日本料理 四四A2(よしあつ)/恵比寿

恵比寿と広尾のあいだの住宅街に位置する「日本料理 四四A2(よしあつ)」。目立つ外観にギャルのLINEのような店名ですが、きちんとした日本料理店であり、食べログでは百名店に選出されています。
店内はカウンターが8席にテーブルが2卓あり、ICONIQ似のマダムが快活にでむかえてくれます。福島良篤シェフは京都の老舗料亭「京大和」での修業を皮切りに、欧米系のレストランでも腕を振るった多彩な経歴の持ち主です。
ビールやワインなどはまあまあ高いのですが、日本酒を中心としたペアリングは5,500円と親しみ易い価格設定。ガリをスパークリングワインで割った食前酒に始まり、日本酒だけでなくワインも登場するなど、遊び心と伝統が共存するラインナップです。
まずはハモとジュンサイ。ジュンサイのツルンとした滑らかさがハモの淡白で繊細な甘みを引き立てる。酢の爽やかな酸味が全体を軽やかにまとめ、夏の季節感を五感で楽しむ逸品です。
これは鮨という位置づけでしょうか、たっぷりのウニと海苔の底にはシャリが敷かれています。海苔の香りが良くウニのクリーミーな旨味と見事に調和。お出汁のジュレは程よく旨味がきいており、全体を軽やかにまとめ上げます。
スペシャリテの毛ガニまんじゅう。青海苔を含んだ外皮をくぱぁすると、中には毛ガニがギッチギチに詰まっています。噛みしめるごとにジュワっと甲殻類の旨味が滲み出る。キャビアの塩気も絶妙なアクセント。
熊本産の極細素麺を使用したにゅうめん。細さゆえの滑らかな口当たりと、しっかりとしたコシが特長的。具材にはカラっと焼いたアマダイを起用しており、気品あふれる旨味と済んだお出汁が溶け合います。
豊後水道産の釣りアジのお刺身。鮮度抜群で身の締まった弾力が心地良いのですが、なんとソースとしてラー油を用いており、そのピリッとした辛味と香ばしさが、アジの繊細な旨みを引き立て、ほのかな脂の甘さに奥行きを加えます。どこか中国料理的で後を引く美味しさです。
賀茂茄子の田楽。面を香ばしく焼きつつ、しっとりとした食感を引き出しています。口に含むと茄子の瑞々しさと味噌のコクが溶け合い、温かみのある味わいが広がります。シンプルかつ洗練された調理で、素材の魅力を最大限に表現しています。
焼物はタチウオ。皮目の香ばしさと身のふっくらした甘みが心地よく、脂が程よく乗っています。土台を支えるおからは新生姜の爽やかな辛味と風味が効いており、青っぽい風味の空豆と共に季節を感じさせるひと皿です。
お口直しに水茄子。フルーツのようにジューシーで柔らかな果肉が印象的。素朴ながら清涼感があり、コースの流れを整えます。
ハモをその出汁で茹でたひと品。繊細な甘みとプリッとした食感が際立ち、濃厚な出汁の旨みが融合します。じっくり焼いた飴色の玉ねぎは、甘みとほのかな苦味がハモを包み込み、奥深い味わいを醸成しています。
お食事は炊きたての白ゴハン。マダムのご実家で栽培されたコメだそうで、進次郎とは無縁の世界線。ふっくらとした粒立ちとほのかな甘みがコースの締めにふさわしい満足感を与えます。お供にトキシラズを添えるのも心憎い演出。
オマケで岩モズクを用いた雑炊もおつくり頂けました。出汁に溶け合うモズクの旨みが米の甘みを引き立てる。とろりとした玉子が加わり、滑らかで優しい口当たり。お腹はもうぽんぽん。
デザートにクリームチーズプリン。乳脂肪を感じさせるリッチで濃厚なひと品です。口の中でとろける濃厚な味覚。黄色い部分はパイナップルで、その酸味と甘みが濃厚さを軽やかに引き立てます。

以上を食べ、しっかり飲んでお会計は3.3万円。金額だけを切り取ってみれば高価ですが、その質は確か。むしろ暴騰に暴騰を重ねる東京和食界隈の中では良心的とも言える価格設定でしょう。純な京料理とは異なり創意工夫に富んだコース仕立てであり、欧米系の料理に慣れた私にとってはこれぐらいがちょうど良い。季節をかえて、再びお邪魔したいと思います。

