naoto.K(ナオトケイ)/神田錦町

ミシュランの常連、岸本直人シェフが広尾「ランベリー(L'Embellir)」を一旦閉め、神田錦町へと移転。ラグジュアリーブランドもかくやというファサードであり、六本木のメルセデスっぽくもある。つまり、のけぞるほどカッコイイお店です。

ちなみに「アサヒナガストロノーム(ASAHINA Gastronome)」や「Reglisse (レグリス)」を営む「スーリール・ド・シュシュ」の経営であり、いずれも私の大好きなレストランなので、大船に乗ったつもりでお邪魔します。
岸本直人シェフと言えばバリバリのグランメゾンの印象でしたが、「今まで華やかな、青山・広尾の地で私が考える日本のフランス料理を突き詰めてきましたが、時代の移り変わり共に、これまでのスタイルに違和感を感じておりました。もっとできたて感を、もっと、世界に誇れる日本の食材や匠を伝えたいと、今回、カウンターでの仕事を選びました」とのことで、ディナー1回転一斉スタート8席のみという今風に業態変更。料理人たちが気を吐く姿を間近で観戦することができ臨場感抜群です。
ペアリングもあるとのことでしたが我々はボトルで注文。ワインリストはシャンパーニュとブルゴーニュがほとんどであり、そのためどうしても高価格なものが多くなってしまいます。こちらはnaoto.Kオリジナル(PB?)のブランドブランであり、エチケットを店の外観と揃えています。店のアイコンがあるのは良いことだ。
スフレはゲストの到着に合わせて完璧なタイミングに焼き上げます。手を伸ばせば届きそうな距離でプクーと焼き上がっていく様がバリ楽しい。シャンパーニュにキャビア、ブリニ(小さなパンケーキ)は究極のアミューズですが、なるほど焼きたてのジャガイモのスフレというのも乙な味です。
気仙沼の戻りガツオの炙り。まさに目の前で藁焼きが進捗しており、香ばしい香りが鼻腔をくすぐります。加えて炙って終わりというわけでなく、多種多様な野菜を千切りにして彩りの良い付け合わせとするセンスの良さ。厚切りのムシャムシャとした食感も豪快。
アワビをトンカツ風に揚げる。これはもう、どうやったってあげぽよですね。肝のソースには山椒のアクセントもきいており、スパチュラが欲しくなる美味しさです。
スペシャリテの「フォアグラ・トリロジー」。フォアグラの付け合わせがフォアグラという野風俗な料理ですが、カリっとポワレされた部分とネットリ滑らかなテリーヌの部分の対比が心地よく、いつ果てるとも知れぬ快楽に身を委ねます。
天理の葛そうめん。葛のツルツルとした喉越しとコシのある歯ごたえが妙味であり、さりげなく旨味の強いスッポンとオリーブオイルのスープに良く合います。
活けオマール海老。生の状態で供され、手元のアツアツのブイヤベースでセルフで熱を入れるという試み。ほとんど生で食べても美味しいし、しっかりと熱を通して違った食感を楽しむのも良いでしょう。ブイヤベースも完璧な仕上がりであり、やはり面白い料理というのはきちんと美味しい土台にあってこそなのだ。
奄美大島のスジアラ。皮はパリっと身はムッチリ。ソースは王道中の王道とも言うべきブールブラン(バターソース)。アクセントのカボスの風味も心地よく、お魚料理として相当にレベルの高い逸品です。
パンも自家製で焼きたて。シンプルな仕様ですが、先のコッテリとしたソース・ブールブランに浸して、もうこれだけで立派なお料理です。
牛タン。いわゆる洋食屋の牛タンシチュー的なベクトルの料理であり、どっしりとした肉の旨味とそれに負けない赤ワインのソースがベストマッチ。キノコのソースの野性的な甘味にもコクがあり、メインディッシュ前の小さなひと品にしてこのクオリティとは感服します。
メインは都萬牛(とまんぎゅう)のランプ肉。宮崎県が誇るブランド牛であり、黒毛和牛でありながら赤身主体という面白い試みです。ゲスト8人に対してシェフが付きっ切りで調理するので火入れはもちろんパーフェクト。霜降りは控えめで、赤身の旨味とミネラルを強く感じます。
半分食べ進んだ際にドボンとソースベアルネーズをぶち込みます。フランス料理の魂とも言うべき味わいであり絶品。ここのところ何でもかんでも素材素材と言い唐突に生産者に感謝し始める素材原理主義者が増えてきましたが、畢竟、フランス料理とはソースなのである。
〆の炭水化物はシンプルなリゾットに琵琶湖の天然の鰻。むきむきマッチョで厚みのある鰻を、やはりシェフが過保護とも言うべき姿勢で炭火に付きっ切りで向き合います。心から美味しい。こんなに美味しい鰻を食べたのは大津の「う晴」以来である。
お口直しにも手が込んでいて、なんと青唐辛子と青柚子が起用されています。爽やかな柑橘の香りにピリリと感じる唐辛子の辛味。どこか東南アジア的なニュアンスを感じる興味深い氷菓でした。
佐渡ヶ島の黒イチヂク。何て美味しいイチヂクなのでしょう。こんなにも凝縮感があって贅沢な余韻を残すイチヂクは初めてです。ついさっき言ったことと大きく矛盾しますが、やはり料理は素材を超える事は出来ないのか。それほど強烈に印象に残った濃密な果実でした。
大トリを飾るのは、バナナとパッションフルーツのアントルメ。ホールケーキを8人のゲストで分け合うのですが、たまたま小食の方が多かったため、残り全てを私が引き受けるという幸せな状況です。バナナよりもバナナの味が濃い生菓子にパッションフルーツの鮮やかな酸味。いくら食べても食べ飽きるということがありません。カリっとしたベースの部分も心地よいアクセント。平気の平左で食べきりました。
そうそう、お茶はたっぷりのミントを用いたハーブティーなのですが、ケーキではなく飲料にミントの風味を持ってくるのもいいですね。爽やかオブ爽やかでごちそうさまでした。

お会計はひとり5万円。金額だけだと高く見えますが、チーム・ランベリーをたった8人のゲスト専属とし、最上の食材をシェフ付きっ切りの調理でたっぷりと楽しむことができることを考えれば妥当な価格設定でしょう。「銀座 大石」「ア・ニュ Shohei Shimono」の食後感に近く、いずれも私の大好きなレストランであることから、つまるところ、こういったスタイルのフランス料理店が私はとても好きなのかもしれません。

近い将来、当店は必ず超予約困難になります。かけてもいい。記念日とか接待とか女口説く店とかではなく、仲の良い友人と楽しくワイワイ訪れましょう。オススメです。

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