レヴォ(L'evo、夕食)/利賀村(富山)

2021年最も話題のフランス料理店「レヴォ(L'evo)」。「リバーリトリート雅樂倶」というリゾートホテルのメインダイニング時代にお邪魔した際に私の琴線に触れまくり、このたび独立・移転の運びとなったので、さっそく予約を入れました。
山に溶け込みつつも現代的なスタイリッシュさを残す店内。宿泊は1日3組のみですが、レストランの座席数は思いのほか多く、ビジターでの利用客も結構いるのかもしれません。でも夜に運転して帰るの超怖いなあ。特に冬場は。

谷口英司シェフは大阪府出身。日本やフランスで腕を磨き、2014年に「リバーリトリート雅樂倶」というリゾートホテルのメインダイニングの厨房を預かり、ゴエミヨで最高賞の「今年のシェフ賞」を受賞。そして2020年に「前衛的地方料理の進化」をコンセプトに千メートル級の山々に囲まれた山間地域に自らの理想を形にしたオーベルジュを開業。
ドリンクメニューならびにワインリストを拝見させて頂きましたが完全に西麻布プライス。「リバーリトリート雅樂倶」時代はワインのみのペアリングで9千円ほどでしたが、現在は「富山のお酒だけを」と銘打ってはいるものの、ワインやら日本酒やらカクテルやらのチャンポンで1.3万円+サービス料と実質大幅値上げであり、セレクトは悪くないものの割高に感じました。ふたりで3万円近い酒代であれば、自分でワインリストから選べば良かったなあ。
お馴染みのフィンガーフード。ご覧の通り手が込んでおり味も申し分ないのですが、「リバーリトリート雅樂倶」時代と内容はほぼ同じであり新鮮味がありませんでした。料理人って辛いな、常にもっと上を、もっと新しいものを求められる。
アスパラガスはメッタメタに美味しいですねえ。瑞々しいという表現がぴったりの味わいであり、まるで羽根が生えたかのような軽やかさです。これだけそのままで永遠食べれる。
パンは離れの専用のパン小屋で焼いているだけあって、素朴ながらしみじみと美味しい。噛みしめるほどに味わいが深い。
ツキノワグマのロース肉。おぉ、、、おぉ、、おぉおお、と思わず唸ってしまう眩い味わい。躍動感。クマの肉のポテンシャルを再発見する華やかな美味しさ。2021年上半期トップクラスの肉料理です。
水ダコは薄く切りスモーキーに仕立てました。ビターな香りに凝縮感のあるスモーキーな味わい。噛んでも噛んでも永遠に旨味が滲み出てきます。
ホタルイカも水ダコとベクトルが似通っており、大人の苦みが堪らない。漏れ出たエキスと調味液とのコラボスープも唯一無二の味わいです。
当店お得意の黒エイ。魚介料理であるものの実にコッテリとした味わいであり、極めてフランス料理的な味わい。お酒が進む。
地元の素麺の生めんをササっと湯がいてクリーミーな山菜スープと共に。これはどっちゃくそ旨いですねえ。素麺って、私にとって実家の昼飯で出てきてテンションが下がるメニューの筆頭格なのですが、こんなにコシがあって風味豊かなものもあったんだと気づきをくれた逸品です。
名物の「レヴォ鶏」。養鶏場とタッグを組んだ逸品で、素材の良さが輝く逸品。肉の内部には鶏の様々な部位ならびにライスが詰まっており、米が鶏の肉汁を吸い込んで、日本人であれば誰もが心なごむ瞬間でしょう。
この辺りの特産品である赤カブ。土で包んで丸ごと焼いて切りつけます。なるほど確かに美味しいですが、かなりのポーションであり、このタイミングで食べるには腹が膨れすぎるなという印象。
オコゼは素材のの味を大切にしたシンプルな調理。付け合わせに山菜を多用するのはこの土地ならでは。そういえば結構魚介類が出ますが、車を50キロ走らせれば漁港があるそうで、シェフはそちらに毎日通っているそうな。
熊の内蔵の煮込み。腸などをかなり長めにカットしており、パッパルデッレ(幅広のパスタ)を食べている感覚に近いのですが、よくよく考えれば超グロい。調味も重く、このタイミングで食べるに相応しいメガトン級のひと皿でした。
「よろしければ熟成庫を」と、共犯者を誘い込むように地階へと案内されます。わおー、これは凄い!熊が毛を着たまま逆さ吊りになっておられる!すげえなあ、解体とかも自分らでやってるのか。「命を頂く」とは使い古されたフレーズではありますが、この光景を真正面から捉えると、決して食べ物を粗末にしないようにしようと覚悟を新たにしました。
さて眦を決して臨むメインディッシュはイノシシ。豚肉の濃度を高めたかのように肉の味が濃い。ソースも付け合わせも濃い。量も多い。私は時おり失神した。
デザートはイチゴ。飴菓子をドライに花びらのように折り重ねた、意匠を凝らした逸品。乳の味の濃いモッツァレラチーズと共に、不思議と胃袋におさまります。
あんぽ柿はマスカルポーネと共に。よくよく考えればめちゃんこヘヴィなデザートですが、やはり不思議とスイスイ食べきれました。イノシシの時点ではあれだけ内臓がエグってたのに、ヒトの食欲とは摩訶不思議である。
小菓子も怠りの無い作品であり、深みのあるお茶と共にしっとりとしたフィニッシュです。
支払金額はお料理のコースが2.2万円にアルコールペアリングが1.3万円、サービス料を含めると4万円ほどでした。料理の良さは相変わらずであり、質と量を考えればリーズナブル。ただしアルコールは課題ですね。富山を突き詰めたい気持ちは理解できますが、やはり富山産に限定すると限界があり、その割に結構高くつく。前述の通り富山のビールで乾杯して、その後はセイズファームのボトルでも飲んだほうが消費者としては納得感があるかもしれません。
いずれにせよ、尖りに尖ったローカル・キュイジーヌ。ここまで攻め切る姿勢には脱帽し敬礼せざるを得ない。大変に意義のある試みであり、費用対効果を論じるのは野暮なのかもしれません。とにかく富山の食材や工芸品に拘っているので、富山県へのふるさと納税のつもりでどうぞ。

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