「東京で天ぷらと言えば?」という質問で、かなりの序盤で名前が挙がる「てんぷら近藤(こんどう)」。ミシュランでは2008年より2ツ星を維持し、食べログではブロンズメダルおよび百名店に選出されています。
なのですが、当店はもう、完全に常連向けのお店ですね(写真は公式ウェブサイトより)。流石はオバマ元大統領と安倍元総理の来店を断り既存の予約客を優先したことで話題になったくらいです。もちろん一見客やインバウンド客からの予約も受けてはいますが明らかに養分であり、シェフが付いてくれるかどうかで印象は大いに変わるお店でしょう。
近藤文夫シェフは名門「てんぷらと和食 山の上」で23歳の若さで料理長を務め、1991年に独立。2019年に天ぷら料理人として初の「現代の名工」、2023年に「メンターシェフアワード」を受賞しています。
酒の種類は少なく、ワインなどは一切置かれていません。隣の外国人ゲストに向けてはお冷だけでもOKなスタイルであり、あまりお酒で儲けるつもりは無さそうです。
サービスには難あり。給仕のオバチャンが常に背後を取っており、落ち着かないったらありゃしない。加えて何も言わずにいきなりニュっと背後から手を伸ばして皿や紙を下げてくるので、都合5-6回はぶつかりました。この価格帯の飲食店としては極めてサービスレベルが低いと言わざるを得ません。
お通しのゼンマイに続きお豆腐。ねっとりとした口当たりで仄かに甘い餡が伸びていきます。
前菜の盛り合わせ。バイ貝を煮たものが酒のツマミ度爆発なのですが、日本酒のラインナップが4種のみと寂しい。
さっそく天ぷらに入ります。まずは海老の脚を揚げたもの。カリカリとした軽快な食感が心地よく、薄い衣が海老の香ばしさと甘みを引き立てます。
海老は2本。シェフは天ぷらを「蒸し料理」と捉え、薄い衣で素材の風味を引き出すことをモットーとしているようです。身はレアに近い火入れでしっとりとしています。
ホワイトアスパラガス。当店は魚介中心で厚い衣が主流だった天ぷら業界に一石を投じ、特に野菜の天ぷらが充実しているのが特長です。やはり薄い衣でサクッと揚げており、中はジューシーで甘みが強い。
レンコン。その独特のシャキシャキとした食感が最大の魅力であり、揚げることでレンコンのデンプン質が甘みに変わり、ほのかな甘みと、独特の土っぽい香りが凝縮されます。
江戸前のキス。表面はカリッと軽やかで、中はふわっと。淡泊ながら甘みのある身は、噛むほどに繊細な旨味が広がります。
ヤングコーンは驚くほど甘い。揚げることでヤングコーンが持つ独特の青々しい香りはまろやかになり、本来の甘みがぐっと引き立ちます。瑞々しいプチプチとした食感も楽しい。
オクラ。新鮮なオクラを薄い衣でサクッと揚げ、表面はカリッと軽快、中はねっとりとした独特の食感が際立ちます。
アオリイカ。こちらはバリ旨い。繊細なタッチ、かつ、甘味も豊かであり、淡い薄衣で揚げるに最適な素材です。
ミョウガは全然美味しくありません。油を吸ってベタベタとしつこく、せっかくの風味が熱で吹き飛んでいます。やはりミョウガは生でシャキっと食べるのが一番なのかもしれません。
玉ねぎ。とろけるような甘みと、じゅわっと広がる旨みが印象的。ただ、確かに美味しいのですが、隣の外国人の「さっきから何故ベジタブルのフリットばっかり出て来るんだホワイ?」という怪訝そうな表情が忘れられません。
アナゴはヒョロリと細くヘナヘナ丸でパっとしません。対馬の定食屋で食べた1,500円のアナゴ定食のほうがレベルが高い。
スペシャリテのサツマイモ。直径10cmほどの円柱状に切り、30分以上じっくり揚げて甘みとホクホク感を引き出します。薄い衣はカリッと軽やかで、中はネットリと滑らか。これは旨い。唯一無二の味覚です。
ただ、これだけコースに含まれておらず追加料金という仕組みは感心しません。結局ゲストの全員が注文することは自明であり、まるで秋のトリュフハラスメントのようです。
お食事は天丼でお願いしました。この日のかき揚げは小柱で、かき揚げというスタイルからか衣は厚く、それでも結構旨いじゃんというお気持ちです。つまり私は衣が適度に厚い天ぷらを好むようです。
水菓子でフィニッシュ。ごちそうさまでした。
以上を食べ、軽く飲んでお会計は2.3万円。うーん、普通に美味しい天ぷらですが、野菜ばっかりで高杉晋作。スタッフの数も妙に多く、銀座の家賃と人件費が支配的です。
冒頭記した通り常連贔屓が露骨でもあるし、Z世代が頑張って予約する必要性は感じられませんでした。シェフが引退した後の世界が見えない。それでも行きたいという奇特な方は、必ず常連に連れて行ってもらいましょう。おつかれさまでした。
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- てんぷら山の上/六本木 ←大規模商業施設のレストランの中では絶品の天ぷら。
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