エクアトゥール(l'equateur)/麻布十番

食べログ4.79(2019年2月)でフランス料理部門全国1位。ミシュランの星は獲得しない無冠の帝王エクアトゥール。数年前はネットから予約できたものですが、最近は誰かに連れて来られないと入れないお店となってしまいました。そう、ミシュランという媒体は誰でも行ける店じゃないと評価の対象としないのです。
六本木、広尾、麻布十番のど真ん中。それぞれの駅から徒歩十数分を要する住宅街の秘密のビルの一室。下階には3ツ星和食の「かんだ」、地下には費用対効果抜群のイタリアン「アルヴェアーレ(alveare)」と、建物のオーナーは道楽者に違いない。この辺りの道路には常にショーファーがたむろっており、VIPに満ち満ちた地域なのでしょう。
今回は個室にて6名での饗宴。カゲロウ(系列のイタリアン)を含めエクアトゥールまわりに何度も訪れたことのあるベテラン揃い。ワインを持ち込み体調も万全。久しぶりに気合いの入った、緊張すら感じられるディナーの始まり始まり。
まずは食材のプレゼンテーション。キャビア・フォアグラ・オマールの三種の神器に、変わったところだとスッポン。往年のレアルマドリードのようなラインナップです。トリュフが割に雑な扱いなのがわろてまう。
トラフグの白子をペースト状(?)にしてから柔らかく固めた物質にタラバガニのソース。タラバガニの歯ごたえよし、ソースの旨味よし、白子の滑らかさよし。のっけから実にエクアトゥールらしい一皿。ブラインドで食べたとしても、小野喜之シェフの料理だと言えるかもしれない。

比べてしまって申し訳ないのですが、前夜に訪れた白金台のラリューム( L'allium)のどの料理よりも、この時点で美味しかった。もちろんそれはラリュームが悪いというわけではなく、エクアトゥールが異常なだけです。
当店で食事をする特典として、パンが異常なまでに美味しいことがあげられます。ロブションとエクアトゥールは東京フランス料理パン旨い選手権のツートップ。ロブションは具材や風味がゴテゴテしたパンが多いですが、当店のそれは手堅くしみじみと旨い。
煮タコに海老芋に花わさび。何屋だよ、と思わず突っ込んでしまう一皿です。レスラーの親指ほどはありそうな大ぶりのタコに奥歯がスっと滑り込んでいく。柔らかくはあるものの弾力も感じられ、その食感を楽しんでいると爆発する旨味。どの日本料理屋の桜煮よりもレベルが高い。海老芋にもしっかりと出汁が沁み込んでおり(何屋だよ)、苦味のきいた花ワサビのパンチも見事です。
黒アワビにオマール海老にキャビア。ソースはアメリケーヌ(甲殻類の濃厚な出汁)とオランデージ(卵黄とバター)の2色刷り。フランス料理のエッセンスを全て詰め込んだ、ある種むちゃくちゃな料理です。ここまで高級食材を組み合わせられると「わかったわかったもういいよ」という気分になるものですが、当店の場合はパーフェクトな調和をみせてくれました。

並の料理人の場合、「あの高級食材とこの高級食材を組み合わせれば凄いんとちゃうか?映えるんとちゃうか?」という魂胆がミエミエですが、当店の場合は「実現すべき料理の素材を集めると、たまたま高級食材だった」という印象を受ける。理由があって、組み合わせる。しかも完璧に。
百合根のフラン(西洋茶碗蒸し)にフォアグラ、トリュフ。何でもかけりゃいいってもんじゃないですが、それでもうっかりアガってしまうのがトリュフという食材です。トリュフの享楽的な香りにフォアグラの艶っぽい味覚。百合根の優しく円やかな風味が全てを受け止めます。
ウニ、フキ、ハマグリ。ついついウニの眩さに目が行きがちですが、この皿のポイントは味付けでしょう。出汁というべきか魚介のエキスというべきか、何とも繊細で共感を誘う味わいのジュレが秀逸。表立って主張するわけではありませんが、揺るぎない味覚。木の根は目には見えませんが、木全体の命に関わる重要な部分。そんな料理でした。
私の記憶が確かならば当店はフランス料理屋というジャンルに属するはずなのですが、つくねです。鶏ではなく、スッポン。奥歯の奥でギリっと鳴るような噛み応え。猛々しく頑強な味わい。野性味すら感じられる強烈な味覚。スッポンで鳴らした京都たん熊なんかよりもダンチに旨い。
甘鯛。タラの芽やウドと共に、和食のレトロフューチャーとも言うべき1皿です。ベースとなる味付けは白味噌であり、何とも慎み深い味わい。
メインはマガモをチョイス。 獣性的な迫力に満ちており、百万馬力の味わいです。一般的にコース料理のメインディッシュはどこも似たような味わいで惰性で食べることが多いですが、当店においては石が流れて木の葉が沈む。真打あっての前座だぞ、と、存在感に溢れた肉料理でした。
〆の麺があると聞いて嬌声があがる。なんとも自由奔放なコースの組み立て。ちなみに当店は夏季限定で「夏零」という中華料理屋に変身しており、そのスピンオフ作品とも言うべき1皿です。妙にむっちりと歯ごたえのある麺にミンチ肉と白子のソース。こういう料理を気負わずサラっと作れてしまうセンスに嫉妬する。人はそれを才能と呼ぶ。
デザートはティラミス。それでも一筋縄でいくはずもなく、苺とトリュフが多用されています。またトリュフか、いつも柳の下に泥鰌は居るわけじゃないぞ、と疑いの目で口に運ぶともうダメ。全然美味しい。この絶妙な風味の調合に再現性があるだなんて信じられない。人はそれを天才と呼ぶ。
コーヒーとカヌレで〆。ごちそうさまでした。一般的には思い出と戦っても勝てないことが多く、私が3年前に訪れた際の感動も神格化されているだけかと思いきや、その時の経験を遥かに凌駕する完成度であり、平たく言うとめちゃんこ旨かったです。
私は基本的に前衛的な料理は好まないのですが当店は別格。意欲的な挑戦はさておき、純粋に美味しい。芸術性を追求する料理店は純文学的で大して美味しくないことが多いですが、当店は直木賞。エンターテインメント性に溢れつつ、ズバリ美味しい。フランス料理というよりもエクアトゥール料理。究極のうまいもの屋。次元が違う。


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麻布十番にはフランス料理屋がたくさんあるのですが、残念ながら割高でハズレなお店も多い。外さない安定したお店は下記の通り。
東京カレンダーの麻布十番特集に載っているお店は片っ端から行くようにしています。麻布十番ラヴァーの方は是非とも一家に一冊。Kindleだとスマホで読めるので便利です。

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