鮨m(すしえむ)/表参道

青山は根津美術館すぐ近くの「鮨m(すしえむ)」。「NARISAWA(ナリサワ)」で長くヘッドソムリエを務めていたムッシュ木村好伸が鮨とのマリアージュを目指して開業。「m」はもちろんマリアージュの「m」です。
カウンター12席のみの店内。黒を基調としたシックな内装であり、最前線のフレンチレストランのような印象を受けました。照明はグっと絞ってありますがエロすぎることは決してなく、スタイリッシュなデートに最適でしょう。
飲み物はソムリエに全てお任せ。私は基本的に鮨とワインの組み合わせについては懐疑的(そして無駄に割高)なのですが、私は「NARISAWA(ナリサワ)」時代から木村好伸ソムリエの提案に全幅の信頼を置いており、当店のおいても流石、あらまほしきマリアージュでした。然るに下戸や昼ににぎりだけ食べに来る族とは食後感が大きく異なるかもしれません
まずはホタテに毛ガニ、お出汁のジュレ。これはもう、どうやったって美味しい組み合わせですね。当店はツマミ(?)をフレンチの料理人が作っており、もちろん和のテイストに寄せているもののワインがビンビンに合うよう設計されているのが印象的です。
スミイカ。クリアな甘味ながら舌先に絡みつくネットリ感。するすると鮨の世界に心を引き戻してくれる逸品です。
サンマが美味しいですねえ。身の旨味と脂のバランス、大人の苦みの引っ張り感など素晴らしいにぎりでした。
オオモンハタ。厚めながらシュッっとしたカットであり、ムシャムシャとした食べ応え。
名残の鮎。木の芽の風味を筆頭に和のテイストを感じつつも、どこか洋風の風情もある興味深い料理です。
燻製の煙で満たされたガラスドームを取り払うと、甘海老とキャビアがドッサリ。甘く官能的な味わいの甘海老にキャビアの塩気が良く合います。スモーキーな風味も食欲を促します。
バっと炙ったホタテをにぎりで。ギュギュっと旨味が凝縮されており、冒頭のホタテとはまた違った美味しさです。
イクラの小丼。新物の生一本であり、刺々しい塩気は一切なく、ピュアッピュアな心地よさを楽しむことができました。
鰻のかば焼き(?)にフォアグラ。おー、これはもう完全にフランス料理ですねえ。ロッシーニもかくやという王道のフォアグラの起用法であり、収束でなく拡散。
マグロ。赤いダイヤモンドとも言うべき清澄な味わいであり、程よい酸がワインともしっくりきます。
トロの部分は外観のグラデーションが美しく、口に含んでも舌に当たるようなところが全くありません。鮨に赤ワインなど言語道断と考える人は多いですが、先の鰻フォアグラからスムーズにその世界に浸ることができました。
キンメはやはりフランス料理のニュアンスが感じられます。それでも魔改造ということは決してなく、ブラインドで食べればすんなりと鮨屋のツマミと感じられるでしょう。鮨に寄り添う自然体の料理です。
ノドグロ。バリっと炙って海苔をぐるり。一転して無頓着な美味しさであり、投げっぱなしジャーマンを喰らったような爽快感がありました。
ウニ。色々出てきますが、やはりツボを押さえた美味しさであり、小ぶりながらもウニ食べた感の強いひと品でした。
お椀は魚介のスープ。和風スープドポワソンというべきか、洋風味噌汁というべきか、いずれにせよ魚介の旨味がたっぷり詰まった傑作であり、何リットルでも飲みたいくらいです。
巻物はとろたくなのですが、「たく」にはいぶりがっこを用いており、海苔の磯の香りもの奥から仄かにかおる薫香が心地よい。
玉子は肌理が細かく口当たりが良い。キチっと鮨屋としてのフィニッシュに持っていくのがいいですね。
デザートは出来立てのアイス。ゲストのデザートタイムにちょうど完成するように設計されており、滑らかで激ウマい。カンテサンスのアレに迫る注目の味覚です。こりゃあなんぼでも食べれますわ。おかわりしたいくらいです。
2.2万円の「鮨mおまかせディナーコース」に1.1万円の「鮨mペアリングメニュー(Standard)」を楽しみ、合計ひとりあたり3.3万円。おおー、これは尊い費用対効果ですねえ。このクオリティの鮨と料理、ワインを楽しんでこの支払金額は割安です。

何より世界観が魅力的ですね。「乃木坂しん」の日本料理×ワインや広尾「鮨 在(ざい)」の鮨×ワインとはまた違う、鮨×フランス料理×ワインというUSPが面白い。しかもそれが決して企画倒れすることなく、鮨職人とフランス料理人とソムリエの分業が滑らかに組み合わさっています。

最近の名の知れた鮨屋はどこも一斉スタート2回転で給食のようであり私のロマンチシズムに反するのですが、当店はどのゲストもめいめいの時間に来店しており、皆かなり長い時間飲み食いしているのに少しも待たされた感じがしませんでした。アーバンなデートにぴったりや。

もちろん王道中の王道とは異なるスタイルなので、鮨ヲタクラスタが眉をひそめる存在かもしれませんが、食に対してリベラルなスタンスの方にはどハマりすることでしょう。東京という街が必要とする鮨屋です。オススメ!

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鮨は大好きなのですが、そんなに詳しくないです。居合い抜きのような真剣勝負のお店よりも、気楽でダラダラだべりながら酒を飲むようなお店を好みます。
この本は素晴らしいです。築地で働く方が著者であり、読んでるうちに寿司を食べたくなる魔力があります。鮮魚の旬や時々刻々と漁場が変わる産地についても地図入りでわかりやすい。Kindleとしてタブレットに忍ばせて鮨屋に行くのもいいですね。