オルディヴェール(ordi-verre)/白金高輪

2017年夏、白金高輪は四の橋商店街にオープンしたフランス料理店。オザミル・ブルギニオンで研鑽を重ねた戸田健太郎オーナーソムリエ、シェ・イノで経験を積んだ飛松裕之シェフと、私の好きな系統のお店なふたりがタッグを組みました。
店内は10席ほどで、この日は満卓。場面で皿出しが滞っていたので、ふたりで回すにはこのあたりが限界なのかもしれません。そういう意味で車幅感覚がピッタリな人員と席数と言えるでしょう。ウォークインセラーも誂えられており、ワインへの熱意が感じられました。
グラスのシャンパーニュからスタート。ブランドブランで柑橘寄り。華やかな香りが印象的で、飲み切った後のグラスまでプンプンに迫ってくる。これでグラス1,500円はお買い得。
泡のお供にブーダンブラン。親しみやすい白い肉の味わいに、春菊の苦味がフィットします。左はジャガイモをプックリと焼き上げたものにキャビアをちょっとだけ。ううむ、シャンパーニュにピッタリだ。やっぱりキャビアはこれぐらいの量がちょうど良い。
パンならびにバターはあまり印象に残らず。主張しない、あくまで脇役に徹したものでした。
フランにコンソメ(だっけ?)、香りづけにトリュフ。香りの強い黒いダイヤを上手く使っています。当店は高級食材をアクセントとしてここぞという時に品良く使うのが良いですね。
フランの終盤にコニャックをクイっと口に含む。山の香りと厚みのあるアルコールが溶け合って心地よい味わい。
前菜はラングスティーヌ(海老の一種)。ひとかどのエビマシュランと言わせてもらいますが、この海老の調理は素晴らしいですね。プリっとした歯ざわりではなく、舌の上でフワっと盛り上がる感覚。海老の食感に圧倒的な存在感を見出した一皿です。調味も青りんごや柑橘で爽快にまとめるなど、革新は自由自在だ。
合わせるワインはオレンジワイン。タンニンが感じられ面白くはあるのですが、先の海老の調味に合うかというと疑問。もっと爽やか系、例えば若いソーヴィニヨン・ブランなどで食べるほうが私は好き。
エスカルゴをたっぷりのバターで。この、これがフランス料理だという構成、好きです。タラの芽のベニエも大人の苦味がギュっと来る。他方、中央の温泉卵はどうでしょう。鶏卵丸々1個では皿における味覚の専有面積が大きすぎるような気がします。うずらの卵ぐらいでいいのにな。連れも「81のアレみたい」と首を傾げる。
めちゃんこ酸味が豊かで、リースリングかと勘違いしそうな、でも香りは全然違う、不思議なマコン。味蕾がギュっと縮み上がりそうな印象的な1杯です。
魚料理はヒラメ。100グラム近くはありそうな特大サイズで食べ応え抜群。水分を含みながらふんわりと仕上げる技巧は先のラングスティーヌを想起させます。また、ソース・アルベールが抜群に美味しいですね。魚介の出汁が濃厚に香り、これがフランス料理である。
ムルソー。樽香が強く、まったりとしたとふくよかな味わい。ソース・アルベールにぴったりだ。
肉料理はラム。こちらもラムチョップ2.5本分ほどの重量感があり、つい先日までオセアニアに2週間近く滞在していたというのに、そのいずれよりも上質な素材でした。付け合わせの百合根やムカゴのホクっとした食感も食べ応えがあります。ただし全体としては間違いなく美味しくはありますが、印象に残りづらい凡庸なメインでもありました。
この赤は素晴らしいですね。カベルネとメルロが見事に溶け合い、肌理の細かいシルキーなタンニンがするすると品良く肝臓へと収まっていきます。本日一番の1杯でした。
デザートも基本に忠実、安心安定の味わいです。ややもすると家庭料理的でもあり、ユニセックスな私としてはもう少し派手さが欲しいところです。
最後の小菓子まで手作りという念の入れよう。ただし先のデザートと芸風が同じであり、思いやりのない表現をすると古臭く感じました。当店の甘味はこれからの課題かもしれません。
古典に忠実、まさに王道中の王道といった料理であり、安心してこれがフランス料理だと楽しむことができました。決して派手さはありませんが確実に旨い、玄人好みのお店です。ワインのチョイスも確かであり、これだけしっかり飲み食いしてひとり2万円におさまるのは感謝の念しかありません。
一方で、何事も目立たず控えめにが信条かと思えるぐらい慎ましやかな料理でもあります。唯一無二の何かが見当たらず地味と言えば地味。若めのギャル、例えば松下侑衣花のような女性を口説く目的で訪れると大きく外すかもしれません。フランス料理を食べ込んでいる方と、ワインを楽しむ前提でどうぞ。


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白金高輪は粒揃いの佳店が多いです。ちょっと不便な立地も良いんでしょうね、若い子たちを寄せ付けることが無くて。

「東京最高のレストラン」を毎年買い、ピーンと来たお店は片っ端から行くようにしています。このシリーズはプロの食べ手が実名で執筆しているのが良いですね。写真などチャラついたものは一切ナシ。彼らの経験を根拠として、本音で激論を交わしています。真面目にレストラン選びをしたい方にオススメ。

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