「茶懐石」と「江戸前鮨」を融合させた興味深いコンセプトの「茶懐石鮨(ちゃかいせきずし)」。白金台駅から歩いて15分ほど。プラチナ通り(外苑西通り)から一歩入った裏路地に位置します 。お店の入り口には、茶室の「にじり口」を模した低い扉が設けられており雰囲気抜群です。
店内はカウンター5席のみで、1組ずつの完全貸切でしょうか。入ってすぐに茶釜が置かれているのが印象的で、茶室特有の凛とした空気が流れています(写真は一休公式ページより)。
ビールは新潟の名酒・八海山の醸造所が手掛ける「ライディーンビール ヴァイツェン」。小麦麦芽を用いており、バナナを思わせるフルーティーで華やかな香りが立ち上がります。ドリンクメニューは無く値段は全て不明ですが、最終支払金額から逆算するに、日本酒は1合千円かそこらのような気がします。立地を考えれば良心的な価格設定です。店名通り「茶懐石」をベースにしたスタイルで、最初にお盆にお造り・鉄火巻き・味噌汁の一汁三菜が並べられます。お造りは白身の王様のハタ。熟成によって引き出された濃厚な旨味と、噛み締めるほどに広がる上品な甘みが特長的。
鉄火巻き。やや硬めに炊き上げられたシャリが、マグロの鉄分を含んだ濃厚な風味を際立たせます。一般的な「締めの巻き物」とは異なり、一汁三菜の「飯」として提供するのが面白い。
お味噌汁はとろりとした濃度のある白味噌仕立て。麹の自然な甘みが強く塩気は控えめで、心まで解きほぐされるような優しい味わい。出汁もしっかりきいており、味噌のコクを支える力強い旨味が底に流れています。
白魚と青海苔のしんじょう。春の訪れを告げる白魚を贅沢に用い、ふんわりと蒸し上げています。箸を入れると青海苔の磯の香りが湯気と共に立ち上がり、白魚のほろ苦さと甘みが重なります。
バイ貝と長芋の炊き合わせ。バイ貝は噛むほどに旨味が増すので慌てて日本酒を注文しました。貝のエキスとお出しを吸った長芋も深みを感じさせる味わいです。
サワラの西京焼き。春の使者を西京味噌でじっくりと漬け込み、炭火で香ばしく焼き上げています。脂の乗ったサワラの身は驚くほどふっくらと柔らかく、味噌の芳醇な香りと塩味が中心部まで染み渡っています。これも日本酒が進むなあ。
酒のつまみに芽キャベツ、ホタテ、菜の花、ホタルイカ酢味噌和え。春を象徴する食材たちがひと皿に集結し、彩り豊かな季節のパレットのようです。とりわけホタルイカが良いですね。濃厚な内臓の旨味と酢味噌が酒を呼び寄せます。
にぎりに入ります。こちらは金目鯛。身は厚みがあり、とろけるような甘みとシャリが完璧に調和。高級感あふれる脂の質を楽しめます。
赤貝。身が締まっており、独特の磯の香りも立っています。コリコリとした鮮烈な食感の後に、赤貝ならではの甘みと旨味が爽やかに広がります。
アジ。生姜がアジの脂を爽やかに中和しており、また、青魚特有の旨味がシャリによって上手く引き出されます。
時間をかけて丁寧に蒸し上げられたアワビは実に柔らか。噛むごとにアワビの濃縮された旨味と磯の香りが口を満たし、贅沢の極みとも言える食感と余韻を堪能できます。
車海老はプリッとした力強い弾力と華やかな甘味が印象的。包丁で2つに分ける必要があるほどビッグサイズなのも嬉しい。
本マグロは赤身とトロの2種。赤身はマグロ本来の酸味と香りが濃く、一方のトロは体温で溶ける脂の余韻が堪りません。
ウニとイクラは軍艦巻きで。こぼれんばかりの山盛りという視覚的な驚きに負けない濃厚さが感じられ、ウニのクリーミーな甘みとイクラの弾ける塩気が絶妙に重なります。
穴子。ごくごく柔らかく仕上げており、口に入れた瞬間にホロリと崩れます。甘さを抑えたツメが穴子の旨味を際立たせ、飲み込んだ後も香ばしい余韻が続きます。
玉子焼きには海老のすり身を贅沢に用いており、上質で濃密なカステラを楽しんでいるかのよう。卵の優しさと海老の旨味が詰まった、コースを締めくくるデザートのようなひと品です。
甘味にうぐいす餅。もっちりと柔らかい求肥の中に丁寧に練り上げられた餡が詰まっており、素朴ながらも洗練された甘みが、お鮨の後の口内を優しく整えます。
お抹茶を楽しんでフィニッシュ。ごちそうさまでした。「茶懐石」と「江戸前鮨」が綺麗に融合したコースでした。決して企画モノではなく、それぞれの美点が互いを引き立て合っており、記憶に残る食体験。以上を食べて飲んで1.5万円程度という価格設定も魅力的でありつつ、上質な空間と店主の穏やかな客あしらいも魅力的。大切な人をお連れしてゆったりとした時間を楽しむに最適なお店。オススメです。
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鮨は大好きなのですが、そんなに詳しくないです。居合い抜きのような真剣勝負のお店よりも、気楽でダラダラだべりながら酒を飲むようなお店を好みます。
- すし匠/ワイキキ ←このお店の真価が問われるのは数十年後のはず。
- 鮨m(すしえむ) ←東京という街が必要とする鮨屋。
- 照寿司(てるずし)/北九州 ←世界で最も有名な鮨職人。
- すし宮川/円山公園(札幌) ←人生でトップクラスに旨い鮨。
- 鮨さいとう/六本木一丁目 ←価格設定に色々と考えさせられる。
- 鮨 在(ざい)/広尾 ←これこれ、鮨とはこれですよ。
- 東麻布天本/赤羽橋 ←欅坂46のような鮨。
- 初音鮨(はつねすし)/蒲田 ←西の照寿司、東の初音鮨。
- 鮨 猪股(いのまた)/川口 ←にぎりのみの男前鮨を喰らえっ!
- 鮨舳/瓦町(高松) ←真っ当な江戸前。銀座の半額で何度でも通いたい。
- くるますし/松山 ←松山への旅行が決まればいの一番に予約したいお店。
- 天寿し/小倉 ←何度でも行きたいし、誰にでもオススメできるお店。
- 鮨 一幸(いっこう)/すすきの ←真摯に鮨に取り組む好青年。
- 鮨処木はら(すしどころきはら)/函館 ←鮨屋の答えは函館にあったのです。
- 鮨 十兵衛/福井市 ←福井への旅行が決まれば最初に予約したいお店。
- 鮨 大門/魚津(富山) ←東京の鮨はもうオワコン。
- 小松弥助/金沢(石川) ←「まごころでにぎる」を体現する鮨屋。
- 乙女寿司(おとめずし)/片町(金沢) ←私的北陸一番鮨。
すしのにぎりについての技術を網羅した決定版的な書籍。恐らくはプロ向けの参考本であり資料性の高い便覧でしょうが、素人が読んでこそ面白い傑作。写真がとても美しく、眺めているだけでお腹が空いてきます。




















