オルタナティブ(Alternative)/六本木

六本木と西麻布の中間。六本木通りに面した、あえてハッキリ言えば超ボロいビルの2階にあり隣は洋風居酒屋と、高級フランス料理店としてはヘンテコな立地です。
斉藤貴礼シェフは神戸「御影ジュエンヌ」渋谷「ラ・ブランシュ」で腕を磨いたのち渡仏。帰国後は銀座「ラール・エ・ラ・マニエール」や「プロヴィナージュ」でシェフを務め、「プロヴィナージュ」の前経営者より店を引き継ぎ、「オルタナティブ」としてリニューアルオープン。雰囲気のあるイケメンです。
ワインはペアリングでお願いしました。料理とワイン5杯のセットで2万円ポッキリと素敵な価格設定。ソムリエは淀みなく物事を説明する理論派であり、かなりのワインヲタクとみた。
ゴマ豆腐のゴマ部分をトウモロコシに置き換え(オルタナティブ!)、揚げてトリュフを塗したアミューズ。外皮はカリっと、中からは液状化現象を起こしたトウモロコシがトロトロと流れ出て、最初から手の込んだ1皿です。
ハモの内臓やスッポンのエンペラなどを用いた薬膳スープ。こちらで内臓を調えてからいよいよ饗宴のはじまりはじまり。
ハモのフリットに酢飯を乗せ、筋子をトッピングし海苔で巻いて頂きます。これは、ズルい。日本人であれば誰でも旨いと言わざるを得ない味わいです。美味しいけれどフランス料理としてはちょっと反則。海原雄山が怒りそう。
酢飯の酸に歩調を合わせてドイツのリースリング。なるほど料理合わせてきちんと練られたペアリングです。
白イカのトムヤムクン風。丁寧に処理された透き通るような白イカに、トマトをベースとしたトムヤンクン風味のソースを。これは企画倒れ。やりすぎ。はっきり言って不味い。素材の美点を簒奪しています。シンプルにワサビ醤油で食べたほうが美味しいでしょう。
合わせるワインもスペインのどす黒いテンプラニーリョと謎。マイナスかけるマイナスがプラスになるとは限らないのだ。
パンはちょっくら変わっていて、水分は抜けているものの噛み応えと酸味は強いといった不思議なものでした。
スッポン。バリっと焼いてシンプルに調味。これは抜群に旨い。強めの味付けがスッポンの滋味の強さに負けておらず、実に食べ応えのある1皿です。ゴム手袋を装着して手づかみで余すところなく食べ切ることができるのも良い。
合わせるワインはカリフォルニアのオレンジワイン。旨味が強く、スッポンの凝縮感に勇敢に立ち向かう味わい。量もたっぷり注いでくれ、ポーションの大きい料理とバランス良く楽しむことができました。
メインは鳥取産のシカ。大きな塊肉を豪快に焼き上げ、美しいロゼ色にナイスカット。熟成させたジャガイモも密度の高い味わいであり、濃厚で酒を呼ぶソースも見事。この皿に限っては非常にクラシックなフレンチに仕上がっており、シェフのフランス料理人としての矜持を肌で感じることができました。
ワインはシチリアの聞いたことのないブドウの赤。これが、旨い。ボルドーほど重厚感はなく、グイっと飲めてしまうのですが、黒系果実のジューシーな味覚も強く、個人的にかなりツボな1杯です。料理にもピッタリ。
デザートの前に、本日用いた食材のエキスを煮だしてスープとして頂きます。しみじみと美味しく、冷蔵庫に常備したくなる親しみやすさでした。
デザートは桃のコンポートにバニラのアイス、山椒のシャーベット。桃の上品な甘さに濃厚なバニラ、山椒の爽快感が折り重なり、センスを感じる締めくくりでした。
以上、飲んで食べて2万円ポッキリ。立地や従業員の多さを考えれば相当にお値打ちな価格設定です。料理の方向性は元麻布「エクアトゥール(L'equateur)」に近い。もっと単価を上げればよりストレートに美味しい料理に仕上がるのではないでしょうか。他方、リーズナブルな価格設定に釣られてフレンチを食べ慣れていない若いカップルなどが訪れると、ちょっと首を傾げてしまう場面があるような気がします。ある程度フランス料理を食べ込んだハイアマチュアと共に、創作料理を楽しむつもりでお邪魔しましょう。


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