が舌の上にいつまでも残ります。
シメサバは、げにやんごとなき締め方であり、ほぼプレーンだがしかしシメサバという絶妙なバランス感覚の持ち主です。
閖上(ゆりあげ、地名)の赤貝。貝類の王様ともいうべき迫力のある味わい。「安い赤貝だと1個100円とかで仕入れられるんですけど、これは1,000円を超えちゃうんですよねぇ」と、屈託なく原価情報を公開する裏表のない店主。
子持ちヤリイカに様々な素材とシャリを詰め込み、木の芽をトッピング。まず、食感がいい。少しもグダつくことなくプツプツと噛み応えを保っており、その後にイカの旨味が雪崩のように飛び込んできます。
中トロのヅケ。トロと言えばとかく脂身とその甘味が注目されがちですが、不思議と酸味の声が大きい象徴的な味わい。
大トロのヅケ。ここにきてようやく脂の甘味と酸味のバランスが中和してきました。マグロひとつとっても色々あるんやな。
コハダ。品の良い塩と酢の活用法。しっとりと安定感のある美味しさです。
ジューシーでホクホクとしたアナゴ。特殊なことは何もしていない(ような気がする)のですが、どうしてこんなに美味しいのだろう。
マグロの残った部位をザクザクと切り、マグロオールスターズとして巻き付けます。実にパワー系な手巻きであり、これを美味しくないという輩は北朝鮮であれば射殺されることでしょう。
ギョクは芝海老が入っており、海老の香りと程よい甘味を楽しむデザートを兼ねた逸品。
うおー!鮨くったぁあああ!と満足感しか残らないひと時でした。タネは大きく厚く、赤酢のシャリも味が強く、まことにパワー系の鮨屋です。ここのところツマミ主体の鮨屋がほとんどでしたが、銀座「はっこく」十番「すし家 祥太」のように、にぎりのみで勝負する店がポツポツと出始めて来たのは嬉しい限り。そのラスボスに位置するのが当店であり、これは人類にとって希望である。

なんやかんやで4万円近くを要しますが(しかも現金のみ)、その価値は充分にあり。そんなに無茶苦茶予約困難というわけではないので、本物の食欲を持った友達と共にどうぞ。


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鮨は大好きなのですが、そんなに詳しくないです。居合い抜きのような真剣勝負のお店よりも、気楽でダラダラだべりながら酒を飲むようなお店を好みます。
この本は素晴らしいです。築地で働く方が著者であり、読んでるうちに寿司を食べたくなる魔力があります。鮮魚の旬や時々刻々と漁場が変わる産地についても地図入りでわかりやすい。Kindleとしてタブレットに忍ばせて鮨屋に行くのもいいですね。

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