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日本料理は支払金額が高くなりがち。「飲んで食べて1万円ぐらいでオススメの日本料理ない?」みたいなことを聞かれると、1万円で良い日本料理なんてありませんよ、と答えるようにしているのですが、「お前は感覚がズレている」となぜか非難されるのが心外。ほんとだから。そんな中でもバランス良く感じたお店は下記の通りです。
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くろぎのおかず [ 黒木 純 ]
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黒木純さんの著作。「そんなのつくれねーよ」と突っ込みたくなる奇をてらったレシピ本とは異なり、家庭で食べる、誰でも知っている「おかず」に集中特化した読み応えのある本です。トウモロコシご飯の造り方も惜しみなく公開中。彼がここにまで至るストーリーが描かれたエッセイも魅力的。

万博で残念だったレストランたち

万博メシで最大の話題をさらったのはイギリス館の5,000円アフターヌーンティーで間違いありませんが、確かに私がお邪魔した限りにおいても結構、いや、かなり酷い飲食店が散見されます。

もちろん慣れない仕入先から得た材料を慣れないキッチンでスピーディーに提供する必要があるのだから当たり前と言えば当たり前なのですが、そのハンディキャップを差し引いたとしても、信義則に反する食事を平気で提供するパビリオンが点在する。

本稿では、私の口や価値観に合わなかった飲食店を記録しておきます。私と趣味嗜好や価値観が似ている方はお気をつけて。なお、こういったネガティブな情報が苦手な方は画面をそっ閉じするか、「万博で良かったレストラン2店」へとジャンプして下さい。


■シオック!カフェ(Shiok! Café)
イギリスパビリオンと同じぐらい悪質に感じているのが「シオック!カフェ(Shiok! Café)」。シンガポールパビリオンに併設されている飲食店であり、パビリオンに入館していなくても利用することができます。店名の「Shiok(シオック)」とはシンガポールで「おいしい!最高!」という意味をもつスラングだそうです。
メニューを見る限りはラクサ1,800円、チキンライス2,000円と高価ですが「万博やし、しゃあないか」とギリ許容できる範囲。しかしながら、パビリオン併設レストランとしては妙に空いていることを異変と感じ取れなかったことが終わりの始まりでした。
見てください、1,800円のラクサです。メニュー写真との落差が物凄まじい。サイズはカップ麺ほどしかなく、スープはココナッツミルクのまろやかさが欠け、代わりに人工的な旨味が鼻をつきます。スパイスの香りも乏しく、ただ唐辛子の辛味だけが舌を刺す。全体的に調和がなく、雑に作られた印象が拭えません。成城石井で600円程度の「シンガポール風ラクサ」のほうが余程レベルが高いです。
メニュー写真にあった海老が見当たらないなと思い天地返ししてみると、グダグダに伸びた麺とシナシナのモヤシしか出てきませんでした。流石にコレはちょっとアレではなかろうか(優良誤認表示、景品表示法第5条1号)。麺もすっかり伸びていて、持ち上げるとグズグズと崩れるほど柔らかく、コシも歯応えもありません。
特殊なイベントでの出展なので、待ち時間が長いことや高価であることは許容できますが、量が極端に少ない上に不味いというのは我慢ならない。シンガポールパビリオンのテーマは「ゆめ・つなぐ・みらい」だそうですが、目の前の郷土料理ですら満足に作ることができないくせに夢や未来を語らないで欲しい。どうした明るい北朝鮮、君たちの実力はこんなもんじゃないだろう?


■ポーランドパビリオン
「空いている」という理由だけで飛び込んだポーランドパビリオン併設のレストラン。ベジタリアンかそうでないかの2種類のセットのみの提供で、いずれも4,900円。料理は全体的に酸味が強く、グズグツに煮込まれたものばかりで、美味しくないを通り越して不味かった。
2人で2種類のセットを注文し食べ比べしましたが酸味にマスキングされ違いはわからず。飲み物も別料金なので、なんやかんやで1万数千円。やはり待ち時間が長いことや高価であることは許容できますが、純粋に不味いというのは我慢なりません。


■マレーシアパビリオン
いずれの料理も1品2千円と万博としては控えめな価格設定。しかしながら、まずビジュが全然ダメですね。量も少なく味もパっとしません。周囲のゲストも眉をひそめており、しょっちゅうマレーシアに行く身としては「マレーシア料理ってこんなもんじゃないから!」と私が弁解して周りたいくらいでした。
ロティチャナイ(カレーとナンみたいなやつ)は1,814円もするのですが、こんなもん現地であれば数百円で楽しむことができ、質も量も数段上。「万博なんだから仕方ない」では済まされないクオリティの隔たりを感じます。
東京や大阪などの大都会であればマレーシア人が営むマレーシア料理専門店はいくらでもあるので、万博においてわざわざ食べる必要のない料理に感じました。

