été(エテ)/代々木公園


「明日、空いてますか?étéの予約が急遽回ってきました」と連絡。メッセージを受け取ってから1分以内に必ず行くと返信。この歳になると楽しいことは黙っていても向こうからやって来るので、常にカラダを空けてアイドリングしておくことが重要となってきます。本質的でない予定に振り回されて予定調整に何日もかかるようでは人生を楽しむことは難しい。
庄司夏子シェフは代官山ル・ジュー・ドゥ・ラシエット、青山フロレリージュのスーシェフを経たのち24歳で独立を果たした気鋭の料理人。シグネチャーの「Fleurs d’été(フルール・ド・エテ)」はあまりにも有名(写真は公式ウェブサイトより)。
さて本題、彼女のプライベートダイニングについてです。住所、電話番号ともに非公開。1日1組4名限定、一見さんNG。持つべき友は唸るほど金を持ってる奴らである。
極上のミカンジュースをシャンパーニュで割る。いやはやこんなに旨いミモザは中々ないぞ。

「この前エクアトゥール行ったときのシャンパーニュ?あのお花がビラビラついたカワイイボトルのやつ。何でいつも同じの飲むの?って思ったんだけど、あれ、結構高かったのね」
彼女は恐らくベルエポックの話をしているのだろう。「ピカピカしたボトルがすき~☆」と、発想が実にキャバ嬢である。
アミューズは塩味のタルト。呆れるほど山盛りのウニにオリエンタルなスパイス。もちろん高級食材を出して終わりというわけではなく、土台となるタルト生地も極上の一品。我々の来店時間を見計らった最適な状態での提供です。
ブリオッシュは外皮と中身の食感のコントラストが素晴らしく、生地の落ち着き度合いもピッタシカンカン。もちろんこちらも我々のためにタイミングを合わせた一品です。
トロトロとセクシーな舌触りの白子。丁寧に仕込まれたカリフラワーのソースで満たし、白トリュフでスマッシュする。ぐおお、旨い。白子はタラのものであり、白トリュフを除けば然したる高級食材ではないのにここまで美味しく仕上げる技巧には舌を巻く。

他方、白トリュフは諸刃の剣ですね。あまりにも精神的に乳を出す香りでトランス状態に入ってしまい、料理そのものの出来栄えが霞んでしまう。
甘鯛の鱗焼き。ミリ単位で計算されているのではないかと疑うほどの美しいウロコ。スープはカブに松葉ガニ。魚の下に松葉ガニがウジャウジャと潜んでおり、先日のきた福でカニに対する興味が芽生えた私としてはあげぽよな瞬間です。食感は甘鯛で、味わいはスープでとトータルコーディネートされた味覚に拍手喝采。
ここから先は料理に合わせてペアリングで。

「え!?サロンも高いの!?あれ、飛行機で飲むものだと思ってた」と先述の彼女。
ちなみにサロンとは一般的に流通しているシャンパーニュの中では最も高価なものであり、機上ではJALのファーストクラスでのみ取り扱いがなされています。
一度茹でて硬度を減じた後に改めて焼きを入れたイノシシ。ここまで旨い肉料理は記憶を辿っても私のHDDの中には見当たらない。肉の柔らかさも脂の量も緻密に計算されているのか、本来は野生的であるはずのイノシシが極めてエレガントなものに仕上がっています。付け合せのクリのペーストも組み合わせとして完璧。

彼女もひたすらに「イノシシ美味しい!クリも最高!」と悲鳴のような感想をあげています。「お前はクリが好きだからな」と連れが往なすと、「も~なにいってんの~!やだ~!」とバシバシ連れの肩を叩き始める。なにいってんの、はオマエだ。
合わせるワインはコチラを
こんな感じに。そう、液面に浮かぶはスライスされた黒トリュフ。発想が道楽者である。個人的にはワインはワインのみで楽しみたかったのですが、そこはまあ好みでしょう。
メインはホロホロ鳥。左のムネ肉は皮目がパリっとした食感で見た目以上に軽やかなしながり。肉質には水分をたっぷり含んでおり実にジューシー。右のモモ肉は炭火で。グラマラスな香りにやられ、思わず恋に落ちそうになります。ソースも出色の出来映え。卵の黄身のソースに黒トリュフのソースなのですが、とりわけ黒トリュフのソースが心に残りました。やはりフランス料理とはソースである。
おや、合わせるワインはアメリカもの。新世界を感じさせない上品な仕上がりではありますが、ここはひとつフランスワインを飲みたかった。全体を通してワインは課題かもしれません。素人の私が大それたことは言えないのですが、もう少し組み合わせの妙が、ここではないどこかにあるような気がします。
デザートはマンゴーのバラ。あまりの美しさにため息しか出ない。食べ進めていく際の食感の変化も計算済。1枚1枚の厚みも緻密に調整しているのです。マンゴーの美味しさは勿論のこと、脇を固めるクリーム陣も手抜き無し。人生で最も旨いマンゴーであった。
ちなみにマンゴーは北海道産の「白銀の太陽」。マンゴーって南国特有の果物だと思ってました。知らないことがまだまだいっぱいあるなあ。ちなみに先ほどウェブサイトで価格を確認すると、大きなサイズで1個19,440円でした。
そのマンゴーをソーテルヌに漬け込む!ぎゃああ!美味しい!なんて見事な香りなの!これはデザートに合わせるワインというか、これ単体で極上のデセールとして成立し得る感動的な液体です。この度胸の良さ、かどわきの「トリュフのハチミツ漬け」を彷彿とさせます。
お茶菓子はガトーショコラなのですが、凡百のショコラティエをしのぐ腕前であり、兎にも角にもカカオの風味が素晴らしい。これが本物のチョコレート菓子だよ、と、巷間に流布する砂糖の塊に説いて周りたいほどのレベルです。
お茶は阿里山茶という、台湾の大変高級なお茶とのこと。なるほど沸き立つ雅びやかな香りに清澄で繊細な味わい。渋みやエグみなど1ミリも見当たりません。

私にとって2017年で最も美味しい食事でした。全ての皿が完璧に美味しい。これってすごいことで、普通はおなかが膨らんでいくのと反比例して料理への感動は薄れていくものだけど、当店は常に一定のレベルを超えてきます。

やはり美食の行き着く先はお抱えの料理人なのかもしれません。大箱での食事は料理人が複数入り混じり、凡庸なレベルへと収斂されていく。当店のようにひとりの達人がひと組のお客にのみに集中することこそが料理の究極形ではないか、そんなことを考えさせられた食事でした。「料理の鉄人」などテレビで観る料理はどれも美味しそうなのに、実際にお店を訪れると大したことがないように感じることが多いのは、そのせいなのかもしれません。

12月にはクリスマスが控えておりケーキ作りに集中する必要があるため、レストランの営業は殆ど行わないとのこと。次回お邪魔できるのはいつになるのかなあ。お会計はひとり4万円弱と決して安くはありませんが、その価値は充分にあり、むしろ感動と思い出をその値段に買えると思えばリーズナブル。

ちなみにシェフは未だ20代半ば。天才か。将来は一体どうなっちゃうんだろう。


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