Troisgros(トロワグロ)/Ouches(フランス)

現代のフランス料理を語る上でトロワグロ・ファミリーは最も重要な一家のうちのひとつです。音楽で言うビートルズ的な存在。初代ジャン・バチスト・トロワグロがレストランを開業し、2代目のトロワグロ兄弟(ジャンとピエール)で現在の評価を確立。3代目ミッシェル・トロワグロは日本への進出も果たし2ツ星を獲得。本店のこちらは50年連続でミシュラン3ツ星を維持しており、現在はセザール・トロワグロが4代目シェフとして奮闘中。1986年生まれの31歳で、松浦亜弥と同い年です。
さてそのフランス料理の名門中の名門であるトロワグロ一家なのですが、トロワグロの形容詞とも言えるロアンヌの地を離れ、さらに郊外(はっきり言って田舎)のOuches(ウーシュ)という村に移転して話題となりました。
ワーオ、なんてカッコイイ飲食店なのでしょう。リヨンから電車でロアンヌまで1時間、さらにそこからタクシーで20分。お金と時間をたっぷりかけてようやく辿り着けた聖地であるため感動もひとしおです。
敷地内には馬がのんびりと過ごしており、居心地のよい田園風景を演出しています。野菜やハーブなどはこの地で育てているそうな。
散歩から戻ると、スタッフがバーでのアペリティフを勧めてくれます。もちろん予約時間通りに食事を開始しても良いのですが、せっかくの機会なのでのんびりと食前酒を楽しむことに。フランスのレストランは2回転など無粋なことはせず、予約時間が結構適当だったりするので、このようなアドリブが許されます。
シャンパーニュをボトルで。ルロワが手がけるトロワグロのPBです。柔らかな炭酸に果実味が強く、飲み応えのある1本でした。ちなみに飲料は(フランスにしては)全般的に高め。コチラは確か1.5万円程であり、主力選手も大方2万円クラスが多かった気がします。
アミューズはグリーンピースのタルトにアーティチョークをグルグル巻いたもの。結構なポーションであり中々に腹が膨れます。
なんだかんだで小一時間もバーで過ごした後、ダイニングへ移動。壁の全面がガラス張りであり開放感に抱かれます。
1番バッターはハト。トマトやベリーなど酸味主体の味覚と共に調味されており、上手くまとまった一皿です。ミッシェルは「世界中ほとんどどこでも、酸味が料理をまとめ、料理に輪郭や方向性を与えている」とし、料理において酸味をとても大切にする芸風です。
パンはブリオッシュ。バターの香りが豊かでグッド。
牛乳で作った白いゼリーな皮の下に多種多様なキノコが敷き詰められています。調味が極めて薄く、キノコの苦味が悪く目立ちました。うーん、これは全然美味しくないというかむしろ不味い。しかし妻は美味しい美味しいと言っていたので、人の好みなどわからんもんです。
こちらはお好み焼きのような品。キャベツをパリパリに焼いた上でカタツムリを忍ばせます。キャベツの滋味が濃く、カタツムリの歯ごたえもグニグニと楽しい。また、このような料理にも酸味をきかせているのが興味深かった。
アンコウ。身そのものは非常に淡白に仕上げているのですが、ソースにカレーの風味がきいており、日本人の我々としてはホっとする味覚。ソースの器を脇に置いておいてくれ、追加したければいくらでも注ぎ足ししても良い仕組みがうれしいですね。
ここまでは順調だったのですが、途端にテンポが悪くなり、30分近くかかってようやくお出ましになったラングスティーヌ様。特に凝った調理というわけではなく、素材をそのまま楽しむといった趣向です。ポーションが小さく、1741GIRARDINでたっぷり食べてきた身としては物足りなく感じました。
メニューはアニョー・ド・レ。乳飲み子羊です。この肉は上質ですね。火入れも程よく、そのまま食べても唸るほど上手かった。付け合せのマッシュルームとほうれん草も抜け目のない美味しさ。ソースが緑がかっていて磯の香りが漂う不思議。海苔とか使っているのかなあ。醤油の風味もわずかながら感じ、龍吟のような前衛的な和食屋で出てきても面白い料理でした。
さてチーズ。この日もゲスト全員が同タイミングでチーズを所望するため、なんやかんやで20~30分も待たされました。日本人(というか私)ってセッカチなのかなあ。ワゴンはシェーブルが多く私好みのラインナップです。
地元の羊のチーズ(名称不明)、ブリア・サヴァラン、セル・シュール・シェール、コンテッセ・ドゥ・ヴィシーをチョイス。コンテッセ・ドゥ・ヴィシーはあまり日本に流通しておらず、私も食べるのが初めてだったのですが、とても好きなタイプです。牛の無殺菌乳に生クリームを加え、モミの木(エピセア)の樹皮を巻いて熟成。リッチな口当たりにほんのりと木の香りが加わって、濃密かつ濃厚。
給仕より「デザートを待つ間に厨房をご案内しますが~」との申し出。オシャンティなカーブを通り抜けると、、、
広大なキッチンが広がっています。これは客席よりも広く、おそらく私が今までにお邪魔したレストランの厨房で一番広いと思います。視聴覚室3つ分ぐらいの面積があり、ミーティングスペースがあったりして面白い。3代目ミッシェル・トロワグロ本人が笑顔で出迎えてくれ、日本から来たと伝えると鬼の力で抱きすくめられました。
ダイニングに戻り、デザートへ。デザートなのに「卵でーす」のようなノリで供されるのですが、
中身はしっかりとスイーツでした。殻はチョコレート、中身はムースと言うかプリンというかそんな感じです。黄身は南方系の果物のソースです。今あなたがイメージしている味そのものでありそれなりに美味しいのですが、絶品というわけではありません。
「730の葉」と題したデザートは、一見したところ普通のミルフィーユです。ううむ、意図が不明である。ちなみに料理に引き続きこちらも酸味が主体で、やはりトロワグロ一家の重要なテーマなのでしょう。
ミニャルディーズはすごく美味しいです。レモンのタルト、フランボワーズのタルトはやはり酸味が重要な構成要素。個人的にはチョコレート味が心に残りました。
お会計はひとりあたり4万数千円。うーん、ちょっと高いなあ。ポールボキューズオーベルジュドリルと同じ酒量であり、満腹感はそれほどでもないのに数万円高いのはいただけません。かといって料理の質が突き抜けており創造性が記憶に残るかというとそれも違う。加えてお会計からタクシーを呼ぶまでのオペレーションの連携が酷く、電車の時間が間に合うのかヒヤヒヤしたのが残念な思い出です。

立地や世界観を含めると唸る部分は多々あるのですが、純粋に食事という意味では私のタイプではありませんでした。ただし妻は今回の旅行を通じて一番良かったと述べているので、まあ、人それぞれなのでしょう。


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ミシュラン3ツ星を50年以上維持する3軒のレストランを巡る旅」目次

「東京最高のレストラン」を毎年買い、ピーンと来たお店は片っ端から行くようにしています。このシリーズはプロの食べ手が実名で執筆しているのが良いですね。写真などチャラついたものは一切ナシ。彼らの経験を根拠として、本音で激論を交わしています。真面目にレストラン選びをしたい方にオススメ。

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