ピエール・ガニェール(Pierre Gagnaire)/溜池山王

どのような一流の作り手の作品であったとしても作り置きの料理には限界がある、との理由からおせち料理はパス。正月から開いている一流ホテルのメインダイニングへ。世界最高のフランス料理人であるピエール・ガニェールの日本支店。2010年のオープンから9年連続で2ツ星を獲得し続けています。
元日のランチだから空いているかな、と思いきや、しっかりと満卓でした。なるほど客の半分以上は外国人であり、服装の雰囲気からして当館(インターコンチ)の宿泊客なのかもしれません。Petit Esquisseという、軽めランチコース7,000円を注文。
グラスシャンパーニュが3,800円と、都内最高値級の値付けです。1杯がですよ1杯が。なればボトルだとワインリストを借りると14,000円~とラグジュアリーホテルとしては悪くない価格設定。よくわからん仕組みだとソムリエ相談すると、ペアリングであればシャンパーニュ込みで5,000円でまとめられるとのこと。なにそれ最高じゃん。問答無用でペアリングでお願いします。
ソムリエと入れ替わりにウェルカムフードが登場。やはりこういうスピード感は、さすがのホテルのメインダイニングといったところ。

料理は柿のベニエ(天ぷら)にシナモンやヒヨコ豆のスナック、コンテの紫蘇巻き、香草を練りこんだギモーヴ(マシュマロ)にマグロのタルト(?)など、作り手の熱量が感じられるラインナップ。ベニエはしっかりと揚げたてであり、このあたりのホールと厨房の連携力には舌を巻く。
続いて前菜。ピエール・ガニェールの代名詞とも言うべきカクテル・ド・ポッシュ(5皿からなる小前菜)。合わせるワインも2種用意され、途端にテーブルの上が賑やかになります。
ブラッドオレンジのソルベにハイビスカスのジュレ。ギュンと酸味が前面に出ており前菜として最適。
根野菜のポタージュに燻製したサーモン。滋味あふれる根野菜の味わいにスモーキーなサーモンの旨味が堪らない。圧巻は鶉のポーチドエッグ。単なる卵でしかないはずなのに、うっかり主役を食ってしまいそうな迫力が感じられました。
一見なんの変哲もないコロッケとソースですが、全く妥協の余地のない料理です。コロッケにはホタテ貝が、ソースにはたっぷりのバターが。とどのつまりフランス料理とはソースであると再認識させてくれる完璧な味わい。
ワインとのマリアージュに賛成を。古木由来のミュスカデらしからぬ老獪な味わいに舌鼓。やはりワインとはフランス料理のために生まれてきた液体である。
カボチャにモンドール(冬のチーズ)。ここまではよくあるフランス料理ですが、キャラメリゼしたヘーゼルナッツやオリエンタルなコショウを用いるあたり、ピエール・ガニェールの矜持を感じます。
シャラン鴨のコンフィに黒オリーブパウダー、ドライなトマト・イチヂク・アンチョビで総仕上げ。説明の通りマッチョな味わいで小ぶりながら食べ応えあり。
赤ワインはガメイ。スーパーでお祭り的に売り出されるボージョレとは一線を画し、これがガメイだと言わんばかりの味わい。
パンまでもが生き生きしてカラフル。特に中段にある、ナッツやドライフルーツがたっぷりと練りこまれた、若干の塩気が感じられるものが殊のほか美味。
私はメインに蝦夷鹿をチョイス。ねずの実やカシスの香りがセクシーで、芽キャベツの甘味も乙な味。若干のチョコ風味をきかせたソースの風味がアルプス山脈のように連なり流石の一言。
付け合わせまで一切の手抜き無し。レンズ豆のニョッキをパルメザンクリームで仕上げており実に濃厚。これだけ丼いっぱいで食べたいぐらいだ。
合わせるワインはローヌのシラー。スパイシーなニュアンスが先のソースにぴったりです。
連れのメインはアイナメのポワレ。貝ならびにそのソースがコチラまでプンプンに香ってくる。正月で晴海市場が閉じているから魚はパスという安直な判断で私は肉を選びましたが、この見るからに旨そうな料理には若干の嫉妬を覚えざるを得ない。
彼女の副菜がまた豪華。白ビールとグレープフルーツでマリネ(?)した甘えびをエゴマで包んで手づかみで食べます。なんと甘美な。ぐぬぬ、やっぱり魚料理、いや、両方を食べれるコースを選べばよかったぜ。
参考までに彼女のワインはヴォワニエでした。5,000円のペアリングでここまでのワインが出るってチョーお得。
デザートへ。前菜同様、甘味についても3連単の構成。これに加えて小菓子も出ます。
まずはクリのアイスクリームから。まさにクリといった味わいであり、一口ながら存在感のある風味。
パンナコッタにはショウガの泡とヘーゼルナッツ(だっけ?)を乗せ、ひと手間を惜しみません。
3皿目にはチョコレート。高品質なカカオを複雑に組み込んであり、今やデザートとして完璧の域に達しつつあります。ううむ、旨い。たしか当館の他のレストランで、当店のデザートだけを楽しむプランがあったと記憶しているのですが、今度はそれにお茶をしに来ようかしらん。
お茶菓子までこの手の込みよう。一流パティスリーのアントルメにスモールライトを照射したような完成度の高さです。小菓子でここまでの細やかな造形はちょっとない。
ピタリとしたコーヒーで〆てごちそうさまでした。
完璧です。現代のフランス料理として完璧な流れでした。ある意味では季節感は感じられず結論ありきの料理ではありますが、やはり彼の作品には人を強くひきつける何かがある。サービス陣の動きも完璧であり、サービス料13%を支払う価値があります。外せない会食やキメキメのデートに訪れたいお店。当店に任せておけば間違いなど起こるはずはないでしょう。


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