護国寺駅と江戸川橋駅の間、音羽通り沿いにひっそりと佇む小さなレストラン「Ciotat(シオタ)」。看板は目立ちませんが、日本料理店のような暖簾(?)の旨そうな雰囲気が目印です。
カウンター6-7席のみのワンオペ店。塩田シェフ、ではなく、店名はシェフが修業時代に訪れた南仏プロヴァンス地方の港町に由来するそうです。廣田駿シェフはフランスの名店いくつかで経験を積み、帰国後は銀座「ベージュ」やマンダリンの「シグネチャー」、新宿伊勢丹「ル サロン ジャック・ボリー」などを経たのち、当店を開業。
ワインは全てシェフにお任せしました。フランス産を中心に手頃なワインを上手く使っており、料理と併せて最終支払金額は実に良心的。シェフはゆるふわな雰囲気で、お金儲けはさておき皆おなかいっぱいになって帰ってね、という朗らかなスタンス。「La couleur d'ete(ラ クルール デテ)」や「ドゥエ リーニュ プリュス (Due ligne +)」を想起させる価値観です。
最初にサラダ。アーティチョークのほろ苦さと柔らかな食感、ラディッキオのシャキッとした苦味が絶妙に調和します。チーズの濃厚な旨味と塩気が奥行きを加え、軽やかな酸味のドレッシングが全体を爽やかにまとめ上げます。
焼き立てのチャパタは外側カリッと香ばしく、内側はもちっとした食感。生ハムの塩気と濃厚な旨味が、温かなパンと溶け合い、口の中で深いコクを生みます。オリーブのほのかな苦味が巧妙なアクセント。なんとも贅沢なパンです。
ガスパチョ。アシアカエビの甘みと旨味をトマトの酸味・果実感と共に楽しみます。写真からは見え辛いですが、マダコがゴロゴロと組み込まれており、その弾力ある食感とほのかな磯の香りが堪らない。初夏に相応しい逸品です。
店中に燻製の良い香りが満ち、絶頂を迎えたころに登場するスコットランド産のサーモン。半生のしっとり感と脂の甘みがスモーキーな香りと融合します。たっぷりのハーブが清涼感を添え、また、イクラのプチっとした食感と塩気がアクセントとなり、サーモンの旨味を一層引き立てます。
焼き立てのパンにはトマトがたっぷりと組み込まれています。このパンは美味しいですねえ。ジューシーなトマトの甘酸っぱさが詰まっており、シンプルながら素材の力強さと温もりが調和した心満たされる味わいです。
メインはブルターニュ産の仔牛。程よく柔らかくジューシーで、繊細な甘みを楽しむ逸品。付け合わせもたっぷりで、アスパラソバージュの元気一杯の青い味、ホワイトアスパラガスのまろやかな甘み、黄インゲンのシャキッとした食感が肉料理全体に彩りを添えます。
デザートはバスクチーズケーキ。表面の香ばしい焦げ目からキャラメルのようなほろ苦さが広がり、内部はとろけるような濃厚なクリームチーズのコクが際立ちます。滑らかで重厚な口当たり。そのへんの流行ものとは一線を画す味覚です。
続いてババオラム。成人男子のゲンコツほどのサイズ感であり、これは果たして食べ切れるのか、と全客席に戦慄が走る。しかしながら見た目以上に全く軽い口当たりであり、ラム酒の芳醇な香りとシロップの甘みが染み込み、噛むほどにリッチな風味が広がります。たっぷりのバニラクリームも濃厚で滑らか。
ハーブティーでフィニッシュ。ごちそうさまでした。以上を食べ、ワインをグラスでグイグイ飲んでお会計はひとりあたり2.3万円。普通の飲酒量であれば恐らく2万円程度に着地する見込みであり、一体、見事な費用対効果です。
お金の話はさておき、料理も素晴らしいですね。正真正銘の本物。いま何を食べているかがハッキリとわかるスタイルであり、原型を留めず泡とタレばっかり食べさせるマーケティング料理とは段違いの完成度。これが、料理だ。

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「好きな料理のジャンルは?」と問われると、すぐさまフレンチと答えます。フレンチにも色々ありますが、私の好きな方向性は下記の通り。あなたがこれらの店が好きであれば、当ブログはあなたの店探しの一助となるでしょう。
- オトワ レストラン(Otowa restaurant) ←本気でフランスの料理文化に取り組んでいる。
- ガストロノミー ジョエル・ロブション (Joel Robuchon) ←やはり完璧。
- La couleur d'ete(ラ クルール デテ) ←選んだ孤独は良い孤独。
- アピシウス ←東京最高峰のレストラン。
- ナリサワ ←何度訪れても完璧。
- elan(エラン) ←表参道のナポレオン。
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- ル・マンジュ・トゥー ←接客は完璧。料理は美味そのもの。皿出しのテンポも良く、とにかく居心地の良いお店。客層も好き。
- エルヴェ(eleve) ←アラカルトでもコースでも自由自在。
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- エステール(ESTERRE) ←料理もサービスもパーフェクト。外せない食事ならココ。