Yd'or(イドル)/代官山

2024年夏に代官山で開業したフランス料理店「Yd'or(イドル)」。店名はフランス語の「Y」(一度行ったことがある場所)と「D'or」(黄金)を組み合わせた造語であり、「特別な体験を提供する場所」を意味するそうです。代官山の凄いツタヤの近くです。
私の大嫌いなフランス料理店「サンプリシテ (Simplicité)」の居抜きであり、20席近くありそうです。一斉スタートの店なので、基本的にはカウンター席を利用しているそう。目の前で調理工程が進捗していく様を見るのが楽しいです(写真は食べログ公式ページより)。

金川大輝シェフは赤坂「Lyla(ライラ)」やフランス「La Marine(ラ・マリーヌ)」といった名高い厨房を経ており 、外苑前「l'intemporel (ランタンポレル)」ではミシュラン1ツ星を獲得した実績があります。
ワインにつき、安いワインは高い値付けで、高いワインの値付けは安め。ひとり1本ペースで飲むと総額4万円を超えて来る、なかなかの高級店です。
ロールキャベツ的な料理から始まります。当店は「榛名めん羊牧場」の羊を多用するスタイルであり、羊肉特有の官能的な香りが食欲を刺激する。清澄なスープの味わいも上品です。
キッシュロレーヌにムラサキウニを大胆に盛りつけます。濃厚な卵とクリームの風味ウニの磯の香りとクリーミーな甘みが融合します。サクッとしたタルト生地にウニの滑らかな舌触りがアクセントを加え、塩気と甘みのバランスが絶妙です。
神経締めのアジのマリネと新ジャガイモのニョッキ。シェフは広尾の「すし良月(あきら)」でも経験を積んだそうで、魚の取り扱いにも一家言あります。マリネの軽い酸味がアジの甘みを引き立て、また、新ジャガイモのニョッキはモチっと柔らかで、ほのかな甘みと土の香りが広がります。
榛名めん羊牧場のホゲットを串焼きの炙りで頂きます。ホゲットは12~24カ月の羊肉であり、ラムより深みのある旨味とマトンより癖の少ない柔らかな風味が特長的。表面を炙ることで、香ばしいかおりとジューシーな肉汁が際立ち、ほのかな甘みと野性味が調和します。
タルトフランベには新タマネギとウチワエビを組み込みます。薄くサクッとした生地に、甘みが凝縮された新タマネギの優しい風味が良く合う。ウチワエビは伊勢海老に匹敵する濃厚な甘みとプリッとした食感が印象的で、軽く熱が通り甘味が更に増しています。
長良川の天然の鮎。発想としては悪くないのですが、曖昧な味覚であり印象に残り辛かった。緑のソースの酸味をもっとパキっとさせるほうが私好みかもしれません。また、私は岐阜でさんざん鮎を食べてきたばかりというタイミングの悪さもありました。
パンは素朴で穀物の風味を活かしたタイプ。全体を通して味の多いコース料理なので、これぐらいシンプルな味覚でちょうど良かったです。
コルドンブルー。フランス料理の古典的なひと品で、肉にハムとチーズを詰めてパン粉をまぶし、焼くまたは揚げる調理法を指します。当店のそれはウズラをKFCよろしくカラっと揚げており、サクサクと軽やかな食感です。
青いぜんざい。緑色の豆を用いたひと品なのですが、「ぜんざい」と言うには甘味が中途半端な気がしました。当店にとって緑色の料理(またはソース)は鬼門かもしれません。また、私は大阪でスペシャルなスイーツを食べてきたばかりというタイミングも悪かった。
キジハタとソースヴァンブラン。キジハタは「白身の王様」と称される高級魚で、淡白ながら濃厚な旨味と弾力ある食感がデリシャスです。ソースヴァンブランは白ワインをベースに、エシャロットやバターで仕上げたフランス料理の定番ソースで、酸味とコクがキジハタの甘みを引き立てる。これぞフランス料理と快哉を叫びたくなるお魚料理です。
エゾジカのタンを赤ワインを土台にじっくりと煮込んだひと品。しっかりと煮あがっており、赤ワインのコク深いソースが肉の野性味を引き立てます。とても美味しいのですが、このあと鴨のロティを待ち構えている中で、あまりに濃厚な気がしないでもない。
お口直しにイチゴのエキス(?)。イチゴの酵母を用いた酸味のある液体であり、続く肉料理に向けて味蕾をリセットします。
メインは「銀の鴨」のロティ。青森県産の高級ブランド鴨であり、柔らかく繊細な肉質と深い旨味が特長的。皮をカリッと焼いてジューシーに仕上げており、脂の甘みを上手く引き出しています。キジハタに続き、これがフランス料理だと言わんばかりの真っ当な肉料理でした。
ひと品目のデザートはアメリカンチェリーのスープ。甘みと程よい酸味が心地よく、濃厚な果実味がスープに凝縮されています。添えられたアイスクリームと共に、シンプルながら極上の味覚です。
〆は天神麦茶とキビ砂糖を使ったアイスクリーム。白砂糖に比べてコクがあり優しい甘さが印象的。天神麦茶由来の深い焙煎香が心を落ち着かせてくれ、郷愁を誘う味覚です。
焼いたチュロスをお茶菓子に紅茶でフィニッシュ。ごちそうさまでした。

以上のコースが2.2万円で、酒やら水やらでお会計はひとりあたり4万円と少し。思っていたよりも高かったな、と思いつつ、いま写真を振り返ってみると、こんなに種類と量を食べたのかと感心します。

料理は「l'intemporel (ランタンポレル)」で時代よりも自由でのびやかで、好きなことを好きなようにやっているという印象。ただ、皿数が多すぎて私のような素人にとっては処理し切れない面も否めないので、もう少し選択と集中を進めた上で整理して欲しい。何年か経ったらまた来てみようっと。

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