歴史的文教地区である本郷の閑静な住宅街の中にある「クリマ ディ トスカーナ(Clima di Toscana )」。店名の通りトスカーナ地方の風土(Clima)を意識した料理に特化したイタリアンレストランです。店舗前にそびえる樹齢600〜700年とも言われる巨大なクスノキが目印です。
キャパシティは30席ほど。メインダイニングのほかに個室もあり会食にも重宝しそうです。ゲストには政財界の重鎮を思わせる風格ある男性が多く、港区で見かけるような反社風の影は皆無。まさに本郷という地に根ざした空気感があります。
そんな空間で腕を振るう佐藤真一シェフは、国内の有名店のみならず、本場イタリアで5年半もの月日を費やした実力派。その経歴が料理の説得力を裏付けています。
ワインはイタリア産のものが支配的であり悪くない価格設定です。2021年より同店に加わった坪井徹郎ソムリエは「アルポルト」や「アクアパッツァ」といった名店でキャリアを確立した人物であり、当店の空気感に風格を与えています。
まずは温かいスープ。ひよこ豆のホクホクとした食感と、うずら豆のクリーミーでコクのある甘みが溶け合い、口当たりは実に滑らか。アクセントとして加わるのが房総産イノシシのサルシッチャであり、ジビエ特有の力強い肉の旨味と脂が食欲を刺激します。
壱岐産のヒラメ。弾力のある歯ごたえと噛むほどに広がる上品な甘みが心地よく、その土台として支える八街産の寒締めほうれん草の厚みのある質感が力強い。柑橘のほろ苦い酸味も重なり、全体に大きな深みを与えています。
パンは2種でフォカッチャとチャバッタでしょうか。前者は上質なオリーブオイルと岩塩が振られ、カリッとした芳ばしさと適度な塩気が食欲をそそります。後者はりシンプルで素朴な味わい、スープはソースの残りを拭って食べるに最適な名脇役です。
イカの美点を余すことなく表現したひと皿。イカそのものは厚みがありネットリとした甘みが印象的。そこに寄り添う漆黒の物体はトウモロコシ粉から作られるポレンタで、イカスミの磯の香りが凝縮されており、深い潮の風味が広がります。
タリアテッレは白子とタラコ、九条ネギで楽しみます。熱を通すことでとろりと溢れ出した白子の濃厚なコクが幅広の手打ちパスタに絡みつき、そこにタラコの粒感のあるテクスチャーと程よい塩気が加わり味わいにリズムと深みを与えています。
続いてトスカーナの伝統的な詰め物パスタ「カペレッティ」。中には青森産の野ウサギが詰まっており、力強くも繊細な野性味が後を引く美味しさ。仕上げに散らされたイタリア産ビアンケットトリュフ(春トリュフ)がこの料理の格式を惹きあげます。
メインは京鴨。きめ細やかな肉質と上品な脂の甘みが特長的で、程よい火入れによって引き出された赤身の濃密な旨味が噛むほどに口の中で溢れ出します。その力強い肉の味わいをさらに深めるのが、キノコの女王とも呼ばれる雲南省産モリーユ(アミガサタケ)。特有の芳醇な土の香りと、ソースをたっぷりと抱き込む独特の食感が、鴨の滋味と見事に共鳴します。
デザートはプリンとジェラート。プリンはカカオの深みのある香りとブドウの凝縮した甘みが溶け合っており、また、ジェラートからはフキノトウの青々しい香りと繊細な苦味が感じられ、プリンの濃厚な甘みを清々しく洗い流します。何とも大人な味わいの締めくくりです。
食後のお茶は色々選べて、乙女な私はフレッシュハーブティーをチョイス。小菓子と共に上質な時間を楽しんでごちそうさまでした。
以上のコースが1.7万円ほどで、酒やら何やら含めてお会計はひとりあたり3万円弱といったところ。軒先のクスノキに始まり、空間や客層を含めて実に重厚な食体験であり、店を出た後も心地よい重みが体に残っていることに気づかされます。流行を追うことに疲れた大人たちが最後に行き着くのは、案外このような場所なのかもしれません。
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イタリア20州の地方料理を、その背景と共に解説したマニアックな本。日本におけるイタリア風料理本とは一線を画す本気度。各州の気候や風土、食文化、伝統料理、特産物にまで言及しているのが素晴らしい。イタリア料理好きであれば一家に一冊、辞書的にどうぞ。