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「東京最高のレストラン」を毎年買い、ピーンと来たお店は片っ端から行くようにしています。このシリーズはプロの食べ手が実名で執筆しているのが良いですね。写真などチャラついたものは一切ナシ。彼らの経験を根拠として、本音で激論を交わしています。真面目にレストラン選びをしたい方にオススメ。

麻婆食堂 福笑い 那覇店(ふくわらい)/牧志

宜野湾で人気の「福笑い(ふくわらい)」が那覇に進出。国際通りから1本入った所に位置します。牧志駅からは歩いて7-8分ほどでしょうか。深夜まで営業しており、街の特性を反映しているのでしょう。
店内はネオ中華っぽい内装で、厨房を取り囲むカウンター席のほか、グループ向けにテーブル席も用意されています。軒先にはテラス席もあり、夜に過ごすに気持ちよさそうです。が、スタッフがマスクも無しに、ずっと変な咳をしているのが気になります。
注文から20分経ってようやく着丼。ガラガラに空いているのに何でこんな仕事おそいねんとひとりごちるのですが、どうやらフードデリバリーからの注文を優先しているようです。目の前のリアルな客を大切にせず、顔の見えないネット越しの誰かさんからの注文を重んじるという近未来社会です。
期間限定の「パクチーサラダの冷やし担々麺」なのですが、20分も待ち、また1,500円近くも要する割には全然美味しくありません。キユーピーの胡麻ドレッシングみたいな味がする。また、「サラダ」という割に野菜の量がとても少ない。
麺もパっとせず、そのへんのスーパーで買ってきた生麺みたいな味です。
スペシャリテの麻婆豆腐。油が多いスタイルで、辛味の割にコクに乏しい。豆腐は絹ごしタイプを用いており、沖縄のガシガシと風味の強い豆腐を食べ慣れた方にとっては物足りなく感じるかもしれません。
オマケで杏仁豆腐が付いて来るのですが、ほどよくチーズっぽい風味が感じられ、なかなかの美味しさです。こればっかし2千円分食べれば良かったなあ。
以上を食べ、お会計は2千円近くにも迫りました。さすがに高杉で、セットで880円ぐらいの価値しか私は感じられませんでした。提供速度が遅い・フードデリバリーを優先する点については既に述べた通り。恵比寿の「ノマド(nomad)」が千円台で数倍価値のあるランチを提供していることを考えると、悪い冗談としか思えません。

君がやりたかった仕事は食品工場の真似事なのか?もう一度胸に手をあててよく考えてみるといい。

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寒い季節は沖縄で暮らしているので、旅行やゴルフだけで沖縄に来る人よりかは一歩踏み込んでいるつもりです。沖縄の人ってネットに書き込みしないから、内地の人が知らない名店が結構多いです。
沖縄通を気取るなら必ず読んでおくべき、大迫力の一冊。米軍統治時代は決して歴史のお話ではなく、今の今まで地続きで繋がっていることが良くます。米軍の倉庫からかっぱらいを続ける悪ガキたちが警官になり、教師になり、ヤクザになり、そしてテロリストへ。沖縄戦後史の重要な事件を織り交ぜながら展開する圧巻のストーリー構成。オススメです。

てんぷら近藤(こんどう)/銀座

「東京で天ぷらと言えば?」という質問で、かなりの序盤で名前が挙がる「てんぷら近藤(こんどう)」。ミシュランでは2008年より2ツ星を維持し、食べログではブロンズメダルおよび百名店に選出されています。
なのですが、当店はもう、完全に常連向けのお店ですね(写真は公式ウェブサイトより)。流石はオバマ元大統領と安倍元総理の来店を断り既存の予約客を優先したことで話題になったくらいです。もちろん一見客やインバウンド客からの予約も受けてはいますが明らかに養分であり、シェフが付いてくれるかどうかで印象は大いに変わるお店でしょう。

近藤文夫シェフは名門「てんぷらと和食 山の上」で23歳の若さで料理長を務め、1991年に独立。2019年に天ぷら料理人として初の「現代の名工」、2023年に「メンターシェフアワード」を受賞しています。
酒の種類は少なく、ワインなどは一切置かれていません。隣の外国人ゲストに向けてはお冷だけでもOKなスタイルであり、あまりお酒で儲けるつもりは無さそうです。

