すし初/湯島

「お誕生日おめでとう!」と、今夜の泡は「而今 特別純米 にごりざけ」から始まります。白桃やリンゴのような優しい香り。微炭酸を通り抜けるとお粥のような強い米の味。円やかな甘味と仄かな苦味が絶妙なバランスを奏でます。
栗かぼちゃのシラスソースがけ。ホックリとした食感にシラス由来の大人の旨味が広がります。店主はフレンチなど横文字系の料理も好きなので、こういったちょっとハミ出す感じも上手くやる。
レンコンはブドウのお酢で風味をつけます。大ぶりにカットされたザックリとした食感が心地よい。私は恐らく世界で最もレンコンが好きな人物ベスト100万にランクインするほどのレンコン好きなので、私得の料理でした。
赤米を用いた色のある日本酒。少し氷を入れて味わうと、ブドウのような風味が感じられ先のレンコンに良く合います。
ゲソを大胆に調味してバリっと炙る。なんとも直截な料理であり、日本酒に合わないわけがありません。
「やっぱ日本酒飲むならすし初だよね。キミってあんまり同じお店に行かないけど、すし初だけは何度も何度も繰り返し行ってるもんね」と鈴木友菜似の彼女。その通り。当店の日本酒のラインナップとマリアージュの妙は都内最高峰なのである。
冬というウインターであるため、魚介を少し酒で湯がいていきます。まずはミズダコ。独特の粘っこい触感は消え失せ、プリプリとした食感が生まれました。プリプリというオノマトペを海老以外に用いたのは人生で初めてかもしれません。
噂をすれば影。海老も生のまま食べるより熱を加えたほうが甘味が増す。
ホタテも気前の良いサイズにてムシャムシャと食す。うーん、好きな食材ばかり続いて嬉しいぽよ。
成生いったんだよね?いいなあ。地元の人ですら行けないお店に行っちゃうってどういうことよ?」と身を乗り出す静岡出身の彼女。「あそこの魚って、全部サスエなんでしょ?」サスエとは焼津の「サスエ前田魚店」のことであり、世界中から注目されている鮮魚卸です。
ヒラメ。淡泊になりがちな魚ですが、やはり熱を通すことによって旨味が増した気がします。火入れと言えば主に肉類に注目しがちですが、実は魚のほうが極めるべき余白が多いのではなかろうか。
ブリの背中側。ブリっとした食感にパンチのある味わい。これが冬の醍醐味だ。
「サスエって、地元では賛否両論なんだよね。もちろん『否』な人たちはやっかみ半分なんだけど」確かに地方のいち魚屋が突如ブレイクすると、地元の年配者たちが色々と言い出すのは想像に難くない。「でも、質の良さについてはみんな認めてる」
珍しくシャケ。当店でシャケを食べるのは初めてかもしれません。味の濃い魚がほんのりと温まり、円みを帯びた上品な味わいへと昇華する。
こちらはブリのお腹側。メタボリックシンドロームに陥った気の毒な魚ですが、食べる側としては抜群の歓びです。
お造りもお出し頂けました。当店の刺身の美点は厚切り大ぶりな点。もっしゃもっしゃと、ああ、今わたしは魚を食べているぞいう気分に浸らせてくれます。
あん肝を溶かし込んだ茶碗蒸しに、あん肝を炙ってトッピン具。これはもう禁断の味ですね。とにかく濃厚で日本酒を呼ぶ味覚です。トマトの酸味があん肝の余韻を断ち切る役割を果たし、これもいい。
濃厚なあん肝には濃厚な日本酒を。仙禽のにごり酒。シュワっとした微発泡はまさに大人のカルピスソーダ。
見てください、このツヤ、この輝き。しっかりと火が入れられており凝縮感が強い。先のシャケとはまた違った魅力に満ちており、料理とは素材はひとつ、解釈は無限である。
「静岡ってあんまり魚のイメージないけど、ほんとに良く食べるんだよね。特にマグロとカツオ。食卓にのぼらない日なんて殆どないんだから」確かに静岡はマグロが安くて旨い。何しろ日本で消費されるマグロのうちの約70%は清水港での取り扱いなのだ。
西京味噌最強説。この状況で味の濃いツマミは酒の消費を加速させる。
4番サード而今。やはり私はこのお酒が好きですね。色々と飲みましたがキョーイチです。清澄ながらフルーティな口当たり。甘味がキレイで酸味とのバランスもちょうど良い。いくら飲んでも飽きるということはありません。
コハダ。ギュっと締まっており酸味が強く、酔客にはちょうど良いビンタの役割を果たします。さあ、第2ラウンドだ。
海老は普段のそれほどのサイズ感はありませんが、そのぶん凝縮感というか、海老そのもの味わいが濃いような気がしました。
ヅケもしっかりと味が入っており、先のコハダと合わせて往復ビンタです。マグロにうるさい静岡出身の鈴木友菜も満足そうである。
トロも赤身と脂身のバランスが良く、わざとらしいコッテリさがありません。
イクラはイクラそのものの美味しさは当然として、脇役の海苔まで堪らなく旨い。
すじ抜き。マグロのトロの筋を1本1本丁寧に抜き、その美点のみを凝縮させたという背徳的なにぎりです。本日一番のお皿は先のあん肝茶碗蒸しですが、にぎりに限定するとこのすじ抜きが一番好き。
しっかりと火入れと調味がなされた牡蠣。海の幸という幸がギュっと詰まった風味。日本酒をもう一杯おかわりだ!
アナゴ先輩による閉会宣言。ザクっとした食感の筋肉質な個体であり、弾力を楽しむ。コースもこれでおしまいか、アナゴを食べるといつも寂しい気分になる。
往生際悪く追加でトロタクを注文。マグロの官能的な味わいにタクアンの象徴的な食感と塩味。女神感強めな締め処理でした。
春夏秋冬と、2018年はシーズンごとに当店を訪れることができました。確かに鈴木友菜の指摘の通り、こう何度もリピートするお店は珍しい。2019年は何回行けるかな。


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鮨は大好きなのですが、そんなに詳しくないです。居合い抜きのような真剣勝負のお店よりも、気楽でダラダラだべりながら酒を飲むようなお店を好みます。
この本は素晴らしいです。築地で働く方が著者であり、読んでるうちに寿司を食べたくなる魔力があります。鮮魚の旬や時々刻々と漁場が変わる産地についても地図入りでわかりやすい。Kindleとしてタブレットに忍ばせて鮨屋に行くのもいいですね。

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