サービスには難あり。給仕のオバチャンが常に背後を取っており、落ち着かないったらありゃしない。加えて何も言わずにいきなりニュっと背後から手を伸ばして皿や紙を下げてくるので、都合5-6回はぶつかりました。この価格帯の飲食店としては極めてサービスレベルが低いと言わざるを得ません。
お通しのゼンマイに続きお豆腐。ねっとりとした口当たりで仄かに甘い餡が伸びていきます。
前菜の盛り合わせ。バイ貝を煮たものが酒のツマミ度爆発なのですが、日本酒のラインナップが4種のみと寂しい。
さっそく天ぷらに入ります。まずは海老の脚を揚げたもの。カリカリとした軽快な食感が心地よく、薄い衣が海老の香ばしさと甘みを引き立てます。
海老は2本。シェフは天ぷらを「蒸し料理」と捉え、薄い衣で素材の風味を引き出すことをモットーとしているようです。身はレアに近い火入れでしっとりとしています。
ホワイトアスパラガス。当店は魚介中心で厚い衣が主流だった天ぷら業界に一石を投じ、特に野菜の天ぷらが充実しているのが特長です。やはり薄い衣でサクッと揚げており、中はジューシーで甘みが強い。
レンコン。その独特のシャキシャキとした食感が最大の魅力であり、揚げることでレンコンのデンプン質が甘みに変わり、ほのかな甘みと、独特の土っぽい香りが凝縮されます。
江戸前のキス。表面はカリッと軽やかで、中はふわっと。淡泊ながら甘みのある身は、噛むほどに繊細な旨味が広がります。
ヤングコーンは驚くほど甘い。揚げることでヤングコーンが持つ独特の青々しい香りはまろやかになり、本来の甘みがぐっと引き立ちます。瑞々しいプチプチとした食感も楽しい。
オクラ。新鮮なオクラを薄い衣でサクッと揚げ、表面はカリッと軽快、中はねっとりとした独特の食感が際立ちます。
アオリイカ。こちらはバリ旨い。繊細なタッチ、かつ、甘味も豊かであり、淡い薄衣で揚げるに最適な素材です。
ミョウガは全然美味しくありません。油を吸ってベタベタとしつこく、せっかくの風味が熱で吹き飛んでいます。やはりミョウガは生でシャキっと食べるのが一番なのかもしれません。
玉ねぎ。とろけるような甘みと、じゅわっと広がる旨みが印象的。ただ、確かに美味しいのですが、隣の外国人の「さっきから何故ベジタブルのフリットばっかり出て来るんだホワイ?」という怪訝そうな表情が忘れられません。
アナゴはヒョロリと細くヘナヘナ丸でパっとしません。対馬の定食屋で食べた1,500円のアナゴ定食のほうがレベルが高い。
スペシャリテのサツマイモ。直径10cmほどの円柱状に切り、30分以上じっくり揚げて甘みとホクホク感を引き出します。薄い衣はカリッと軽やかで、中はネットリと滑らか。これは旨い。唯一無二の味覚です。
ただ、これだけコースに含まれておらず追加料金という仕組みは感心しません。結局ゲストの全員が注文することは自明であり、まるで秋のトリュフハラスメントのようです。
お食事は天丼でお願いしました。この日のかき揚げは小柱で、かき揚げというスタイルからか衣は厚く、それでも結構旨いじゃんというお気持ちです。つまり私は衣が適度に厚い天ぷらを好むようです。
水菓子でフィニッシュ。ごちそうさまでした。
以上を食べ、軽く飲んでお会計は2.3万円。うーん、普通に美味しい天ぷらですが、野菜ばっかりで高杉晋作。スタッフの数も妙に多く、銀座の家賃と人件費が支配的です。

冒頭記した通り常連贔屓が露骨でもあるし、Z世代が頑張って予約する必要性は感じられませんでした。シェフが引退した後の世界が見えない。それでも行きたいという奇特な方は、必ず常連に連れて行ってもらいましょう。おつかれさまでした。

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天ぷらって本当に難しい調理ですよね。液体に具材を放り込んで水分を抜いていくという矛盾。料理の中で、最も技量が要求される料理だと思います。

てんぷら近藤の主人の技術を惜しみなく大公開。天ぷらは職人芸ではなくサイエンスだと唸ってしまうほど、理論的に記述された名著です。スペシャリテのさつまいもの天ぷらの揚げ方までしっかりと記述されています。季節ごとのタネも整理されており、家庭でも役立つでしょう。